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桃源郷  作者: クロ
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序章

日常から少し離れた非日常へようこそ。


 祖母の遺品整理のとき綺麗な写真を見つけた。

それは画面いっぱいに桃の花が咲いている、どこかで一度は見たことがありそうな写真だった。

その写真が妙なことに気づいたのは母だった。

 本来桃の花は3月後半から5月ごろにかけて咲くがこの写真が撮られていたのは9月だったのでカメラの設定ミスだろうと話していたが、残っていた他の写真は変わったところがなく、ただこの一枚だけがおかしかった。

 狂い咲きにしてはずいぶんとたくさん咲いているし、綺麗だ。

以前、一度だけ狂い咲きの桜を見たことがあるが、花びらはもう少ししわくちゃな感じだった。

不思議だね、凄いね、なんて母と言いながらその写真をアルバムへ戻した。

 その夜、どうしても気になり、またアルバムから写真を取り出し眺めていたが、時間も遅かったしその日は今朝早くからバタバタしていたため、しばらくすると寝てしまっていた。


 その夜、夢を見た。

祖母の家の庭先で祖母と幼い私が花の種を植えながら楽しそうにしていた。

 このとき幼い私が祖母に「桃源郷」について聞き始めた。

この話の続きは今の私には覚えがなかったが祖母は微笑みながら家の裏の方に振り返った。

 私は祖母の背後に立つようにしていたから驚き仰け反ってしまったが祖母には私の姿が見えてないようで、私に見向きもせずしゃがんでいた祖母は立ち上がり、曲がった腰に手を乗せるようにしてゆっくり歩きそのまま物置小屋の横にある裏山の入り口までくると、

「昔、この向こうに四季折々の花が咲き乱れる場所があったのよ」と話すと、幼い私が自分も行けるかな?私も行きたいと目をキラキラさせて言うと、祖母はまだダメよ、危ないからね、と幼い私の頭を撫でると振り返って今の私に向かって、


「今のあなたなら行けるかもね?」



 …その瞬間、目が覚めた。

起きてすぐ回らない頭でどうにか最後の言葉を思い出す。

今の私なら。

 ただの思い出なら、夢なら、こんなに心がざわつくこともなかっただろうが、

何故か過去の自分ではなく、“今の自分”ならと行けると言ってくれた祖母を不思議と疑うことなく、そうなのだろうと思えた。


 祖母の家にいるのは3日間で今日はその最終日だ。

昨日のうちにやるできことは終わったし、

この家はもうじき取り壊しが決まっているため、

ご近所への挨拶まわりだけで今日することはほとんどない。

 そのため私がいなくても済むことばかりなため、

あとのことは母に任せて自由にしていいとのことだったので、

「桃源郷」探しの一日にすることにした。


 飲み物とカメラをバックに入れ、

出かけてくるとだけ伝えて家の裏手に向かった。

けれど大変なのはここからだった。

 誰も手入れするしともいなかったのだろう、裏山の入り口は草が生茂りほとんど道が見えないため、納屋から草刈鎌を持ち出すことになったし、母にそれとなく聞いたが「桃源郷」のことは知らないそう。当然外なので大量に虫除けスプレーを自分に吹きかけた。


 小屋横の獣道の大量の草を刈りながら進み始めてすぐの頃は、小さな花が咲いていたが進むにつれどんどん緑が深まり、花の一つも遂には見かけなくなった。

歩き始めて足がそろそろ限界を迎え始めた頃、ようやく開けた場所に出た。

 草が茂っていたが切り株を見つけ、座れるくらいにしてやっと一休みしながら持ってきたお茶を飲みまわりを見渡すと何処か見覚えがあることに気がついた。

 幼い頃、父とここまできたことを思い出した。思えばこの切り株も父と木を切ったのだ。そのときは切った木をどうにか持って帰り、小さな椅子を2つと本立てを作った。椅子は未だに取っておいたのか先程、物置小屋にあった気がする。

 そこからの行動は早かった。急になんだかとても楽しいことをしている気になり、遂にはひとりだからと歌いながら進んでいく。あそこにはアレがあった、コレがあったとさながらRPGの主人公にでもなったかのような気分で幼い頃のようにワクワクしながら歩いた。


 だがいくらか進んできたが変わらない景色にとうとう飽きてきてしまった。というのも見覚えのある景色がしばらく前からなくなりだしたからだ。

 休憩した場所から一時間は歩いただろうと思うが、いくら進んでもどこかにたどり着くこともない…と思ってたとき、また開けたところに出たので少し休もうと息をついた。

 山の中にいるためか、祖母の家より断然涼しいことに気がつき、耳を澄ますと何処かに川流れているのか水の流れる音も聞こえる。風が吹くと草木が揺れ、木漏れ日が姿を変える。

 せっかく持ってきたカメラを構えて目で見える綺麗に思えたものをすかさず捉えていった。

 そうしてのんびりとした時間を過ごしていると小さな鳥が寄ってきた。


 見るとその小鳥はかなり変わった姿だった。

というのも、綺麗なオレンジ色をしていて、よく見るとペリドットの瞳をしている。

 ずいぶん華やかな見た目の子だな…とじっと見ていたらなんだか小鳥と目があった気がした。

持っていたカメラを構えようとしたその瞬間、小鳥は羽を広げ飛んだ。

 その姿はこれまで見たことの無いほど鮮やかで綺麗で。鳥が空を舞う、なんて言葉がこれほどしっくりくるのか、と思わず立ち上がりその姿に見惚れてしまった。

 やがて小鳥は私のそばに生えた大樹に止まった。

 そのとき初めて大樹の存在に気づいた。なんで気づかなかったんだろうか、深い茶色の幹に陽の日差しが入らないほどの葉が茂っていたため私のまわりだけがなんだかひどく暗い。

 すると先程まであんなに明るいと思えたこの場所が暗い静かなところに思えてきた。

途端に今いる場所が怖くなり、小さく身震いをした。

ピィーと高い音が聞こえた。あの小鳥だ。

 小鳥は羽ばたき、また空を舞ったが先程とは違い、ピィーとリズム良く鳴きながら飛んでたかと思うと、助走をつけるかのように少し遠くまで飛ぶとそのままかなりの勢いで私に向かってきた。驚いてしまいとっさに動けずバッと顔を伏せた。

そのとき耳元で風の抜ける音と声を聞いた気がした。


『ようこそ、桃源郷へ!』


 その声は今まで目の前で鳴いていたあの小鳥の声だと、そう思うことに時間はかからなかった。


拙い文章でしたがいかがでしたか。

コメント等いただけると幸いです。

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