表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/25

14.炎と風

 魔術師の術式は魂に刻まれる。

 どれほど優れた魔術師でも、扱える術式は一つだけ。

 故にどんな術式を有しているのかは、魔術師の強さを決める上で重要な要素とされる。

 強力な術式があれば、弱い術式も存在する。

 当たり外れがあって、生まれた時点で決定している以上、自分ではどうしようもない。

 その点で言うなら、この二人の術式は当たりだ。


「左に二チーム、右にはいないけど斜め前に一チーム隠れてる。たぶんこっちに来るよ」


 イリーナの術式は『鈴風』。

 大気を操作する術式で、風を発生させる際に鈴のような音がなるのが特徴。

 索敵、効果範囲に優れていて、元から存在する大気を操ることから魔力消費も少ない。

 彼女は今、目を瞑り周囲の大気を操ることで人の気配を探っている。

 大気のある場所ならば、どこに隠れようと見つけ出せる。


「もうすぐ来る。一人だけ進む速度にムラがあるから、たぶん負傷してる」


 加えて彼女は頭も良い。

 視覚で捉えられなくとも、手に入った情報だけで相手の状況を分析する。

 そして木々の影から人チームが現れる。

 彼女の目測通り、一人は脚に負傷していた。

 加えて他二人からも疲労がうかがえる。

 すでに何戦かし終えた後のようだ。


「二人とも下がってな! オレがやる!」


 飛び出したライルは両拳に炎を灯す。

 負傷し披露している三人は対応が遅れ、ライルの豪快な動きについてこれない。

 大きく跳躍したライルは三人の背後に周り、すかさず球体を殴り壊した。


「おっしゃ!」


 彼の術式は『炎熱武闘』。

 その名の通り、炎を熱を操り戦う術式だけど、他の炎を操る術式とは明確に異なる点が一つある。

 それは身体に炎を纏って戦うこと。

 放出するのではなく、身体の周囲に留めることしか出来ない。

 イリーナの術式に比べ汎用性は低いが、攻撃と防御はどちらも優秀。

 纏うだけだから下手な精度も必要ない。

 何より近接戦闘が得意な魔術師にはピッタリだ。


 炎と風。

 二人の術式は、まるで関係性まで表しているよう。

 

「凄いですね、二人とも」

「何言ってんだよ。アリスのほうがよっぽど凄いぜ」

「本当だよ。夢幻創造、だったよね? あんなの見たことも聞いたこともないよ」

「そ、そう……ですよね」


 自慢とかではなくて、私もそう思う時がある。

 魔術は色々なことが出来て、あらゆる可能性をもつ力だけど、先生の術式は中でもとびぬけている。

 夢を現実に変えてしまえるなんて、言葉だけで聞いても信じられないだろうから。


「しっかし思ったより楽勝だな~ もっと歯ごたえのあるやついねーのか?」

「そうやってすぐ油断する! 試験はまだ終わってないんだから気を抜かないの」

「だってよ~ 実際あんま手応えねーんだもん。イリーナだって拍子抜けしてんじゃん」

「そんなこと……ないよ」


 言いよどんだイリーナを見て、ライルは嘘つくなと文句を言う。

 今のは私にも嘘だとわかった。

 イリーナの言う通り試験はまだ終わっていないし、気を抜くべきじゃないと思う。

 ただ、現実的なことを言ってしまえば、私たちはもう突破出来たも同然だろう。

 明らかにチーム数が減ってきている。

 今なら戦わずに私の術式で隠れていれば、最悪終わりまでやり過ごせる。

 ライルはそんなことするつもりはなさそうだけど、堅実に合格を目指すなら手の一つだ。

 

「はぁーあ、眠くなってきたかも」

「気を抜きすぎだって!」

「あはははっ……」


 二人を見ていると、何だか私も気が抜けてくる。

 緊張しすぎるよりはマシなのかな。


「イリーナさん、周りにチームはいますか?」

「えーっと待って」


 イリーナが目を閉じる。


「左の二チームはいなくなったみたい。後は後ろに……一人? しかも結構遠いかな?」

「ありがとうございます」


 思ったより早いペースで周囲のチームも減っている。

 後ろにいる一人も距離が離れていて、人数差もあってこちらには来ないだろう。

 本格的に終わりを実感し始める。


 油断。


「待って! 後ろの一人がもの凄い速度で――」

「なっ!」

「ぅ……これ……」


 突如全身を襲う圧迫感。

 否、高重力によって私たちは膝をつく。

 

 重力操作?

 まずい、球体を守らないと!


「お願い!」


 私は術式で木の根を生成。

 重力に押しつぶされる前に球体を根でぐるぐる巻きにして守る。

 一先ずこれで、重力で破壊されることはない。


「へぇ~ 咄嗟によく守ったね」


 パチパチパチと拍手の音が聞こえて、私たちは後ろを向く。

 重力に抗いながら、何とか身体の向きだけ変えて。


「他のチームは今ので簡単に倒せたけど、君たちは違うみたいだね」

「あ、貴方は……」


 気品あふれる立ち振る舞い。

 服装から貴族なのは明らか。

 それもかなり裕福な、名のある貴族で間違いない。

 いや、名のある……なんて言葉で表す必要もなかった。

 直接の面識はなかったけど、胸の紋章には見覚えがあったから。


「フェレス家の……」


 かつて私たちクレイスター家は、王国でも五本の指に入る名家だった。

 当時に肩を並べた他の四貴族。

 その内の一人にして、これまで多くの国家魔術師を輩出している名門貴族の嫡男。


 リュート・フェレス。


ブクマ、評価はモチベーション維持、向上につながります。

【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです!

【面白くなりそう】と思っった方も、期待を込めて評価してもらえるとやる気がチャージされます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始しました!
生まれてすぐ捨てられた王子の僕ですが、水神様に拾われたので結果的に幸せです。

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

アース・スターノベルにて一巻(5/15)発売!
6x5a0f6eb3ndd9a6vererpjhthd_1ba8_ww_1as_

BKブックスより5/1発売!
6cag3px4jd6ohhw77s7b4yyv8f8h_1dqc_160_1p

月刊少年ガンガン五月号(4/12)にて特別読切掲載!
html>

カドカワブックスより第一巻好評発売中!
322009000223.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ