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9.胸を張って

 中庭で二人。

 私と先生は向かい合う。

 

「始めるよ? アリス」

「はい!」


 パチンと先生が指を鳴らす。

 次の瞬間、中庭の風景が一変する。

 天地は逆さになり、私たちの身体は空へと落下する。


「君の番だよ」


 そう。

 今度は私の番だ。


「術式発動――」


 想像し、創造する。

 発動した術式によって、世界は塗り替えられる。

 空中から水中へ景色が変わる。

 場所を移動したわけではなく、周囲の空間を塗り替えたんだ。

 水中だから声は聞こえないけど、先生はニコッと微笑んでくれた。

 上出来だと、言ってくれているのだと思う。

 そして次は先生の番。

 

 パンッと、大きく手を叩くと、水中だった景色は極寒の雪山に変化した。

 吹雪が吹き荒れ、前もロクに見えない。

 厳しい環境は、吐く息すら凍らせる。

 こんな寒い場所の次はやっぱり――


「温かい場所へ!」


 先生と同じように手を叩く。

 世界は極寒の吹雪から、太陽の日差しが眩しい海辺の砂浜に代わる。


「いいね。ちゃんと想像できてるよ」

「はい!」


 術式発動の合図は何でも良い。

 大切なのは、現実から空想への頭の切り替え。

 そのための合図に手を叩いたり、指を鳴らしたりする。

 そして術式を解くときは、想像を止めて現実に頭を切り替えれば良い。

 私にとっての術式終了の合図は、大きく深呼吸をして目を瞑ること。

 そうすれば世界は戻り、次に目を開ければ中庭に立っている。


「どうでしたか? 先生」

「文句なしに上出来だよ。まったく君の成長には驚かされるね」

「えへへっ、先生の指導が良いからです」

「何か言うか。僕の術式で大事なのは想像力だ。君の想像力は僕に匹敵するかそれ以上に素晴らしい。それは紛れもなく君の才能だよ」


 何度も先生に褒められた私は、嬉しさに顔を赤くする。

 この二年半の間、先生の指導を受けてようやく、私は一人の魔術師になれた。

 先生にも太鼓判を押されたことで自身も付いてきた所だ。

 これなら今日の試験も無事に終えられるだろう。


「所でアリス、時間は大丈夫なのか?」

「え? 時間ならまだ……あれ!?」


 手に持っていた時計を見て、思わず大きな声を出してしまった。

 思っていた時間よりも一時間進んでいる。

 見間違えかと思って、屋敷の壁についている大きな時計を見たけど、どうやら間違っていないようだ。


「おやおや大変だね~ これは急がないと受付に間に合わないぞ~」


 わざとらしく言う先生を見てハッと気づく。

 私はむっとむくれた顔をした。


「もしかして先生……私を騙しましたね?」

「おや? バレてしまったかな?」

「時間の感覚を狂わせるなんて先生しかできませんよ! どうするんですか!」

「どうもこうも急げばいい。今の君なら出来るだろう?」


 それは確かにそうだ。

 私が身に着けた術式なら、ここから王城内にある試験会場までひとッ飛びで行ける。

 でもその方法はあまりにも目立ち過ぎて、私としてはやりたくなかった。

 そんな話を昨日の夜にしていたことを思い出す。


「やっぱりわざとですよね?」

「もちろん。昨日の夜も言ったけど、君は目立ったほうが良い」

「で、でも私は……」

「わかっているよ。家のこと、父親のこと、君には考えないといけないことが多い。だけど、それは全部君のことじゃない。君の周りのことなんだ」


 そう言って先生は、私の肩に手を置く。


「君は君だ。周りの人たちにも、それをハッキリと表明するべきだよ」

「先生……」

「まっ、もっとも派手な登場になることは確定しているけどね」

「うっ……先生はイジワルですね」


 この二年半で、先生がどういう人なのかわかってきた。

 優しくて明るい人なのは確かだけど、悪戯好きで時々イジワルなことを言う。

 大人だけど、子供っぽい人だ。

 そんな先生と過ごす日々は楽しくて、刺激的で、ずっとこうしていたいと……


「ってそんなことより急がないと!」

「そうそう、急いだ急いだ。大事な試験に遅刻したらこれまでの苦労が水の泡だ」

「も、もう! 帰ってきたら先生のご飯だけ野菜ばっかりにしますよ!」

「そ、それは勘弁してほしいな」


 先生は野菜があまり好きじゃない。

 これまでの日々で知ったことの一つ。

 二年半という期間は永いようで短かった。

 そうして私は十五歳になり、魔術師の養成校である王立魔術学園への入学が出来る年齢になった。

 今からその試験を受けに行くところだ。

 もっとも歩いて行けば間に合わない。

 だから私は想像する。

 空を飛ぶ……否、空を駆ける幻を。


「おいで――ヒポグリフ!」


 淡い光が集まって誕生したのは、グリフォンと馬の間に生まれたという空想上の生物。

 身体の前半身が鷲、後半身が馬の姿をしていて、私が知っている馬より倍は大きい。

 急ぐ私はヒポグリフの背中に飛び乗った。


「お願い! 王立魔術学園まで飛んで!」


 ヒポグリフは高々と鳴く。

 そして飛び上がる。


「行ってきます! ライカとレナをお願いしますね!」

「ああ! 頑張ってくると良い。それと胸を張りなさい! 君は賢者の弟子だ」

「――はい!」


 そう。

 私は賢者の弟子。

 かつて世界を滅ぼしかけた魔女と戦い、勝利して、忘れ去られてしまった魔術師。

 私だけが知る英雄。

 彼の弟子として、胸を張って試験に臨もう。


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生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。

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