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とある聖女達の恋物語  作者: 九傷
シトリンの章①
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第四話 聖女国家ステラ

 


 話はとんとん拍子に進み、私とウラヌス卿の婚約はあっという間に成立してしまった。

 当たり前のように私に拒否権はなく、両親への連絡さえもさせてもらえないという……


 そして私は大急ぎで身支度させられ、サザンクロス大聖堂を追い出された。

 現在はウラヌス卿とともに馬車に揺られている最中だ。



「…………」



 向かいに座っているウラヌス卿は、頬杖をついて私に視線を向けている。

 私なんかを見て何が楽しいのかわからないけど、その表情は穏やかで僅かに笑みを浮かべていた。

 ジロジロ見られているというのに、どういうワケか嫌な気持ちにならないのが不思議だ。



「……やはり美しい」


「えっ!?」



 唐突に、ウラヌス卿が信じられない言葉をつぶやく。

 美しい……? まさか、私が……?

 いやいやいや、それはない。

 だって私は平民で、貴族とは違って化粧なんてしていないし、肌や髪の手入れも聖水で洗うくらいしかしていない。

 格好だって支給品の修道服のままだし――って、服に関しては手持ちで一番まともなのがこの服だった。

 もしかしてウラヌス卿は、この修道服を見て美しいと言ったのだろうか?



(優し気な紳士に見えるけど、実は何か特殊な趣味をお持ちなのかしら……)



 見た目は全くそんな風には見えないけど、実はとんでもない変態という可能性もないワケじゃない。

 いや、私なんかを娶ろうとするのだから、むしろ変態である可能性の方が高いかもしれない。

 私は恐る恐る、ウラヌス卿のことを観察してみる。



(…………ダメ。男の人が何を考えているかなんて、私にはわからない……)



 私が人生で関わったことのある異性なんて、お父さん以外じゃ近所の子ども達くらいだ。

 その程度の人生経験では、仮にウラヌス卿に(よこしま)な本性があったとしても、見抜くことなんてできるハズもない。



「この馬車の乗り心地はどうだい?」


「っ!? ひゃ、ひゃい! しゅごく良いです!」



 悶々と悩んでいるところにいきなり声をかけられたので、声が裏返ってしまった。とても恥ずかしい……



「それは良かった。この馬車は隣国のグリールから取り寄せたものでね。バネというパーツで揺れを最小限に抑えているらしい」


「グリール、ですか……」



 軍事国家グリールは、聖女学校時代によく耳にした名前だ。

 自ら軍事国家を名乗るだけあって兵器開発を得意とし、様々な国に武器や戦力を提供している。

 この国のお得意様であり、同時によく似ている(・・・・・)と揶揄されることもある。



「ふむ、その表情から察するに、グリールに対しあまり良い印象は持っていないようだね」


「それは……、はい……」



 一瞬否定しようかと思ったけど、私は嘘をつくのが得意ではないので素直に白状することにした。



「あの国は武器を……、暴力を、世界中にばら撒いている国です……。この国、ステラとは正反対なのに、同じように扱われるのが、どうしても……」


「……君の言いたいことは理解するよ。しかし、聖女という力を世界中に提供している我が国も、他国にとっては同じように見えるんじゃないかな」



 この国――ステラは、他国からは聖女国家と呼ばれている。

 理由は簡単で、当時聖女はこの国からしか生まれないとされていたからだ。

 その原因は解明されていないが、一説によると地脈が関係しているのだと噂されている。


 この国の女児は回復魔術を発現しやすく、その成長の伸びが非常に良い。

 私もその才能を見込まれ、平民でありながら聖女学校に入学することとなった。

 より多くの聖女を生み出すため、聖女学校は才能があれば身分を問わず誰でも入れる仕組みになっているのだ。


 そうして生まれた聖女の多くは、他国に出荷(・・)されることになる。

 それが、ステラがグリールとよく似ていると言われる所以(ゆえん)だ。



「同じなんかじゃ……、ないです! 私たち聖女は、人々を癒すために存在するんですよ!? 癒しと暴力を同一視されたくありません!」


「しかし実際、聖女は戦場に駆り出されているだろう。戦場の癒し手が敵にとってどれ程脅威かは、君も習っているんじゃないか?」


「それは……」



 言い返したかったけど、言葉が出なかった。

 聖女学校では聖女の戦い方についても習っており、その脅威性を教師に散々聞かされていたからだ。



「ただの兵隊を――半ば不死身の兵士に変えることのできる聖女は、戦場においては悪魔に例えられることもある。これも暴力の一つのカタチと言えるんじゃないか?」


「そんなの……、聖女を扱う側の問題じゃないですか……。私たちの……、ステラの思想とはかけ離れた扱いですよ……」



 ステラの思想は、全ての病める人々、苦しむ人々に癒しを与えるという尊いものである。

 傷ついた兵士を癒すこと自体は否定しないが、それを盾に何度も戦場に立たせ、苦しめるというのは、あってはならないことだ。



「……残念ながら、この国は君が思うほど清廉ではないよ。いや、はっきり言おう。今のステラは、醜悪だ」


「っ!? な、なにを言うんです!? この国を支える貴族様が、言っていいことではありませんよ!?」



 しかもウラヌス卿は伯爵だ。

 この国の上流階級である方が自分の国を悪く言うだなんて……、信じられない。



「私だって自分の国を悪く言いたくはないさ。しかし、事実この国は腐っている。聖女の扱いを見ればわかると言うものさ。……証明もできる」



 そう言ってウラヌス卿はゆっくりと右腕を上げ、指先を私に突き付ける。



「君がその証明さ。……君は、売られたんだよ。この私にね」





 ………………え?





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