テントで2人きり
「やっぱり一緒に寝よっか」
少し顔を赤くし、笑いながらテントの中へ入ってくる。
「えっ、サリーネさん?み、見張りは」
「この結界の魔法具使ったから大丈夫だよ」
え、まじでそれ使っちゃったんですか?
「それって高級なんじゃ……」
「まぁ、ナトレ村とかで家が1軒買えるくらいかな。それよりも君と2人で寝たかっただけだからそんなこと気にしなくていいよ?」
観光地で1軒屋が建つってどんな高級品なんだよ……
「それよりもっ……と」
アイテムバッグからバッグ以上の大きさのものが出てくる。
「こっちで一緒に……ね?」
ポンポンとベッドを叩く。
待て。まず、アイテムバッグからいかにもふわふわで寝心地良さそうなベッドが出てくるんだ。
まぁ、1部屋分のものが入るって言ってたから入ることは知ってはいたけども……
そして、2人で寝るってまじで寝袋並べてとかじゃなくてベッドに2人でってことか?!
その2人がギリギリ入れるかどうかの大きさのベッドに?
いやいやいや、サリーネさんは師匠だけどその前にめっちゃ綺麗な女性なんだぞ?!
冒険者でずっとやってきてるからかスタイルも抜群で……
ダメだ。1回考え出すと止まらない……
バチンッ
「うおっ。とどうしたの?急に自分の頬を叩いて」
あなたに対する煩悩を弾き飛ばすためですよなんて言えない……
「まっ、とりあえずこっちに来てよ 」
煩悩をかき消そうとほかのことを考えていた俺の手をサリーネさんが引っ張りベッドへ引きずり込もうとする。
高レベル冒険者なだけあって俺は抵抗してもその抵抗などないかのごとく引きずり込まれた。
「ほら、狭いんだからもっとこっちに寄って」
サリーネさんの胸が俺の目の前に来る。
つまり、顔と顔がすぐそばにあるのだ。
「うわぁ、アルク、男の冒険者のくせに髪の毛綺麗ね。珍しい」
サリーネさんの方が綺麗ですよなんて言えたらいいんだろうけど……
そんな女性を口説く技術があるわけがなくて、俺は赤面して静かに俯いて下の方を見ようとする。
「んっ」
ああああああああああっっっ。
胸に頭がががががが。
「もうっ。わざとじゃないわよね?」
「違います!違いますって!!」
頬を掴んで顔をサリーネさんの方へ向けさせられる。
「嘘はついてないみたいだね。許そう」
許して貰えた……
こんな所へ引きずり込んだサリーネさんが悪いのでは?襲われても文句は言えないですよ?とは一瞬思ったが言うのはやめた。
だって襲おうとしても襲えるような相手じゃないし……力に差がありすぎて……
分かりやすく言えば産まれたばかりの赤ちゃんがお母さんに欲情して襲おうとするけど圧倒的な力でねじ伏せられる的な……赤ちゃんは欲情しないってのは言わない約束。
「本題に入りましょうか」
サリーネさんが言ってくる。
「本題って……?」
「まさかほんとに2人で寝るだけだと思ってたの……?まぁそれもいいかもしれないけど」
いいかもしれないなんて言わないでくださいよ。
意識しちゃうじゃないですか……
「本題はね、君が泣くのを我慢してるように見えたからお姉さんが胸を貸してあげようと思ってね」
「え?泣くのなんて我慢してなんか」
「してるんだよ君は。というかそんな状況で泣かない人の方が居ないでしょ。ずっと一緒にいた幼馴染に役立たずって言われて追い出されて」
そう言いながらサリーネさんが俺を暖かく抱いてくれる。
「ほら。私がいくらでも愚痴でも全部受け止めてあげるから」
その時、俺の何かが決壊した気がした。
師匠で、年上の女性で、何とか取り繕うとするが涙が止まらなくなる。
何十分、何時間泣いていたのだろうか、もしかしたら数分だったのかもしれない。
俺はすっきりして眠りにつくことが出来たのだった。
次回更新は明日の夜を予定。
次回は閑話です(誰視点なのかは予想が着くかもです)