第四話 基礎ステータスの異常値。
一夜明けて、まだお昼だというのに。ウエイン亭はちょっとした賑わいを見せていた。村長である母クレーリアが、アリッサを抱き上げて頬にキスをする。
「皆さん、昨日は娘の、アリッサのお祝いありがとう。ついでに報告もしちゃうわ。あのね、この子ったらなんと、イヴニス様のご加護を受けたみたいなのよ――」
『おぉおおおおおおっ!』
この場にいる皆も知っている。理解している。この国には、聖魔法を使う聖女様はひとりしかいないということを。この村どころか、この伯爵領で初めての聖魔法使いになるのだ。
聖女様はひとりしかいなかったから、毎日忙しく活動されていると聞く。もし、アリッサが成長し、立派な聖魔法使いとなったなら、聖女様を助けることも叶うだろう。
聖女様となるほどのレベルに達するかどうかは、なってみないとわからない。どの加護も、どのスキルも、使えば使うだけ上がるとは限らないからである。
でないと、村は町は、領都はその道の達人だらけになってしまうから。
スキルレベルというのは0から始まって、10まで上昇する。0は授かったばかり。1は初心者であり、5で熟練者。10まで上がると達人の域に達すると言われていた。
毎日料理を続けているダンドロールですら、料理のスキルレベルは5。鍛冶屋のブルズゲアに至っては、鍛冶のスキルレベルが6である。
達人の域に達した人は、この村には存在しない。伯爵領領都でもあまり聞かないのである。
裏を返せば、アリッサが聖女様になり、この村を出る運命に直面する日はしばらく訪れないであろう。宿屋と酒場の看板娘でありつづけられる。そういうことでもあるのだった。
ウエイン亭も、お昼の部の営業が終わり、アリッサは夕方までお昼寝タイムであった。人気者の看板娘のお仕事が待っているからこそ、ゆっくりと休まなければならない。
ベッドに仰向けになり、目を瞑って眠ろうとするのだが、目が冴えてしまって寝付けない。それは仕方のないことだろう。もう一人の彼女が覚醒してしまった――というのは語弊があるかもしれないが。あえて言うなら、元々の彼女がやっと目を覚ましたのだろう。
アリッサの中にいるのは、間違いなくアリッサ自身。この世界に似たゲームに存在していた、あるプレイヤーの記憶と知識が、あらかじめダウンロードされていた状態。
少しだけ大人の思考を持つようになっただけの彼女であって。魂が入れ替わったわけではないのである。彼女は間違いなく、イヴニスとアダムスたちが、この世界で第二の生を送ってほしいと、願ってくれて生まれたアリッサ本人なのだから。
「(七神様――)」
もはやこの三文字を思い浮かべただけで、ステータスボードが瞑った視界に現れる。目を開けても同じものが見えると言うことは、VR(仮想現実)ではなくAR(オーグメンテッド・リアリティ。拡張現実)のようなものだろう。
「(これ、小数点ないんだね。上がってるかどうか、まったくわからないわ)」
小数点というのは、レベルの数字のこと。ゲームだったころのレストラ・オンラインでは、課金チケットを使ったりすると、目に見えてスキルが上昇している小数点がみえたり、上昇確率が増えたりなどの演出もあった。
レベルという概念はあれど、経験値制ではなかった。だから、パーティを組み、強い誰かに戦わせて、楽にスキルレベルを上げるような。いわゆる『パワーレベリング』のできない仕様だったこともあり、公平で誤魔化しのきかない地味なシステムが故に、息の長いゲームでもあったわけだ。
洗礼のときに口に出さなかったが、実はイヴニスの加護だけでなく、拳の神アダムスの加護も受けていた。生まれたときから、力が強かったことはそれが起因しているのだろう。
実際、ステータスボードにある数値を見ても、首をかしげてしまうことになっていた。
筋力:現在5:補正96:成長限界9999
おかしい。現在値と補正を足すと100ある。筋力が9999まで上がる成長限界値などはすでに、バグっているようにしか思えない。そのうちサトウキビまで絞れるようになるんじゃないかと思ってしまう。ゲームには収穫物として存在してはいたが、ここにそれがあるかは別として。
確か、筋力の最大値は100だったはず。レストラ・オンラインのときはそうだった。 そこにアイテムなどの補正が入り、100以上になっていることは確かにあった。
五歳で5というだけでも多いような気がする上に、そもそも補正値なんてなかったはずだ。
「(グレープネーブルを絞れるのって、そういうことだったのね……)」
魔力:現在2;最大2:成長限界999
魔力を見てもおかしい。確か魔力も最大が100だったはず。昨日気絶したことで上がったように見えるが、最初はきっと1だったのだろう。補正がないのが、まだ可愛く思える。
枯渇すると魔力(ゲームのときはMPだったが)は上がりやすい傾向があった。死んだときに課せられる『デスペナルティ』ではないが、枯渇すると行動に制限があったはず。おそらく気絶するように眠ってしまうのが、それに該当するのだろう。
女神イヴニスと、神アダムス双方の加護を受けたからか。ゲームであったレストラ・オンラインではなく、現実の世界であるこのフォーミレストで彼らの加護を受けたからなのかはわからない。
ただ少なくとも、バグった状態といえるこの成長限界。あの二人の神が関与した結果であるのは間違いないだろう。
ゲーム時代は実用的で、回復魔法よりも多く使ったあの魔法。なんて言っただろうか?
「(あ、そうだ。あれってほら。そのまま『体力回復魔法』だったわ)」
そういう落ちだったのである。ただでさえ、他人に魔法をかけるより、自分に魔法をかけた方の上昇判定は低かった。何より、怪我をしていない状態で、かける上昇判定と、怪我をしている状態での上昇判定では、していた方のが確立は高かったのだ。
そうなると、怪我をしていない今の状態では、もしかしたら上がりにくいのではないか? そう思ったアリッサはこちらを試してみようと思ったのだった。
『我が内に宿る聖なる光を元に、(ここまでは同じなのよね)すり減った命の糧を戻したまえ。(だったかしら?)初級体力回復魔法』
胸に手を当てて、呪文を詠唱。体に魔力の流れが感じられたことで、魔法が成功したのを理解する。寝ていると体力を消費するという、そんな理屈を思い出したから。無傷で回復魔法を使うよりは、良い結果が訪れると思ったのだった。
ステータスボードを見たアリッサは、心の中でガッツポーズ。
「(やったわ。思った通り)」
魔力:現在1;最大3:成長限界999
魔力の最大値2だった状態で、残量も2。そのまま最大値が1上がり、ぎりぎり1残っていることで、気絶を免れたのだ。昨日は、1から0に落ちたことで、枯渇状態に陥った。だから眠るしかなかったというわけだ。
あとはどれだけ休めば、どれだけの時間で魔力が回復するか。それさえわかってしまえば、反復練習ができる。
彼女に口元は、何か悪いことを考えている子供のように、くいっと吊り上がっている。
聖魔法:レベル0:成長限界10
ここは変わらない。だが、小数点以下では上昇してくれていると期待したいところ。
あのゲームは間違いなくスキルレベル制だった。今現在、目の前に見えているステータスボードにもあるように、この世界のどの技能も、スキルレベルなのだろう。
鍛錬によって、反復練習によって、また、日常的なルーティンワークによっても、スキルレベルの上昇判定が行われていると考えて良いだろう。父ダンドロールの料理も、母クレーリアの真贋もそうだ。どこまでのスキルレベルになっているか、いつか聞いてみようと思っている。
努力は無駄にはならない。信じて反復練習することで、聖魔法は上がってくれる。
この先何が待っているかわからないけれど。アリッサは聖女様を目標にし、聖魔法を上げていこうと思ってる。
「(聖女様に会ってみたいな。どうしたら、聖女様になれるのか? 聞いてみたいって、お父さんとお母さんにおねだりしてみよっと)」
アリッサは、魔力が1から2に戻りそうもなかったから、諦めてお昼寝をすることにしたのだった。
「(おやすみなさい)」
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