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醜女の言の葉

包み隠さず正直に話せばいい。


下手に隠そうとするから歪みが生じる。

相手に心を開かせるなら、まずは自分から。


そう考えたアリスは、父と母と兄に己の身に起きた事を話した。



「前世を思い出したと?」

「はい、父上。高熱にうなされた事が原因かと思われます」


「ニホンという国で、18歳まで生きていたと言ったな」

「はい」


「ニホンなどという国名は、聞いた事がないが?」

「世界軸と言いますか、時代が全く違いますから。日本は遠い未来にある国ですので、父上が知らなくて当然です」



それを証拠に「これをご覧下さい」と言葉を続けたアリスは、2冊の本をスッと父親に手渡した。

言わずもがな、小説『アカツキ皇国』の初巻と最終巻だ。

これを見れば納得するだろうと思い、部屋から持ってきたのだ。



「なるほど。確かに見た事のない文字だな」

「それは、日本語で書かれた『アカツキ皇国』のしょ・・・国史です」



思わず小説と口にしそうになったアリスは、慌てて国史と言い直した。


もしここで「実はココ、小説が舞台なんですよ」などと言おうものなら、相手が混乱するだけだと分かっていたからだ。

だから、敢えて意図的に隠した。

この世界が、『アカツキ皇国』という小説の舞台になっているという事を。



「ふむ。摩訶不思議な事もあるもんだな」

「そうですね。自分でもビックリしてます。目が覚めたら小・・・国史を手にしていたんですから」

「で?」

「?」

「ニホンゴとやらで書かれたアカツキ皇国の国史には、何と記載されているんだ?」



そりゃ、気になりますよね。

今現在、ココにいる人間にとってみれば、この小説は預言書みたいなものですから。

と、心の中で呟いたアリスは、大雑把な流れを説明した。



「皇族内で跡目相続争いが勃発し、中立派であるブロワ公爵家は不本意ながら巻き込まれます。私は濡れ衣を着せられ冤罪で処刑、ただ、兄上が第一皇女殿下と婚姻関係にあったので、父上と母上の命だけは救われました。とは言え、国外追放の憂き目に遭うのですが」



アリスが簡潔に告げた内容に、ブロワ公爵夫妻と令息は思わず息を呑んだ。


まさか、そんな恐ろしい事が身に降りかかろうとは、夢にも思わなかったのだ。

何とも言えない空気が漂う中、ブロワ公爵は再度アリスに訊ねた。



「そなたは処刑、私たち夫婦は国外追放なんだな!?」

「はい。兄上が皇女殿下に助命嘆願し、父上母上の処刑だけは免れたそうです」


「そなただけ許されなかったのか?」

「この小・・・本には、そこまで詳しく記載されていません。あくまで『アカツキ皇国』の国史ですから。ブロワ公爵家の歴史書とは違います」


「そなたは何故、処刑されるのだ?」

「公爵令嬢という立場を利用し、皇太子殿下の正妃になろうと画策。殿下が皇帝の座に就いたら毒殺して皇国を牛耳ろうとした・・・と」


「そんな馬鹿げた話があるか!」

「ですが事実です。そんな馬鹿げた話をでっち上げるだけの力が、マルチーノ公爵にはあったのです」


「・・・マルチーノだと?」

「はい。マルチーノ公爵は、皇帝陛下の正妃殿下とは従兄妹同士の間柄です。そして、お二方とも野心家ですから、煙たい存在の人間は平気で消すでしょう」



だから、罪の一つや二つでっち上げるのは、いとも簡単にやってのけるはずだ。

目の上のたん瘤であろうブロワ公爵家を排除する為ならば。



「他には?」

「正妃殿下はマルチーノ公爵家の出ですが、子は皇太子殿下のみ。対して側妃殿下は伯爵家の出ですが、御子は5人いらっしゃいます。陛下のご寵愛がどちらに向いているのかは一目瞭然です」


「そう言い切れるのか?」

「皇后の座が空位ですから」

「続けて言ってみよ」


「はい。義務で迎えた側妃殿下なら、皇帝陛下は迷わず正妃殿下に皇后の座をお与えになっていたでしょう。出自やご実家の地位を考えれば当然です。」

「・・・」


「ですが、陛下は側妃殿下をご寵愛なさっている。本当は側妃殿下を皇后に据えたいのでしょうが、正妃殿下がいらっしゃるのにそれは無理です。ですから、せめてもの抵抗で皇后の座を空位にしているのかと」



野心家でプライドが高く傲慢な正妃を、面には表さないが皇帝は煙たがっている。


何度も催促され、仕方なく義理で果たした一回きりの閨で正妃が皇太子を身籠った時も、嬉しいというより執念深い女だと嫌悪した。


ただ、あからさまな態度を取れば政局が揺れ、混乱が生じる。

だから皇帝は、正妃にも側妃にも同じ態度で接しているのだ。

あくまで表面上は。



「陛下の寵愛を笠に着て、側妃殿下がご自分の産んだ皇子を、皇太子の座につけたいという野心を抱いた。そのせいで、跡目争いが勃発した。そう言いたいのか?」

「いえ。側妃殿下もご実家の伯爵家も、穏やかで控え目です」


「では、側妃殿下を担ぎ出そうとする連中がいると?」

「国の行く末を慮るなら、皇太子殿下を廃嫡にし、パスカル第三皇子殿下を皇太子に・・・と、考える勢力は一定数おります」


「パスカル皇子だと!?」

「そうです。第三皇子であるパスカル殿下の方が、皇太子殿下より遥かに優秀ですので」


「優秀?パスカル殿下が?」

「はい。凡庸を装っていますが、頭の回転が早く人望があり、カリスマ性があります。一方の皇太子殿下は人当たりは良さげですが、無駄にプライドが高く流されやすい。帝位に就いた後、マルチーノ公爵の傀儡になるのでは!?と、先を危ぶむ声がある。そう国史には記載されています」


「そうか」

「ただ、私が話した事によって未来が変わる可能性もあるし、話しただけでは変わらない可能性もあります」



それを充分頭に入れておいて下さいと告げたアリスに、公爵夫妻と彼女の兄は頷き、肯定の意を伝えた。

と同時に、アリスは肝心な話を伝え忘れた事に気付き、再び口を開いた。



「覇権争いが泥沼化し、国は疲弊し弱体。その隙を衝いて他国が攻め入り、アカツキ皇国は滅亡します」



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