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アリ対キリギリス  作者: アリ対キリギリス!!!
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アリ対キリギリス

「夏! あたしの夏が、ついに到来したわ!」


 長くしなやかな緑の足を両側頭から垂らし、活動的な服装をしたキリギリスちゃんは両手を腰に高笑いをしました。

 森の季節は夏。春からの長い長い幼虫時代を切り抜け、大好きな日当たりのよい開けた森の外へと、ついにキリギリスちゃん念願のオトナ姿で出てこれたのだ!


 もちろん、オトナだからと楽な人生になる訳ではありません。

 辺りを跳ねる鳥ちゃんから隠れ、


「ピ……ピ……チュンチュン、チュン……」

「うひゃ~~……でけぇ~~……」


 腕を畳んで待ち伏せる凶暴巨女、ギョロ目カマキリちゃんから逃げたり、


「シィー……ハァー……シィー……ハァー……」

「ヒッ!? み、見つかるとこだったぁ……」


 時にはカマキリちゃんとの格闘の末、喉を食い千切り、


「ビガギャギャギャギャギャ……!?」

「んぐぅうううう! んぎぎぎぎぃ~っ……!」


 様々な脅威から隠れながら隙を見て演奏を繰り返し、産卵に向けて頑張るのだ。

 これが茂みの女帝、キリギリスちゃん天下の夏だった。


「ラ~ララ~♪ ラ~ララ~……♪」


 さて、そんなある日。いつもの長草デッキに座っていると、ふとある森の仲間が目に入った。


「ラ~ラ……んっ?」


 茂みの合間に見え隠れする、黒く小さな艶々の体。それは幼女と間違えるほど、小さな小さなアリちゃんだった。

 不釣り合いに大きな植物のタネを抱えて、どうやら仕事の最中だ。


「うげェ~っ……アリ! み、見つかる前に逃げないと──」


 しかし、さすがはキリギリスちゃん。逃げる前にと気がつきました。


「……ギチギチ、ギ~チギチ……」

「あン? あいつ、もしかして……」


 キリギリスちゃんは手を叩いて飛び上がりそうになるのを堪えました。


("はぐれ"だ! ラッキー。ちょうど小腹が空いてたのよね~!)


 不安げに辺りを見回し、触角をしきりに動かすアリちゃん。野生の中にはこういった個体もしばしばいるのだ。

 キリギリスは抜き足さし足、確実に仕留められるようアリちゃんの背後へと忍び寄りました。


 後はこのまま長い手で背後から捕まえ、頭や手足を抑えて食いつき、バラバラに散らして食料ごとおやつにしてやるだけ。

 キリギリスちゃんは過去にも同じことを少なからずこなしてきて、失敗するとは夢にも思いません。


「……んっ?」


 さすがはキリギリスちゃん。手遅れになる前に立ち止まりました。

 アリちゃんの元に、なんとまた別のアリちゃんが! 迷子アリちゃんは顔をパッと明るくして、触角で互いを確かめ合います。


「ギ~チギチギチ、ギチギチ……!」

「ギチギチギチ! ギチチ……」

(ぎぇ~……! な、仲間! や……やめとくか今日は。お、お腹そんなに空いてないし……)


 キリギリスちゃんは口を両手で抑え、身を潜めました。下手に片方だけでも逃がしてしまえば、増援を呼ばれるからです。

 たった2匹のアリを恐れるキリギリスちゃん。しかし、これにはワケがありました……


 少し前、先輩の巨女キリギリスちゃんが言いました。


「アリどもなんてな、あんな小さいヤツらにあたしが負ける訳ないだろ! 見てな、いくら集まろうとこの肉体で圧倒してやるよ!」

「すごーい、先輩!」


 体格の大きい先輩は、筋肉も逞しく、態度や言葉も強く、キリギリスちゃんには憧れでした。

 事実、アリちゃん数匹を見つけてからは、それはもう無双というもんです。


「ハッハッハ! オラァ~ッ!」

「ギチィ~ッ!」

「ギチギチ、ギチチ!」


 アリちゃんの首が噛み千切られ、他のアリちゃんが口を開けて先輩に飛び付きます。

 しかし先輩は逞しい腕を伸ばし、飛び付いたアリちゃんを宙吊りにしました。


「ギチッ!? ギッ……ギ……」

「あははは……ほら、食らいなチビィ!」

「ギチィッ!?」


 さらに背後から迫る他のアリちゃんに、捕まえたアリちゃんを叩きつけます。しかも即座に先輩は飛び付いて噛みつき、2匹のアリちゃんをバラバラにします。

 残された最後のアリちゃんは、盛んに触角を動かします。


「ギチギチギチ! ギチギチギチ……!」

「ハッハッハ! 威嚇かい? 可愛いねぇ~!」

「先輩、かっこいい……!」


 先輩は強気に最後アリちゃんに歩み寄り、茂み陰に隠れて見ていたキリギリスちゃんは涎を拭いながら、料理の仕上げを待ちました。

 その時でした。


「──ギッ!」

「イデッ!? あ? 何だ、まだ居たの──」


 先輩の逞しい筋肉足に、新たなアリちゃんが噛みつきました。

 先輩は容赦なくアリちゃんの頭を掴み、


「ギッチ、ギチ!」「ギチギッチ、ギチ!」「ギチチ、ギィッ!」

「──は? え、待……いつの間、に……」

「ギイッ、ギチギチ!」「ギチチッ、ギィ!」「ギギギチ! ギギチッ……」


 草の隙間から次々と、新たなアリちゃんが現れました。

 どんどん、どんどんと。どんどん、どんどん。どんどんどんどんどんどんどんどん。


 わらわら、うじゃうじゃ。わらわら、うじゃうじゃ。

 さすがにキリギリスちゃん、ヒィと声が漏れそうとなりました。


「上等だ、テメェら! 1匹残らず平らげ──ぎゃあっ!?」


 アリちゃん達の頭や腕を引き千切りながら、多数のアリちゃんが群がる先輩は怒号の途中で悲鳴をあげます。

 しがみついたアリちゃんが先輩の耳を噛み千切ったからです。


「イッ……! く、やめろテメェら! こら、どこ掴っ──いギャアっ!?」

「ひぃ……ひぃいいい……! 先輩ぃいいい……」


 アリちゃんの何倍も背の高い先輩は、ついに押し倒され、アリちゃん達で見えなくなりました。

 ギチギチ、ギチギチ。鳴き声にそしゃくの音が混じり、キリギリスちゃんは構わず逃げ出します。


 やがてアリちゃんは辺りを捜索し始めます。が、既に逃げ出したキリギリスちゃんは見つからずに済みました。


 ……と、まあそんな苦い思い出があるため、キリギリスちゃんはアリちゃん2匹でさえ警戒して逃げるのです。


「ひ~……くわばら、くわばら……」


 しかし、まあ。野生の世界にお店もないもの。こうしてご飯にありつけないと、寝るまで探し回るか、諦めて夜を凌ぐしかないのです。


「うぅ……お腹空いたぁ……はぁ……」


 頑張れ、キリギリスちゃん! まだ夏はこれからだ!


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