第一幕:人魚姫の詩
第一幕
【物語】ファウスト(1)〜人魚仮面の幻視〜
【第一幕:人魚姫の詩】
やあ、君。
今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。
彼の壊れた魂は、
次の誰かに受け継がれた。
もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。
ボクが誰かって?
語り部ファウストさ。
ヨハン・ゲオルク・ファウスト。
君と共に物語を見つめる者であり、
君の友だ。
ねえ、突然だけど、
海の中を泳げる?
呼吸はどれくらい止められる?
なぜ訊くのかって?
ーー今回は海を舞台にしてるんだ。
深い深い海の底。
どんなに目のいい海賊ですら、
見通せない闇の中ーー。
今度のファウストの魂を引き継ぐ者がわかった。19世紀初頭。
北欧のデンマークの沖の海底。
そこの水晶宮の中で、彼女は生まれた。今は15歳ぐらいだ。
金の波打つ髪は肩まで漂い、
髪の間には真珠が絡みつく。
瞳は深い海の青。好奇心で煌めく。
肌は全体的に青白い。
しかし、頬は淡い桃色がのる。
唇はふっくらとしてたが、紫っぽい。
彼女は人間ではなく、生粋の人魚だ。
名前はセリーナとしておこう。
彼女は海の魔物だ。
名前が必ずしもあるわけじゃない。
月の下の海面でよく歌った。
このようにーー。
ああ、聴いておくれ
星たちよ
海の底の私の友
水面に漂い
私を空へと誘う友
どうか歌声に応えて
空の色
海の色
なんの違いが
泳ぐことが
なぜ叶わぬ
憧れは地上に
なぜかは知らぬ
夢に見ては
涙を求めてる
地上よ
そこは地獄なの?
海よ、空よ、
人と同じ足があれば
この想いは分かるのか?
そういうと、彼女は銀の鱗を月の光に照らすように、水面上を跳ぶんだ。月を身体全体で描くと水飛沫が、
まるで真珠のいっぱい入った箱をひっくり返すように散らばった。
彼女が去った後の、海。
静かなもんだ。
だけど、君、足元を見なよ。
彼女の姉妹の人魚たちは、水面下から星を恨めしそうに見つめてる。
色鮮やか海藻が、まるでタコが波を漂っているみたいだ。
しばらくすると、沈んでいく。
(こうして、第一幕は人魚の歌により幕を閉じる。)




