わたしのかみさま
ステラにはとてもとても好きな人がいる。小さな頃から彼女が困るといつの間にか現れて助けてくれる優しくて頼もしい人。名前も知らないけど、すごく優しい声で、手でステラを助けてくれる。だから、ステラはその人のことを心の中で《かみさま》と呼んだ。《かみさま》というのはとても素晴らしく尊いものだとこの間メイドのリタが教えてくれたのだ。
《かみさま》にまた会えたら嬉しいな、今度はもっとちゃんとお話ししたいなとステラは今日も妄想していた。現実はつまらなくて、見た目は良いけど嫌味な婚約者のことを考えると憂鬱だった。だからステラは初恋の思い出を反芻して今日も眠るのだった。
初めて《かみさま》に会ったのは3歳の時、雨上がりの庭をぐるぐると走り回っていたら草の根っこに躓いて転んで白いワンピースが泥で汚れてしまった。おろしたてのワンピースを汚してしまったことに、きっと母は怒るだろう。そのことを考えると憂鬱でステラは泣きそうになってしまった。そこにふと現れた少年が彼女の手を引いて、母の元まで連れて行ってこう言った。
「一緒に遊んでいたら転んでしまって、服が汚れてしまいました。俺が無理矢理誘ったからこの子を怒らないであげてください」
いきなり現れた知らない男の子にそう言われた母は怒るに怒れなかったのかお咎めなしだった。その日からステラにとってその子はヒーローになった。颯爽と現れて助けてくれるちょっと年上の男の子、間違いなくそれはステラの初恋だった。
次に彼と会ったのは公園で怪我をした小鳥を拾った時だった。巣から落ちた小鳥は弱っていてどうすれば良いかわからないステラはおろおろするばかりで困っていた。そこに現れた少年は前に見たよりも少し大人びていてステラはあの時に助けてくれた人だとすぐにわかった。
「どうしたの?」
「小鳥が、落ちてたんです。怪我をしていて…… 」
「なるほど、それなら俺がその鳥の面倒を見るよ。貸してごらん」
ステラがこわごわと両手を差し出すと優しい手つきで彼は小鳥を受け取った。その手は温かく、ステラはなんだかとても嬉しい気持ちになった。きっとこの人なら小鳥を助けてくれるという確信を持てた。《かみさま》の名前を聞きたかったけどもじもじしてしまって結局そのまま別れた。
祖母から貰ったオルゴールが壊れた時も、母が流行病にかかって死んでしまうんじゃないかと心配している時も、気の進まない婚約話が出た時も、彼はいつもタイミングよく現れてステラを助けてくれた。婚約話は一度流れたけれど、結局同じ相手と婚約することになった。婚約者は見栄っ張りで嫌味ばかり言う小心者、端的に言って嫌なやつだった。本音を言えばステラは《かみさま》と結婚したかった。名前も知らない、でもいつもステラを助けてくれるヒーロー。次に会えたら名前を聞くとステラはかたく心に決めていた。
ステラのあまり良くない婚約者の名前はティム。お金持ちの商家の息子で見た目は良いけど嫌味かつ女好きだった。彼の父親は身分が欲しくて、ステラの父はお金が欲しくて、両者の利害が一致していたためステラとティムを婚約させた。
ティムはいつも隣にお金で買える女の人を連れていた。みんな大人っぽくて香水の匂いのする綺麗な人だった。ステラも別に器量が悪いわけではなかったけれど、良く言えばすらっとしたストレートな身体をティムはあんまりお気に召さないようだった。
昔はステラの家も勢いがあって大きなお屋敷に住んでいたけれど、今はその1/3くらいの大きさの家に引っ越していた。父の事業の失敗でそうなってしまったのだ。それでも、別にそこまで苦労はしなかった。食事はきちんと食べられたし、服も前よりは質が下がったけれど季節ごとに何枚か新しいものを買ってもらっていて、見窄らしくはなかった。メイドのリタもちゃんとついて来てくれたし、使用人も数が減ったけれど、ステラが生活のために何かするということもなかった。
それでも、父と母はお金があった頃の暮らしに戻りたかったようだった。だから、ステラとティムを婚約させた。それは悪いことではない。それに、ステラだってもう16歳だ。そろそろ結婚して子どもだって産まないといけない。愛も尊敬もなくてもそれをすることが前々から決められていたのだ。
ティムは嫌なやつだけど、結婚するのが嫌で死を選ぶほどは嫌というわけではないし、仕方ないとも思っていた。父と母のことは好きだから2人に親孝行だってしたい。特に秀でたところがないステラにはティムとの結婚でしか親孝行をする方法は思いつかなかった。
ある日、珍しくティムがステラの元に訪ねてきた。隣に美しい女性を伴って。それだけならまだ良かった。でも、彼はこう言った。
「ステラ、俺は真実の愛に目覚めた。その相手はこの子爵令嬢のアネッサだ。だから、お前との婚約を破棄をする。でも、可哀想なお前に新しい婚約者を紹介してやる。俺の叔父さんだ。後妻として嫁入りしてもらう。少しばかり歳の差はあるが金のある人だ。金目当てのお前にはぴったりだろう?」
「はぁ、そうですか。とりあえず考えさせて貰っても良いですか?」
「ステラ、お前はそんなに俺のことが好きだったのか、でももう遅い。俺は真実の愛に目覚めてしまったからな。さよならだ、ステラ」
ステラは全然好きじゃない相手に振られた上に年の離れたティムの叔父と勝手に婚約されそうになっている状況にかなり腹が立つと同時に困った。《真実の愛、婚約破棄、もう遅い》なんて、大衆小説で読んだことのある言葉ばかりだった。
そして、することは同じでも脂ぎったおじさんの妻になるのは16歳の乙女であるステラにとってものすごく嫌なことだった。ティムならギリギリ我慢できるけど知らないおじさんは嫌だ。色んな感情がごちゃ混ぜになったステラの目から涙がひと粒ぽろりとこぼれた。ああ、この先どうしよう。いっそ家出でもするかと考えた。
ステラが広い公園芝生の上で蟻の巣を木の棒でつついているとふと影がさした。顔を上げるとそこには《かみさま》がいた。
「あれっ、《かみさま》?」
「えっ? 神様? 俺が?」
「はい。いつも助けてくれるから。前にもわたしを助けてくれましたよね?」
「ああ、そんなこともあったね。それで、今日はどうしたの? なんだか落ち込んでいるみたいだけど」
実は、とステラがこれまでの状況を説明し出すと《かみさま》の顔はどんどん曇っていった。
「なるほど、それで君はかなり年上の人の後妻になりそうなんだね。うーん、君が助けて欲しいって言うならやぶさかではないけど……」
「助けてください。お願いします《かみさま》」
「わかった。それじゃあまず君の名前を教えてくれない? 俺はニコ。呼び捨てで良いよ」
「ニコ、ニコ……、とても可愛い良い名前ですね! わたしはステラです。遠くの国の言葉で星っていう意味なんです」
「ステラか、覚えた。それじゃあステラ、君のご両親に挨拶に行こう」
「えっ?! そんなに簡単に結婚を決めちゃって良いんですか?」
「俺も結婚適齢期だし、いい加減縁談を断り続けるのも疲れたんだ。君は妹と年齢も近いし、変にすれてないから婚約者としては適任だと思う」
「どうしてそんな風に思うんですか? 」
「それは、勘だ」
「勘、ですか。なるほど……」
こうしてステラは棚からぼたもち的にずっと慕っていた《かみさま》との婚約が決まったのだった。両親も最初は訝しがっていたが、お金も地位も名誉もあるニコとの結婚を涙を流して喜んでくれた。実はティムのことはいけ好かないと思っていたらしい。これで両親の心配事もなくなるし、自分は初恋の人と結婚できる。万々歳だとステラは思った。
◇◇◇◇
ニコとの付き合いはとても順調で今日も街でデートの約束をしていた。彼は約束の時間ぴったりにステラを迎えに来てそれを見たリタはニコニコと手を振っていた。
「お嬢様、楽しんできてくださいね」
「ええ、リタ。行ってくるわね」
「お手をどうぞ、お嬢さん」
「はい。失礼します」
ニコの手は優しくて全然いやらしくなくてステラは大好きだった。ティムのことは好きじゃなかったから自分が好きな相手と婚約できて逆に彼の真実の愛に感謝しようと思った。
若い人の間で人気のレストランはとても賑わっていたけど、あらかじめニコが予約していてくれたためすぐに席に案内された。テーブルの真ん中にピンクと黄色の可愛い花が飾られていてステラはその時点でとてもテンションが上がっていた。
「ニコは本当にすごいです。こんな素敵なお店に連れてきてくれてありがとうございます。料理も楽しみです」
「妹が、ミーカという名前なんだけど、若い女性はこういう店が好きだと言うから予約したんだ。君が気に入ったみたいで良かった」
「そうなんですね。ニコはミーカさんと仲が良いんですね」
「年が離れているからね。昔はミーカの面倒ばかり見ていたよ。どこに行っても兄様兄様とついてくるから大変だったんだ」
ステラは仲の良い兄妹のやりとりを想像して微笑ましく思った。ミーカもきっとニコに似た素敵な人なのだろう。ステラはニコのことをまたひとつ知って嬉しくなった。その後に運ばれてきた料理はどれも美味しく、最後に飲んだ紅茶をとても気に入ったのでお土産に買って帰ることにした。
優しくて、格好良くて、いつもヒーローみたいなわたしの《かみさま》が婚約者になるなんていう幸運が自分のもとに訪れたことがまだ信じられなかった。もう一度ティムの真実の愛に感謝しよう、とステラは思った。
もしティムと結婚していたらあまり仲が良くないまま子どもを作り、育て、その間にティムが浮気しまくるという未来がありありと見えていた。それが今はずっと憧れていた《かみさま》の隣にいられるのだ。
ステラはニコと手を繋ぐのが好きだった。何度も助けられた優しい手に触れると胸の奥があたたかくなった。一度だけ、頬に触れるようなささやかなキスをした。婚約者なのだから許されると思うけれど、ステラは自分でも顔が真っ赤になっているのがわかった。
ニコは茹でだこみたいに真っ赤になったステラを見て困ったように笑った。
そんなある日、ステラがニコに内緒で会いに行こうと馬車に乗っていると、道の向こうを歩く彼を見つけた。その隣にはゆるくウェーブのかかった黒髪のものすごい美人がいた。赤い口紅が良く似合う妖艶な女性だった。
つるつるぺったんこのステラとは比べ物にならないメリハリのある身体つきをしていて、これは何も勝てる部分がないな、とステラは落ち込んだ。黒髪の美女と亜麻色の髪をしたニコはとてもお似合いで、微笑み合う二人はまるで絵画のようだった。
ステラはしょんぼりとして来た道を戻って家に帰った。それから自室で少しだけ泣いてリタの焼いたスコーンを7つも食べた。食べている間はニコのことを忘れられた。
ティムが浮気をした時も、彼から婚約破棄をされたときもこんな風にショックを受けなかった。でも、ニコが他の女性、しかもものすごい美女と笑い合っているのを見るのはとてもつらくて悲しかった。
ニコはもしかすると慈善事業のような気持ちでステラのことを拾ってくれたのかもしれない。今までに何度も助けてくれたように放って置けないだけだったのかもしれない。そう思うと悲しくてじんわりと涙で視界がぼやけた。その日はそのまま眠った。
次の日の朝、目が覚めてからステラは両手で頬を叩いて気合を入れた。これから努力をして綺麗になってニコに好きになってもらおうと決意したのだ。
ステラはまず、大人っぽいお化粧を覚えようと思った。黒髪の美女がしていたような赤い口紅を塗ると、少しだけ大人の女性のように見えてやる気が出た。いつもなら使わない鮮やかな色のアイシャドウで目を囲むとキリッとしてなかなか良いんじゃないかと思った。ふふん、と胸を張ってからリタの方を向いた。
「リタ、どうかしら? 大人っぽい?」
「大人っぽいというかお化けっぽいですねえ。お嬢様が楽しそうなので止めなかったですけどその顔で部屋から出ちゃ駄目ですよう」
「えっ? そんなに酷い?」
「はい、逆効果かと」
「そんなぁ、わたし大人っぽくなりたいのに……」
「お嬢様にはお嬢様の良さがありますよ。似合わないお化粧はやめてもっと違う角度から攻めましょう」
「と、言うと?」
「私に考えがございます」
ステラはリタのアドバイスを実行するべくニコの家に向かった。リタ曰く、見た目ではなく発言で大人の女アピールをするとのことなのだ。でも、リタがいつもよりしっかりぽってりと桃色の口紅を塗ってから、ふんわりと頬紅をさしてくれた。鏡の中に映るステラはいつもよりも色っぽく見えた。
一昨日、美女とニコが並んで歩いている道に通りかかった時、思い出して嫌な気持ちになったけれどステラは気持ちを切り替えてニコの家のベルを鳴らした。
「えっと、ステラ様、今日はニコ様とお約束がおありですか?」
何度か遊びに行ってるので樽のような体型にちょび髭にの執事とは顔見知りだ。いつも笑顔で迎えてくれるのに今日は何だか歯切れが悪い。
「いいえ、でも近くを通りかかったものだからニコに会いたくなって。駄目でしたか?」
「いえ、そんなことはございません。今、お呼びしますのであちらにソファに掛けてお待ちください」
「わかったわ。でも、ニコの部屋なら前回も来ているし場所はわかるわよ」
「ニコ様も急なので身支度がありますから。少々お待ちください。お茶もお持ちしますのね。くれぐれもそこで待っていてくださいね!」
「はぁい。じゃあここにいますね」
もしかしたらニコは具合が悪かったのだろうか?それなら帰ったほうが良いのかもしれないとステラは考えた。でも、折角だからひと目でも会いたいと思った。お土産に最近流行っているという安眠香を持って来たのだ。いつも疲れた顔をしているからこれを少しでも役に立てて欲しい。そう考えながら待っていると執事が飲み物を手に戻ってきて、もう少々お待ちくださいと告げた。
「もしかして、ニコは具合が悪いのですか?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが少しゴタついていまして」
「そうなんですか。あ、このお茶美味しいですね。柑橘みたいな香りがする」
「そうなんです。茶葉と一緒に柑橘の皮を入れているんですよ。食事にも良く合います」
「へぇ、勉強になります。ニコもこのお茶が好きなんですか?」
「ええ、ニコ様も気に入って良く召し上がっています」
執事とステラが喋っているとドタドタドタと音がして黒髪の美女がこちらに向かって走ってきた。前に見た時のように化粧をしてはいなかったけれど確かにあの時の女性だ。もしかして、自分は2人の逢い引きの現場に立ち会ってしまったのでは、とステラは考えた。それならば執事の態度にも納得が行く。
「あ! 見つけた! あなたがステラさんね。よろしく」
黒髪の美女はステラの両手をぎゅっと握った。ふわりとベルガモットの香りがした。これは、ニコと同じ香りだと気付いてステラの呼吸は止まりそうになった。化粧もせず寝巻きのような格好でニコと同じ香りがする。これはもう浮気、いや愛人なのかわからないけどとにかくステラは混乱して苦しくなって、ぽろりと涙が出た。
「えっと、よろしくお願いします?」
「あら、可愛い。飴細工みたいね。ニコが好きそうなタイプだわ。仲良くしましょうね? あれ? どうして泣いているの? 力が強かったかしら?」
「おい、やめろ。ステラが吃驚してるだろ」
「あらニコ、ひっどい寝癖は直ったの?」
「…………ニコの浮気者」
「え?」
「わたし、浮気する人は嫌だって言いました。なのに、そんな美人と浮気するなんて。しかも寝癖? そんな関係なんですか? 酷いです。わたしの純情を弄んだんですね!」
「いや、ステラ、何か誤解があるようだけど」
「もう良いです。ニコの馬鹿」
「ちょっとちょっとステラさん! わたしはニコの浮気相手じゃなくて妹よ。寝癖は直すの手伝っただけだし、それに全然会わせてくれないから気になっちゃって」
「そんな見え見えの嘘を」
「いえ、おふたりは本物の兄妹です。ただお母様がそれぞれ違うので見た目は似ていませんが、れっきとした兄妹です」
「……ごめんなさい、今日はもう帰ります」
「ステラ、ちょっと待って」
帰ろうとするステラの手をニコが強く掴んで抱き寄せた。ステラはそれだけでドキドキして呼吸が止まりそうだった。
「このままだと転んで怪我しそうだし、一旦落ち着こう? 俺の部屋においで」
「あれ? ステラさんってもしかしてニコが何度も助けた小鳥ちゃん?」
「話がややこしくなるからやめろ。ステラ、ほら行こう」
そう言って手を引かれてばステラは逆らえるはずもなくニコの部屋へ連れて行かれた。
「ステラはちょっと勘違いしているかもしれないけど、俺の婚約者はステラだし他に相手なんていないからね」
「……ミーカさんと全然似てないですね。勘違いしちゃってごめんなさい。取り乱しちゃって、急に来たのもごめんなさい。どうしても会いたかったんです」
「良いよ。婚約者だからね。昨日はちょっと寝苦しかったからつい遅くまで眠れなくてね。ステラ、今日はいつもと何だか雰囲気が違うね」
「わたし、ミーカさんのこと秘密の恋人だと思ったんです。大人っぽくて、美人で。だから、そういう風になりたくて。でも誤解でよかったです。ニコに浮気されたら人間不信になっちゃいます」
それからステラは思い出して持ってきていた安眠香をニコに手渡した。うす紫色のリボンでラッピングされた安眠香をニコは不思議そうに見つめた。
「安眠香です。いつもお疲れのようだったので使ってみてください。これを焚くと良く眠れるとの事で流行っているんですよ」
「ありがとう。早速今晩にでも使わせてもらうよ」
「はい。あと、わたし、早くニコとの子どもが欲しいです」
その言葉を聞いてニコは大きく咳払いした。そして、その真意を確認した。
「えっと、まずはどうしてその発言に至ったのかな?」
「赤ちゃんが出来たらちゃんとした家族になれますし、それにニコとの赤ちゃんならきっと可愛いと思うんです」
「ねぇ、ステラ。赤ちゃんってどうやって出来るか知ってる?」
「ええ、もちろんです! 子どもが欲しい男女が裸でベッドに入るとキャベツ畑からコウノトリが運んでくるんですよね」
「途中まではあってたんだけどなぁ。それって誰に聞いた?」
「リタです」
「また、リタかぁ」
「実はこれを言ったらニコがわたしのことをちゃんと大人の女性だと思ってくれるって言ってまして」
「大丈夫だよ、俺は君のことちゃんと大人の女性として見てるよ。だから、そんな風に君自身を差し出さなくても良いんだ。これからゆっくり家族になるんだから。俺は冷たいと言われることも多いけど、身内にはとても甘いんだ。今まで婚約者や妻はいなかったからわからないけど、きっと俺は君のことを1番大切にするよ。俺は、君に会うたびに好きになっていったんだ。天真爛漫で、いつも明るくて、放っておけなくて。だけど、昔は妹よりも小さい女の子のことを好きだなんてとても言えなかった。俺の好きは純粋な気持ちじゃなかったから」
「どういうことですか?」
「不純ってことだよ」
「ニコ、わたしも不純です。あなたのことがずっと好きでした。ニコと結婚したいって小さい頃から夢見ていました。神様っていう言葉の意味、今は知っています。でも、幼い頃はとても素晴らしくて尊くて大好きな人のことを《かみさま》って言うんだと思っていたんです。わたし、ずっとニコのことが大好きなんです」
「……うん」
「ニコにならなんだってあげられます。だから、あの、えっと」
「大丈夫。それ以上言わなくてもわかるから。俺から言わせて。ステラ、愛してる。この先ずっと一緒にいよう」
「はい! こちらこそよろしくお願いします」
「もう何年も待ったからあと2年、頑張って我慢するよ」
「わたし、ニコにならなんでも…」
「駄目。駄目なものは駄目。ちゃんとするから。俺はね、順番を守る男なんだよ」
ニコはいつだってわたしのことを考えてくれていた。婚約者になってから色んな話をして、色んなところに出かけて、優しいニコのことを今までよりもっと好きになった。あと2年はきっと遠いようで近い。大好きなニコとこの先もずっと仲良く過ごしていきたいな、とステラは思った。さっきからずっと繋いだままの両手が温かくてステラはとても幸せだった。
ブックマークやポイントを入れてもらえるととてもやる気が出ます。