第十二幕:蛇足
【第十二幕】
やあ、君。この物語で、彼女が救われてないように見えたようだね。
ボクは、どう語るか迷っていた。
これが蛇足にならないか、
心配もしてる。
でも、君のためだ。
ボクは続きを話そう。
まずは、魔女の最期だ。
魔法のナイフは彼女の正体を暴露した。
屋敷の人々は、槍や松明とかで、
魔女をめった打ちにした。
魔女は抵抗も満足にできずに動かなくなった。
その身体は焼かれ、地上は少しだけ安全になった。
次に、人魚姫だ。彼女も焼かれるはずだった。彼女の部屋を担当するメイドの女が、何も言わなければ、ね。
彼女は、こう言った。
「ジェームズさま。この方を、魔物として扱ってはいけませんーー」
貴公子は、怒鳴った。
「何を言ってる、アンデルセン!お前は、この場の状況をなんだと思っている」
彼女のラストネームは、アンデルセンだ。取ってつけたよう?
そんなもんさ。
ーーまあ、君、聞きたまえよ。
アンデルセンと呼ばれたメイドは、目をしばらく目を瞑って話し始めた。
「彼女は、アナタを守ったのです。
今まで命がけでーー
でなければ、
自分の胸など刺しませんーー」
貴公子の顔はハッとして、
目を見開き彼女を見た。
彼女の行動を思い返してた。
「だけど、彼女はバケモノだったーー」
吐き出すように、彼は真実を呟いた。
「物語の中で、彼女を美しくしてくれる者がいます。私の弟ですーー彼は目に見えないモノの話を、私に聞かせてくれました。」と彼女は顔をあげてみせた。
「彼に手紙を書きます。」
貴公子は、その話を聞きーー悩んだ。
「君の弟は私をマヌケ扱いしないか?」
メイドのアンデルセンは、
その日の夜に厨房で、
灯りをともした。
窓の外では、月が覗いている。
テーブルには、冷めかけた紅茶と、古びた便箋。
「弟よ、まだ夢を語っていますか?」
そう始まる手紙には、焼け跡の匂いと潮風の粉が混じっていた。
“この地でーー、ひとりの娘が泡になりました。
けれど、その泡は、
まるで言葉のように消えません。
あなたなら、きっと彼女を救える気がするのです。
同封してある日記に彼女のことについて書いてます。
追伸:私のことについて書かないで”
彼女は封をして、銅貨をひとつ同封した。
仕送りというよりは、願いの証拠のように。
そして、呟いた。
「どうか、物語にしてあげて。
あの子を、あの人魚を、
きれいなままに。」
さて、これで人魚姫の物語が始まる。
図々しいだって?
ーーそんなもんさ!
(こうして、物語はハンス・クリスチャン・アンデルセンへとバトンが渡された。
人魚姫よ、永遠なれ。
語る者がいる限り、君は泡になどならないのだから。)




