美少年と唯一無二の存在 《※ルイ視点》
13歳の誕生日を迎えた僕に、
「兄上へのお誕生日プレゼント、頭が痛くなるほど悩んだんですが、結局決まりませんでした」
「あははは。そんなに僕の事を考えてくれてたの?」
「当たり前です!だって、大好きな兄上へ贈るプレゼントなんですから」
なんて言いながら、口をへの字にして見事なふくれっ面を見せるアリスは、文句なしに可愛い。
多分、僕への誕生日プレゼントを用意できなくて、自分自身に腹を立てているんだろう。
と言うか・・・拗ねている!?
「どうしたんだ?僕の誕生日なのに浮かない顔して」
「だって・・・兄上へのプレゼントを用意できなかったから・・・申し訳なくて・・・」
消え入りそうな声でそんな事を口にしたアリスは、ふくれっ面から、今にも泣きだしそうな顔へと変貌していた。
正直、そんな悲しげな表情を浮かべるアリスは見たくない。
だって、こちらまで悲しくなってしまうから。
だから僕は、わざとアリスの頭をワシャワシャと撫でまわし、彼女を元気づけた。
「ちょっ!?あ、兄上!髪がグシャグシャになるじゃないですか」
「髪がグシャグシャだろうと、ふくれっ面しようと、アリスは可愛いから問題ないよ」
紛れもない僕の本心。
どんなアリスも、僕の目には可愛く映るんだ。
嘘じゃないよ・・と、続けざまにそう言った僕に対し、アリスは眉根をひそめ、訝しげな表情を浮かべた。
「・・・兄上、今すぐにお医者さんに診てもらって下さい。兄上の視力が心配です」
「何で?」
「だって・・醜女の私を可愛いだなんて、目が腐ってます。美意識が崩壊してますよ?」
「心配しなくても、僕の視力は良いから安心して。それと、美意識は人それぞれだから」
確かに、世間一般の物差しで図るなら、アリスは醜女の部類に入るだろう。
だけどね?アリス。
僕にとってアリスは、文句なしに可愛い存在なんだ。
唯一無二の、僕の大事な大事な妹なんだよ?
そうキッパリ言い放つと、アリスは頬を薄っすら紅色に染めながら不承不承、頷いてくれた。
納得いかないと言いたげな表情だけど。
だけど、僕はそれを敢えて無視し、言葉を紡いだ。
「ねぇ、アリス。誕生日プレゼントなんだけど、僕から要望を出してもいい?」
「兄上の要望?」
「うん。僕はね、アリス。誕生日の今日、キミと一緒に領内を回りたいんだ」
「領内を回るって・・・いつもしてる事じゃないですか」
確かに、暇さえあれば僕は、アリスと一緒に領内を回っている。
でもそれは、領民が何を求め必要としているのかを知る為の巡回であり、遊ぶ為ではない。
だから、
「料理が美味しいお店で食事をしたり、公園を散歩したり、雑貨のお店に立ち寄ったり、そんな何気ない時間を、アリスと一緒に過ごしたいんだ」
それが何より、僕にとっては一番のプレゼントになるのだから。
そう告げると、アリスは満面の笑みを浮かべながら、僕の手をぎゅっと握りしめた。
「まるで、デートみたいですね」
「デッ!?」
「兄上?どうかしましたか?」
「あ、いや・・・うん。じゃあ、改めて。アリス、僕とデートしてくれる?」
「はい!喜んで」
元気よくそう返事したアリスは、握りしめたままの僕の手を、ブンブンと勢いよく左右に振った。
その姿はまるでまとわりつく子犬のようで、何とも微笑ましい。
そんな可愛い様相を見せるアリスに、僕の心は春の陽だまりの様にポカポカと温かくなる。
―――こんな日がずっと続けばいいのにな。
だけどそれは、決して叶わない願い。
だっていずれ、互いに伴侶を迎えなければならないから。
二人きりで過ごす時間なんて、限られている。
だから僕は・・・
「アリス、僕と一緒に過ごす時間は好き?」
「もちろんです」
「僕も、アリスと一緒に過ごす時間は好きだよ。誰にも邪魔されたくないくらいにね」
ねぇ、アリス。全力で運命に足掻いてみせるよ。
アリスが持っている『アカツキ皇国の国史書』みたいな未来など、絶対に迎えたくないから。
この幸せな時間を、悲しい思い出にしたくないから。
アリスを皇太子妃候補になんてさせないし、僕も第一皇女と婚姻なんて結ばないから。
だからね?アリス。
僕の傍からいなくならないで。
僕から離れていかないで。