第六幕:キレイな歌声
【第六幕】
やあ、君。
ぜったいに関わってはいけない人は必ずいる。それこそ、悪魔のような人間だ。どんなに願いを叶えてくれると囁かれても、手を伸ばすのはやめるべきだ。君がマトモならね。
でもーー、
君がマトモでなかったらーー。
話は別になる。この警告はムダになる。
全てが、ムダになるんだよ。
第五幕では、ボクらの人魚姫が嘆き、詩を歌った。そんな彼女に惹かれて魔女が現れた。
水面から顔を出した魔女は、周囲を見まわした。
魔女を見つめる人魚姫の手の届かない距離だ。
「キレイな歌声が聞こえたーー。
だけどーーやんだ。
これはアタシのせいなのかい、
お姫さま?」
魔女は錆びた鉄をこするように囁いた。彼女の口からは、
錆びた悪意が舞った。
それが人魚姫の首を絡めようとする。
「あなたのせいでは、ないわーー」
人魚姫は言葉を続けた。
「歌の続きを考えてなかったの……」と彼女は頬を薄い桃色に染めた。
「キレイな顔、キレイな声、
二つ揃えば夢を叶えるのは楽だろうよ」と魔女は羨望と嘲笑を交えて言葉を話した。
「もう一度、歌ってごらんよ。お姫さま。こんどはアタシの目の前でーー」
人魚姫は目を細めた。
そして歌い出す。
海の重き法に、
私は逆らい地上を求む。
胸の想いが囁くからだ。
地上に行けと、
地上の星が手招くーー
「おいで、おいで」と、
呼ぶ声さえ聞こえる。
未知の世界が開かれた。
ただ一つの問題はーー
魚の脚では歩けない。
「魚の脚では歩けない。
ーーそうだとも、賢い。
かしこいねぇ、お姫さま」と魔女は彼女の方に少しだけ近寄った。
人魚姫の目は更に細まった。
「アンタはわかっている。欲しいものが、ハッキリと」と魔女はガラガラの声で、言葉をつくった。
キレイな顔、
キレイな声、
二つ揃えば夢を叶うの
楽だろう
そこに手段が加われば
もう怖いものはない
夢はお前のモノになる
アタシも得られるモノがあるーー
ここで、人魚姫は彼女の正体を告げた。
「ああ、魔女さん。
怖がらないで、近くに寄って。
あなたを誰が傷つける?
欲しいものを互いに見せて。
二人は海の友となろう。
ワタシは地上に行きたい。
行かねばならぬ。
あなたの欲しいもの?
それすら、ワタシは惜しみなく出そう。
さあ、海の友。
もっと近くにーー友ならば。
畏れずに」
魔女は、じりじりと舟に近づく。
人魚姫の手が届く範囲、その中に。
時々、人魚姫の手がピクピクと反応した。
魔女はその度に立ち止まった。
そして、魔女が近寄れる範囲まできて、もう一度、周囲を見まわした。
「ーーお姫さま。
アタシは声がほしい。
キレイな、
キレイな声がほしい。
アンタの声がほしいんだよーー」
人魚姫の口が耳まで裂ける。
彼女は笑ったのさ。
(こうして第六幕は、キレイな声で幕を閉じる)




