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醜女の今

「昔も今も、醜女からは抜け出せない・・・か」


そう自嘲気味に呟いた少女は頭を横に振ると、手にしていた手鏡をそっとテーブルの上に置きながら、淋しげな笑みを浮かべた。



自らを醜女と口にした少女の名は、アリス・ブロワ。

ブロワ公爵家の令嬢だ。

高熱にうなされ三日ほど寝込み、いざ目覚めてみると、前世の記憶が雪崩のように流れ込んできたらしい。



「まさか、愛読していた小説『アカツキ皇国』に転生するなんて・・・いや、転生とは違うのか?今まで過ごしてきた記憶もあるし、前世持ちって事になるのかな」



目覚めた後に何故か手にしていた前世の愛読書、『アカツキ皇国』を枕元に引き寄せ、ペラペラとページをめくりながら独りごちる。



「でも、やっぱり転生って事になるのかな。現実世界じゃないもんね、ココ」


日本で発行された小説が舞台ならば、確実に現実世界ではない。

となると、今の状況はやはり転生という事になるんだろうなと結論づける。



「それにしても何故、一巻と五巻しか手元にないんだろう」



『アカツキ皇国』は五巻で完結する小説だ。

和洋折衷の独特な世界観が散りばめられ、ヒット作とは言えないものの、コアなファンからは熱狂的な支持を集めていた。


そんな小説が歯抜け状態で今、ココにある。

何か意味があるのだろうかと、アリスは首をひねりながら考えた。



「もしかして、棺に納められたのが一巻と五巻だったって事!?」



昨今、あれもこれも棺には納められないらしい。

明け透けな物言いをすれば、納めた物が燃えきらない事もあるからだ。

小説を五冊も納棺するのは、さすがに無理があったのだろう。


紙とは言え、背表紙のある小説は分厚い。

だから、初巻と最終巻だけ棺に納めて、送り出してくれたであろう事は想像できた。



「何の因果か、転生先でも『アリス』という名前だなんて。おまけに醜女まで引き継ぐとは。私はそれほどまでに業が深いんだろうか」



前世はアリスという名の日本人で醜女だった。

容姿の件で正面きってからかわれ、陰でクスクスと笑われ、引き立て役として利用され、散々な目に遭ってきた。


だからこそ、強くあろう。

だからこそ、心まで醜くならない様にしよう。

だからこそ、自分だけでも自分を嫌いにならず、好きでいよう。


そう心がけ、日々を過ごしてきたのだが、



「難病を発症してから三ヶ月で死んじゃうなんて、想像もつかなかったわ」



完治できる治療法も薬もなく、ただ延命する為だけの処置は苦痛でしかなかった。


新薬の実験台にされてるんじゃないかと疑うくらい、色々な薬を体に投与され、副作用をおこし、段々と体力と気力が落ちていくあの恐怖。


18歳という若さは病の進行を速めるには充分で、闘病生活わずか三ヶ月でアリスの命は尽きた。


「『アカツキ皇国』に登場するアリスに自分自身を重ねてたから、アリス・ブロワとして転生したのかもしれないな」


同じ名前に同じ醜女。

醜女というだけで理不尽に嘲笑され、心を閉ざし、人との間に心の壁を作り一線を画す。


小説に登場するアリスはまるで自分の様だと、知らず知らずのうちに感情移入していたのかもしれない。


「前世では親に愛されず、挙句の果てには捨てられ、養護施設に預けられたけど、ココのアリスはどうなんだろう。前世の私みたいに、家族から嫌われたりしてないのかな」


この小説は、皇族やそれを取り巻く貴族達の話だ。

残念ながら、ブロワ侯爵家の令嬢アリスは、ほんの少しだけしか登場しない、モブ中のモブ。

よって、ブロワ公爵家の家族愛がどうなっているのか、想像もつかない。



「前世を思い出す前までの生活では、仲が悪いとも思えないんだよなぁ。でも、微妙な距離間はありそうな気がする」



『アカツキ皇国』での貴族の距離間はそれが普通なのか、それとも別の形があるのか、アリスには判断できない。

でも、


「もう一度、生きるチャンスを貰ったんだから、自分を変えたい」


ほんの少しだけ積極的に、少しずつ前に出て、家族との交流も深めていって。


変えられるところから変えていきたいのだ。

もう、前世みたいに独りぼっちにはなりたくないから。


そう切実に願ったアリスは、ペラペラとページをめくっていた小説をテーブルの上に置き、深く息を吐いた。



「まずは、この状況をお父さん・・・ち、父上に話さないと。話した上で、今後の対策を練らなければ、ブロワ公爵家が国外追放の憂き目に遭ってしまう」


それだけは必ず回避せねば。

そう心に誓ったアリスは、自分の頬を叩き気合を入れると、勇ましい足取りで部屋を後にした。


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