第八幕:恋の進展
【第八幕】
やあ、君。
人は良いようにも、悪いようにも考えてしまう。どちらも必要なことだ。
けど、どちらも行き過ぎると害悪でしかない。
良いことだけじゃなく、悪いことも必要だ。
悪いことだけじゃなく、良いことも必要だ。
そうだね?
無理に明るくやるのは、危険な時がある。仮面をつけすぎると、本当の君が壊れる。
――自分らしさは、大事なんだ。
第七幕では、海岸で貴公子に拾われた人魚姫の、最初の頃の様子を見た。
あの後、長い時が流れた。
見た感じ、人魚姫は変わっていった。
変わった理由かい?
貴公子の献身的な介抱と、
周囲の理解によってだ。
まず、彼女は料理人に気に入られた。
自分が作った料理を、美味しそうに食べてくれるからだ。
料理人は、毎日彼女のために作るから、彼女が好きになった。
メイドは彼女が嫌いだった。
彼女のいる部屋の中に、海岸から拾ってきたモノが増えていったから。
時には臭いに耐えきれずに、焼いたものさえあった。人魚姫がくちゃくちゃと音を立てて食べてたら、吐き出させていた。
執事は、人魚姫をメイドに任せっきりだったが、貴公子に彼女の身元を調べるように忠告した。
他には、いろんな人間と彼女は関わるようになった。
さて貴公子は毎日、
人魚姫と海岸の砂浜を歩いていた。
目的は女探しだ。
彼は良いように考えてた。
彼の中の彼女は、もっと理性的な女だからだ。
食事中にうならず、微笑む女が欲しかった。
だけど貴公子には、ある病があった。
彼の魂を怯えさせるほどのね。
彼は声が、特に歌が怖かった。
あの嵐での後、彼は音に警戒するようになっていた。
特に女の歌うような声が。
それを聞くだけで、彼の端正な顔は苦痛に歪み、顔は蛇に絡まれたようなアマガエルのようになった。
人魚姫が、その事を知ったのは最近だ。
貴公子と海岸を散歩をしていると、
歌が流れてきた時の事だった。
歌の内容は、こうだった。
愛しい人を見かけて、
胸をときめかす。
横顔をみるワタシだけと、
歌だけでも、アナタの前に。
その顔は美しい。
風に撫でられ、髪を揺らす。
ワタシはきっと目が離せない。
もっと近くに。
海のそばに。
恋人なっておくれーー。
情熱的な歌声が海から聴こえた。
太陽は沈みかけ、地平線のかなた。
空は赤く血のようだ。
風は生温かく、
まるでーー体内にもぐるかのようだ。
彼は雷に打たれたように立ち止まった。ふらつく身体を人魚姫に預けた。
彼女はふらつくが、踏みとどまった。そして海に向かって、唸った。
歌声は止まった。
貴公子は彼女の肩の上で、吐いた。
痙攣が止まらなかった。
彼女はしゃがみ込む。
貴公子は、息を吐き続けていた。
彼女は彼を抱きしめて、
頬にキスをした。
貴公子もキスに応えた。
軽く震えるようなキス。
お互いの頬に。
ーーただ、それだけさ。
(こうして第八幕は、二人のキスで幕を閉じる。)




