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ファウスト(人魚姫)〜人魚仮面の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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9/11

第九幕:サメの目

【第九幕】

やあ、君。

ずっと一緒にいても伝わらないこと、ーーよくあるよね。

たとえばボクが君を大切に想ってても、君には伝わらない。

言葉にしても、きっと伝わらない。


誤解しないで。

言葉は偉大だ。

けれど、ボクらは本当に使いこなせているのだろうか。

模倣として貼り付けた技術の奥底に、ボクらの心を、魂をつなげるものはあるのかな。


 第八幕では、海から聴こえる歌と貴公子のトラウマが出てきた。ボクらの人魚姫も、声を失っても得るモノがあった。それを見た。そうだね?


人魚姫と貴公子の二人のキスは、互いを引き離せない絆のようなものだった。静かな人魚姫を貴公子は求めた。

彼の弱さによっても、人魚姫を求めたんだ。

彼は彼女が話せなくて良かったと、

心の底から思っていた。


なぜボクが知ってるかって ?

時々、彼は独り言をしたんだ。

 

「ああ、なんてことだ。あの女に知られてしまった。私の秘密を。怯えを。

だけど安心してる。知られても秘密がバラされることのない安心感だ。

だけど、彼女がウソをついてたら?

本当は話せて、

歌なんかを歌える女だったらーー?」なんて一人で呟いてた。


彼は監視するように、人魚姫を近くに置いた。表向きは介護だが、中身は不安な監視だった。


彼は彼女にセリーナと名付けた。

名前がないと不便だからだ。


彼女が何を考えてるのか、

正直なところボクには分からない。

だって、言葉を使わない。

表情も完全に心を表してない。

だから時々、想像に頼らなきゃならない。


さて、貴公子の散歩は終わらない。

どんなに不思議なことがあってもだ。

例えば、沖の方で叫び声が起こった。

人が溺れていた。

彼は持ち前の正義感で、海に近づこうとした。

だが、彼女が必死になって止めた。

彼は彼女を冷たい人間だと思った。

別の日には、もっと近くで声がした。

別の日にも、彼女は彼に海の中へは入らせない。

彼の名前を呼び、

手招きする手があってもだ。

彼女は彼の道を塞ぎ、唸った。


ある時、人魚姫は海岸に一人でいた。

貴公子の具合が悪く、彼女だけが外に出ていた。

海から五人の女が現れた。彼女たちは、美しい髪を持つ人魚だ。

黒い髪の女が、彼女に話しかけた。

 

「妹よ。なぜ、邪魔をする?」

 

彼女は姉に何かを言おうとする。

だけど、言葉にならない。

長い沈黙。やがて姉は首を振り、他の人魚と共に海の中へと戻っていった。

ボクらは、その光景を見たんだ。


ある日のことだった。別荘で働くメイドの一人が子を産んだ。

赤ん坊は、まるまるとして愛情をたっぷり受けていた。

清潔な服に身を包まれて、ちっちゃい手をばたつかせていた。

貴公子は、人魚姫に赤ん坊を抱かせようとした。

 

「セリーナ。見てくれ。

ーーかわいいな」

 

人魚姫は、その赤ん坊を見た。

それが不味かった。

貴公子は彼女の目をサメだと思った。

そして人魚姫は、

赤ん坊を見てやってはいけないことをした。

これが二人の仲を切り裂いた。容赦なく。


何をやったかって?


ーー舌なめずりだ。


貴公子は、それを見て判断した。

すぐに彼女をその場から遠ざけた。

 

「ーー出ていけ。この部屋から!」とね。


部屋にいた人たちは、彼女に目を向けた。


(こうして第九幕は、サメの目で幕を閉じる)


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