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とある聖女達の恋物語  作者: 九傷
外伝 聖女ではない少女の物語――エバ・ヴァレンシュタイン①

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第二十一話 お転婆令嬢は誰かに攫ってもらいたい①



「お嬢様! お待ちください!」


「嫌よ! 私はお外で遊ぶの!」



 教育係であるメアリーの制止を振り切り、私は今日も屋敷の外へ飛び出す。

 外に出てしまえばもうコッチのもので、メアリーはおろか、他の使用人たちですら私のことを捕まえることはできない。



「~~♪」



 私は鼻歌交じりに裏庭を駆け抜け、茂みの中に突入する。

 ここまでくれば、私の小さな体は完全に茂みに隠れるので、誰にも見つけることはできないだろう。



(そしてこの穴を潜ってしまえば……)



 もう、誰も私を見つけることはできない。

 何故ならば、ここはもう壁の向こう側。

 使用人たちの体ではコッチ側に来ることはできないし、そもそも私が壁の向こう側にいるだなんて思いもしないだろう。



(さて、今日はどこまで進めるかしら!)



 草木の生い茂ったこの庭園は、天然の迷路のような作りになっている。

 探索を始めてから一週間以上経つが、未だにその全容は明らかになっていない。

 それが私の冒険心に火を点け、今では毎日の楽しみと化していた。


 目印を付けながら、少しずつ攻略していく……

 気分はまるで、物語で見た冒険者にでもなったかのよう。

 私は服が汚れるのも、肌が傷つくのも気にせず、草木をかき分けて迷路を進んでいった。


 そして3時間ほど彷徨った辺りで、ついに迷路の終わりに辿り着く。



(ここは……、何なのかしら……?)



 迷路の先に待っていたのは、古ぼけた教会のような建物。

 誰にも手入れされてないような雰囲気だが、不思議と壊れている箇所は見当たらない。


 建物に近付いてみると、正面の扉の中心に魔法陣のようなものが描かれていた。

 私の知識ではどんな意味があるかはわからないので、とりあえず扉を押してみることにする。



「ん~~~~~!」



 扉は押してもビクともしない。

 今度は逆に引いてみようと思ったが、扉には取っ手が無かったため引くことはできなかった。

 鍵でもかかっているのかと思い鍵穴を探したが、それらしきものも見当たらない。

 となると、やはり怪しいのはこの魔法陣……?


 私は魔法陣に手をかざし、魔法の先生に習った通りに魔力を放出する。

 すると、私の魔力に反応して魔法陣が輝き始めた。

 そのまま魔力を流し込んでいると、輝きは段々と中心に集束し、キーンという音とともに扉が僅かに開く。



「やった!」



 仕組みは全くわからないけど、どうやら開き方はこれであっていたようだ。

 扉の隙間から中を覗き込むと、想像していたよりも明るく、そして綺麗な内装だった。

 中に入ってみると、ヒンヤリとした空気が心地良く、私は吸い込まれるように中へ中へと進んでいく。



「おやおや、久方ぶりのお客さんが誰かと思えば、こんなお嬢さんとは」


「っ!?」



 何も警戒していなかった私は、突如背後からかけられた声に文字通り飛び上がってしまう。



「だ、誰!?」



 振り返ると、そこには執事服に似た服を着た青年が立っていた。

 美しい黒髪に紅い瞳……、彫刻のように整った美貌に、私は思わず息を飲む。



「私は……、そうですね、イブリーシュとでもお呼びください。それで、できればお嬢さんのお名前も教えていただきたいのですが?」


「私はエバよ! エバ・ヴァレンシュタイン!」



 腰に手を当て、胸を逸らしながら名乗る。

 貴族の令嬢が決してやってはいけないような名乗りだが、今の私は冒険者なので何も問題ない。



「ヴァレンシュタイン……、いえ、ここに入ってこれる時点でそれしかないとは思いましたが、一体どのような理由でここへ?」


「理由って……、別に、ただ冒険してたら辿り着いただけよ?」


「……はい?」



 私の答えに対し、青年はひどく間抜けな顔をして固まってしまった。

 元が整っているだけに、その顔はなんというか――可愛くデフォルメされたような印象を受ける。



「……クッ、クッハッハッハ! 200年振りに封印を解いた者が現れたから何事かと思えば、まさかそんな理由とは!」


「……?」



 青年は心底おかしいといった様子で笑うが、私にはその理由が理解できない。

 ……いや、待って。

 今この青年は封印と言わなかったか?

 それに、200年振りって――



「あの、もしかして私、何か悪いモノを解き放ってしまったのかしら……?」


「ええ、ええ、そうですとも。ですがご安心を。解けた封印は、あくまでもこの屋敷についてのみです。それだけでは、私が完全に解き放たれたことにはなりません」


「そ、そう。ならいいんだけど」



 もし何かマズいものを解き放ったのだとしたら、あとで父様達に大目玉を喰らいかねない。

 いや、それどころか、もっとヒドイことになっていたかも……



「……ねぇ、アナタって一体何者なの?」


「私は……、そうですねぇ、小悪魔……といったところでしょうか」


「小悪魔?」


「そんなところです」



 愉快気に笑う青年は、小悪魔というより悪戯をした子供のようだ。



「アナタ……イブリーシュって言ったわね。イブリーシュは何故こんな所にいるの?」


「それはですね、随分昔のことですが、ここでちょっとした悪戯をしまして……。その結果閉じ込められてしまいました」



 青年は悪戯と言うが、200年も封印されるくらいだから余程ヒドイ悪さをしたのだと思う。

 っていうか、200年って……



「ねえ、もしかしてイブリーシュは、人間じゃないの?」


「現在はそうなります。ですが、元々は人間ですよ」


「元々……? どうして人間じゃなくなっちゃたの?」


「それは、話すと少し長くなりますね」


「長くって――、あっ!」



 そういえば、こっちに来てからもう四時間近く経とうとしている。

 そろそろ戻らないと使用人たちが総出で私を捜し始めるため、大事になりかねない。



「ねえ! また明日来てもいいかしら!?」


「それは構いませんが……、ええっと、お嬢さんは私が怖くないのですか?」


「怖いって、何故?」


「だって私、人間じゃないんですよ?」


「そうだけど、見た目は完全に人間じゃない」


「それはそうですが……、普通200年も生きた化け物だと知れば、恐れるものと思いますが?」


「それはビックリしたけど、イブリーシュは見た目若いじゃない。私の父様よりも若く見えるわ」


「見た目の問題ですか」


「そうだけど?」



 私がそう返すと、イブリーシュは再び愉快そうに笑う。



「クック……、やはりお嬢さんは面白い。いいでしょう、また明日ここに来たら、話の続きをしてあげましょう」


「ええ! 約束よ! それじゃあまたね!」


「おっと、少しお待ちください」



 駆けだした私を、イブリーシュが引き留める。



「何?」


「ここに来る際、緑の迷宮を通ってきたでしょう」


「緑の迷宮って、迷路のこと? 確かに通ってきたけど……」


「私の方で少し簡略化しましたので、帰りはまっすぐ来た場所に戻れるハズです」


「本当に!? そんなことできるの!?」


「ええ。それとですが、ここを出る際、入ってきたときと同様扉に魔力を通すようにお願いします。それで再封印されるハズですので」


「え? いいの? 再封印しちゃって」


「ええ。そうしないと、誰かに気づかれる可能性もありますから」


「よくわからないけど、わかったわ!」



 イブリーシュに別れを告げ、私は言われた通り扉に魔力を込める。

 すると、扉は来たときと同じように隙間なく完全に閉ざされた。


 庭の迷路は、イブリーシュに言われた通り非常に簡略化された作りに変化していた。

 少し残念だが、明日からは別の楽しみが待っている。



(フフ♪ 明日が楽しみね!)



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