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ロケから帰宅したら部屋で虎が待っていた件

作者: みぶ真也

 深夜のロケから帰宅すると、日が変わっていた。日だけでなく、年も変わっていた。今日から2022年だ。

 部屋の扉を開けると、虎がいた。大きな体をソファの前に横たえている。

 部屋番号を改めて見たが、ぼくの部屋に間違いない。

 虎はこちらをちらって見てから、大きなあくびをした。

「な、なんで部屋に虎が…」

 ようやく口をついて言葉が出た。

 虎はぼくの方に首を向け、

「お前、俺が見えるのか?」

と尋ねる。

「しゃ、しゃべれるんですか?」

 思わず敬語で訊き返した。

「おう、やっぱり見えるのか。じゃ、実体化してるんだな、俺」

 虎はつぶやくように言うとふーっと鼻を鳴らす。

「実体化?」

「そう、毎年正月になるとその年の干支の動物の霊が、それぞれの家を訪れることになってるんだ。この部屋は俺の担当なんで12年ぶりに来てみたんだが、何かのはずみで実体化してしまったようだな」

「あの、帰ってください」

「いや、勝手に干支仲間の所へ帰るわけにはいかない」

「じゃ、体を霊体に戻してください」

「それが出来れば苦労はないよ」

「出来ないんですか?」

「いや、待て!一つ方法がある」

 虎がそうつぶやいた。    


 正月というので産土神社は初詣で賑わっていた。

 皆、写真を撮ったり、お屠蘇を飲んで今年1年の無病息災を祈っている。

 ぼくの場合は、もっと急ぎの願いがある。

 部屋で実体化していた今年の干支、巨大な虎を消して貰いたいのだ。

 二礼二拍手して、

「かけまくもかしこき産土の神様、どうか部屋に現れた虎を十二支の仲間のもとへ行かせたまえ」

と願をかけた。

 その時、頭上を鳩が舞い、朝日が顔を照らし“願いは届いた”と頭の中に声が響く。

 さっき虎自身が言っていたように、産土神社で今年一番にかけた願いはきかれることになってるみたいだ。

 その願いは一年間有効とのこと。

 一年間、虎がいなくなれば、来年同じハプニングが起きたとしても干支はウサギなのでさほど困ることはないだろう。

 足取り軽く部屋に戻り、扉を開けると、

「お前の願いが届いたようだぞ。俺はこうして十二支の仲間と一緒になった」

と部屋で待っていた虎がぼくに言う。

 牛と羊が冷蔵庫に首を突っ込んで野菜を食べ、鼠と犬と兎が走り回り、天井には鳥と龍が飛び交っていた。


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