表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウスト(人魚姫)〜人魚仮面の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

第十一幕:崩壊

【第十一幕】

やあ、君。

故郷に戻れるのは希望なのか。

それとも敗北なのだろうか。


地上に夢を抱いて、

偽物を演じてまでたどり着いた場所。

そこには悪意を織り込んだ絨毯が、

敷き詰められていた。

キレイな道を歩みたい。

なのに、不浄なものは足を掴んで離すことはない。


さて、彼女はその日のうちに、別荘に戻ったよ。暗闇の中で、海からの囁きは止まらなかった。

彼女はナイフを持ち、深海を泳ぐかのように歩く。重い水底をゆっくりと滑るように、這うように、進むんだ。

抜身のナイフに身を切られぬように気をつけてね。

そのナイフは闇の中でも光を返すかのようだ。


別荘につくと、彼女はナイフを隠した。夜中、誰かにでくわすのを警戒してるようだった。

不幸なことに、彼女は誰にも遭遇することはなかった。

貴公子の部屋を知っていた。

彼は部屋の鍵をかけないのも、

知っていた。

彼は鍵は役に立たないと思っていた。

彼は閉じ込められるのも恐れた。


朝方のことだ。

太陽の光が部屋に差し込んだ。

彼はベッドに仰向けになってた。

毛布はかけられてない。

女は隣りで寝ていた。

彼らは疲れきっていた。

朝の光は彼らを起こすことはない。

彼女は、人魚姫は彼に近づいた。


海岸まで、彼を連れてきたのを思い出しているのかもしれない。

彼女は、やっぱり無表情に彼を見つめてた。

彼の記憶を残しておきたいみたいだ。

ジッと眺めて、彼の腰に跨った。

彼は反応した。

荒く息を吐く。

彼女は、そのままの状態でナイフを両手で握り直した。

それを頭の上、高く持ち上げた。

ここまでやっても、彼女の表情は変わらなかった。


高く掲げた腕の筋が、海の波のように震えていた。


その時、貴公子は薄目をあけた。

呻きながら、

彼女を見た。


「ああ、ーー君が......助けてくれたのかい?」

 

彼女は微笑んだ。

ーーそのまま、彼女は振り下ろした。

深く刺した。


ーー

ーー


ーー自分自身の心臓を刺したんだ。


貴公子は目を見開いた。

彼女は、そのまま彼の肩に覆いかぶさる。


彼女の心臓はやがて動きを止めた。


魔法のナイフは本物だった。

彼女の二本の足を奪い、

人魚の部分を露わにした。

彼女の命を代償に、真実は明るみに出た。


人魚だ。


太古の昔から、

人々をエサにした魔物の姿が、

彼女の死で露わになった。


やがて魔物は人の形を失い、

醜悪な捕食者としての本質を、

死して剥き出しにした。

目は白目を剥き、奥へと引っ込んだ。

愛らしい唇は失われた。

剥き出しになった剣のような歯が並んでた。

顎は垂れ下がり、その奥には、逆立つ棘が毛虫が這うようにうごめく。

手の水かきには広がる。

爪は鋭く指から突き出された。


彼女の、人魚の、本質だ。

貴公子は悲鳴をあげて、

彼女だったモノを押しのけた。


その時に彼女の腕は揺さぶられ、

隣に寝ていた女の首を掠めた。


ああ、女は飛び起き、喉を押さえた。

でもムダだった。全ては終わった。

彼女はタコの本性を剥き出しにし、美しかった顔は盛り上がり、触手が噴き出した。


貴公子は叫んだ。

屋敷内で誰もが目を覚まして、

彼を見にきた。


巨大な黒いタコが寝台でもがく。

その近くには、ああ、ボクはこういうべきだった。


ーー彼女は泡になった、と。



(ーーこうして、物語は幕を閉じたんだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ