表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鏡の中の私

怖い話をしましょうか。

私にとっては、愉快な話でもあるんだけど。


もう10年も前の話、この家には小さな女の子がいたの。

華奢で大きな目をしていて、とても好奇心旺盛な子だったわ。

癖っ毛が少し気に入らなかったけど、造形は及第点ってところね。

困ったことや考え事をするときに、巻き毛をパスタのように指でクネクネと撒きとる癖が、チャーミングで可愛らしかったかしら。


頭の良い子ではなかったから、物理のことなんてチンプンカンプンだったのでしょうね。

鏡の中に入れないのは、鏡に映った自分が押し返すからだと信じていたわ。

ほら、鏡に手を伸ばしてみて。

中の自分が、あなたを招くまいとして押し返すでしょう?

だから鏡の中に入れないのだと、彼女はそう信じていたわ。

疑わず強く信じることは、とても大事なことなのよ?

少なくとも、私にとってわね。


巻き毛をクルクル指で巻き取りながら、彼女なりに色々考えたのでしょう。

毎日毎日、鏡の中の自分に話しかけていたわ。


笑ったり、おべっかしたり、少し拗ねてみたり。


仲良くなれば、鏡の中に招待してくれるとでも思ったのでしょうね。

だけど鏡の中の自分は、いつもヘラヘラと笑うだけで、一向に心を開いてなんてくれやしなかった。

業を煮やした彼女は、ついには鏡の中の自分を出し抜くことにしたの。


深夜2時にこっそりと起きてきて、明かりもつけずに手探りで鏡を探してた。

こんな夜更けですもの、鏡の中の自分は、ベッドの中でぐっすりと眠っていると思い込んでいた。

我慢しきれずに、時々クスクスと笑い声を噛み殺していたわ。


本当に馬鹿な子。

どうして気づかないのかしら。

鏡の中のあなただって、鏡の世界に憧れるあなたと同じように、外の世界に出たがっているって。


鏡に手を伸ばす彼女の腕を掴んだとき、「ヒィ」とリスのような悲鳴をあげてたわ。


それから?

さあ。彼女はどうしているのかしら。

私は深夜に鏡を見るなんて馬鹿なことしないから、その後のことは何も知らないわ。


どう?この姿。

癖っ毛は気に入らないけど、造形は及第点ね。

困ったことや考え事をするときに、巻き毛をパスタのように指でクネクネと撒きとる癖は、チャーミングでとても気に入っているわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おおー! これはこれは! 怖いですね~。 ( ゜ロ゜)!!
[良い点] 解釈として、語り手――主人公は、鏡の中の女の子。鏡の外の本体が中に入りたがっている時、変わってあげなかったところに、小悪魔みたいな悪戯心を感じ、性格のねじ曲がった私には共感できます。 リ…
[一言] こわい絵本 大人向け絵本のコーナーで見かけて一時期ハマっていた頃があります その頃に感じた、読みやすいさらさらとした文章なのにぞわりとする感覚を思い出しました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ