第十七話 意地でも生き残ってやる
いやいや待て、確かヴィオラの名前はヴィオラ・マーキュリーだったハズだ。
プルートーではない……、ってそうか、嫁いでいたとしたら可能性はあるのか。
現にシトリンだって嫁がされたし、アタシだって嫁がされそうになったのだ。
アタシ達より一つ年上のヴィオラが嫁いでいたとしても、不思議ではない。
それに、私は思ってしまったのだ。
ヴィオラなら、あり得るかもしれないと。
「……そのヴィオラ・プルートーって聖女は、どんな見た目だった?」
「見た目か……、我々の価値観と人族の価値観では細かいところで違いがあると思うが、美しい女性だったことは間違いない。淡くきらめく黄金の髪は我ら一族の女人すらも羨むほどであり、均整の取れた芸術的体つきは見事と言うほかなかった。あれで子を身ごもっていると聞いたときは、心底驚かされたものだ」
金髪に抜群のスタイルというのも、ヴィオラの情報と一致している。
やはり、あのヴィオラに間違いな…………ん?
「ま、待て、今、子を身ごもっていると言ったか?」
「ええ、ヴィオラ様は我々を助けていただいた際、自分の身に新しい命が宿っているとおっしゃられていました」
マジか……
色々と衝撃的な情報が多すぎて、思考の処理が追いついていない。
聖女学校を卒業してからまだ一年と少ししか経っていないのに、何がどうなってそんなことになっているのだろうか?
しかもその話が本当であれば、ヴィオラは妊婦の身でナイン・ライブズに来たということになる。
……もう、ワケがわからない。
「……その反応を見ると、もしや君はヴィオラ様の知り合いだったりするのだろうか?」
「まあ、ね。アタシとヴィオラは、聖女学校時代の同期だよ」
ヴィオラは聖女学校の入学条件である「12歳以下であること」というギリギリまで待ってから入学した関係で、アタシやシトリンと同期でありながら年齢は一つ上だ。
だから同期と言っても、アタシらはヴィオラに面倒を見てもらうことが多かった。
シトリンなんかはお姉様と呼んで慕っていたし、アタシもなんだかんだ頼る場面が多かったように思う。
アタシ達以外にも、ヴィオラに憧れる生徒は大勢いた。
……だからこそ、アイツが聖女に選ばれなかったときは、誰もが耳を疑ったものだ。
「なんと……、これは正に、神の思し召しではないか!」
アタシは聖女でありながらあまり信心深い方ではないが、今回ばかりは神のお導きとやらを信じてもいいかもしれないと思った。
捨てられた場所で出会った獣人が、偶々ステラの聖女に対して友好的で、しかもその原因となったのが聖女に選ばれなかったハズの友人だとは、あまりにもでき過ぎている。
偶然などという一言では、到底説明できない奇跡だ。
「……とはいえ、依然として状況はあまり良いとは言えない。神は我々に、与えられた奇跡に胡坐をかくことはお許しになられていないようだ」
そう言って男は森の奥の闇を睨みつける。
それで私も、不穏な気配が近づいていることに気づいた。
「私は君との約定通り……、いや、それがなくとも全力で君を守るつもりだ。しかし、屍鬼相手に今の状態では守るだけで手いっぱいとなるだろう。つまり、聖女である君の協力が不可欠だ。……この試練、共に乗り越えてくれるだろうか」
この男はこの状況を神の与えた試練とでも思っているようだが、私としてはもっと単純な解釈をしている。
ただ単に、世の中甘い話ばかりではないというだけの話だ。
「上等よ。やってやろうじゃない」
謝罪する相手だけじゃなく、礼をしたい相手まで増えてしまった。
……こうなった以上、意地でも生き残ってやる。




