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第9話 始業式。校門の前に人だかり。

 小梅に起こされ、出来たての朝ごはんを食べ、お茶の入った水筒を渡され、ぴっしりアイロンのされた制服を着て――よく考えたら、めちゃくちゃ至れり尽くせりじゃん。


「うめちゃん、俺もう用意できた」

「待ってウチも行く!」


 ついに新学期が始まった。

 小梅は今日が入学式だ。黒のセーラーに白いスカーフの制服を着て、奥から走ってくる。髪型は低めのツインテール。緊張した面持ちで、毛先をくるくるいじっている。


「どう? 変ちゃう……?」

「うん、変じゃないよ」

「良かったぁ」


 ほっとしたように笑う彼女が鍵を閉めて、家を出た。学校が近いから、最寄りまでは一緒に行くことになっている。


「楽しみやな」

「星蘭だもんなぁ〜。校舎めっちゃ綺麗なんだよ」

「あのお城みたいな!」

「そうそう。外から見るだけでも感動モノだぞ、あれは」


 確か制服は郵送だったはず。4日前に小梅の家から荷物が送られてきたときに一緒に入ってた。


 相変わらず人の多い満員電車に乗り込み、同じような制服の多くなってきた駅で降りる。親が同伴の子たちが多い……やっぱり入学式だからだろうな。女子校らしい高級感のある制服はよく目立つ。

 小梅は家が遠いから、来ることはできなかったらしい。


「じゃあ、帰りまた連絡して」

「うん。分かった。行ってくるな」

「ん。行ってらっしゃい」


 星蘭の校門前で手を振り、自分の高校まで急ぐ。さすがに女子ばっかりの空間に1人男はちょっと気まずい。そりゃ親御さんもいないわけじゃないけど、父親とその辺の高校生じゃ違うからなぁ……


 小梅は1人だけど大丈夫かな、とちょっと心配しつつ、慣れた古い校舎に足を踏み入れた。昔からあるらしい桜の花びらが宙を舞っている。


 クラス表が貼りだされている廊下に辿り着き、名前を探した。なかなか見つからなくて、目を細める。

 ――にしても、すごい人だかりだ。古風なシステムも確かにドキドキ感あるけど、もうちょい工夫してほしい。とりあえず、誰かに踏まれた足の先が痛い。


 ……あぁ、良かった。友達は何人かいる。


「おっはよ〜」

「おぅ。如月(きさらぎ)

「どうだった? あっ! 一緒じゃん。今年もよろしくな」

「あぁ。よろしく」


 ほっとして、無意識に詰めていた息を吐く。

 高校じゃ()()()()()()なんてこと、ほとんどないのは分かってるけど、やっぱり。


「てかさぁ羽澄、なんか変わった……?」

「え、なんで?」


 教室まで如月と向かう。如月とは去年からの仲で、入ってたグループの中でも特に仲が良かった。

 てゆうか、案外鋭いな、こいつ。もしくは、小梅が来てから俺がよっぽど変わったか。


「いや、なんてゆうんだろうな……あっ、顔色いいから?」

「えっ、そう?」

「うんうん……あっ、あれか? お前、彼女とついに……! 春休みだったもんなぁ。宿題もないし、恋の季節だし、そりゃひとつやふたつは……」

「違ぇよ。ちょっと色々あっただけ」


 さすがに別れたとは言えなくて濁すと、またまた〜と如月は茶化すように笑った。如月はじゃっかん変人だけど、良い奴だ。


「それで、如月は? なんかいいことあったんじゃねぇの?」

「ほぅ、お前なんで分かった」

「いつもよりテンション高いから」


 もう踊り出しそうな空気である。


「それがさぁ、俺もついに……ついにだぞ! ついになんだけど……」

「うん」

「ついにさぁ、彼女ができたんだよ」

「おおっ」

「なんだよもうちょっと感動しろよ」

「感動っていうか、おめでとう……?」

「これだから彼女持ちは。世の中彼女がいることが当たり前じゃねぇんだ。あぁあと、ありがとう」


 彼は毎日、リア充ども爆発しろ、と恨み節を唱えている。今やそのリア充の仲間入りをしてるんだけど。


「出会いは?」

「インスタ。ちなみに年上」

「現代だなぁ」

「いや、今どき当たり前じゃね?」


 当たり前なのか……ネット社会の波についていけない。サーフィンだったら、沈んで沖に流されてるレベルだ。






☆☆☆☆☆

「どうしたの、この人だかり……」

「ん? なんかすんげぇ美人いるらしいぜ。芸能人なんじゃないかって」

「マジか」


 始業式も終わり、トイレから戻ってくると、校門の前がなにやら騒がしい。窓から覗くと、人だかりができていた。離れた教室まで声が聞こえてくるくらいだから、そうとうだ。


 ……いや、ちょっと待て。

 美人。芸能人レベルの美人。思い当たりがある。


 スマホの電源を入れてみると、やっぱり小梅から連絡が来ていた。


『入学式おわったから、そっち行くね!』


 可愛いスタンプ付き。示された時間は、10分前。合う。ぴったり合う。

 ……これは、どうしたものか。


「星蘭の子だってさ。誰かの彼女かなぁ。羨ましいなぁ……いや、俺は彼女が1番可愛いと思ってるしそんな羨ましいとは思ってるわけではないんだけどさ。やっぱこう、夢じゃん」

「うん」

「よし、見に行くか。さっさと教室出るぞ」

「そうだ、な……」

「ん? どした?」

「いや、なんでも……」


 ダラダラ汗が流れる。どうしよう。マジでどうしよう。

 如月は愛羅のことを見たことがある。小梅のことを見たらなんていうか……いや別にそれは全然いいんだけど。

 そもそも、あの人だかりの中どうやって割って入っていったらいいんだ。


 急ぎ足の如月に着いていくと輪の中心にいたのはやっぱり小梅だった。上級生に話しかけられて戸惑っている。1ヶ月で辞めた部活の先輩もいる。


 気まずっ、なにこれ色々気まずっ……!


「あの、すみません。その子俺の知り合いで……」

「御影くん……!」


 けど小梅のことを無視するわけにはいかない。東京に進学してきたばっかりだし、不安だろうし。


 俺の声が聞こえたのか、小梅は救いを求めるような目をしてじっと見つめてきた。

 その小さい手を引く。おおっと歓声が漏れた。どうしよう。はずい。はずいぞこれ。


「えっ、彼女?」

「いや、幼馴染です」

「幼馴染……」


 あっ、でもそしたら連絡先攻撃から逃げられなくなるかな。でもこの状態で俺の女だとかいう度胸は俺にはない。キャパオーバーだ。


 周りの空気をうかがっていると、なんとなくサーっと人が引いていく感じがした。


「……彼女らしい」

「なんだよもう行くか」


 遠くから聞こえてくる。なんかよく分からないけど、いい感じに勘違いしてくれたらしい。本日二度目。胸を撫で下ろす。


「あっ、ありがとう」

「ううん。大丈夫?」

「うん!」


 小梅はにっこり笑った。とりま一件落着か。

 そういえば、如月の姿が見えない。色々騒ぎそうなのに。


「あっ、ゆずちゃん!」

「ゆずちゃん?」

「そう。今日仲良くなったの」


 コミュ力高いな。まだ初日なのに。

 嬉しそうに声を上げる小梅の視線を辿ると、確かに星蘭の制服を着た女の子がいる。それと隣に……


「如月?」

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