表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

第二話 そういえばボク。

「――ふーっ」


 うす暗い店内に揺らめく、五本のロウソクが順番に吹き消される。ややあって明かりがついた。


『『『アリッサちゃん。お誕生日おめでとう』』』


 沢山の拍手とおめでとうの言葉。


「ありがとー」


 両手を高く上げて、応えるアリッサ。アリッサの右側には、母クレーリア。左側には、父ダンドロール。

 クレーリアが立ち上がって、皆を見ながら感謝を述べる。


「私の娘の誕生日を一緒に祝ってくれてありがとう。食べてください。飲んでください。私のおごりです――あ、お酒のおごりは、二杯までですよ?」

『あははははは』


 夕方のウエインベール村。宿屋兼酒場兼村長宅ののウエイン亭。カウンターの前に置かれたテーブルの上には、アリッサが乗ってしまえるような大きさのケーキ。

 今日この日、アリッサはこの国でも子供たちにも大切な、五歳の誕生日を迎えた。


 明日の朝、待ちに待った洗礼を受けられる。父ダンドロールと、母クレーリアを含め、この場にいる皆の、大方の予想は当たっているはずだと誰もが思っている。

 間違いなく、『腕力に由来する加護』を受けているだろうと。


 翌朝、アリッサは両親とともに、クルムポート伯爵領、領都にある七神様たちが祭られる神殿へ向かっている。王都と伯爵領領都を結ぶ、循環乗り合い馬車に乗っていた。この馬車は、一日あたり十往復ほど走っている。そのため、王国民の足として使われているのだった。

 この国の子供は、五歳になるとこのアリッサのように、神殿で洗礼を受けることができる。洗礼とは七神様たちに感謝を捧げ、これからの無病息災を祈る。祈りのあと、守護されるべき七柱の中から一柱が告げらる。名と姓の間に、家名である姓のない場合は名の後に、その神の上位文字を名に刻むという習わしがある。


 例えばダンドロールの場合、守護柱が火の神フェルミスであることから、ダンドロール・フェル・ウエインベール。クレーリアの場合、守護柱が闇の女神ノワレスであることから、クレーリア・ノワ・ウエインベールとなる。名を名乗ることで、誰の守護を得ているかがわかる形になっているのだ。

 その際、授かっている加護、または今後授かるであろう加護を教えてもらえる。家庭向け、仕事向けの加護を授かることが一番多いそうだ。


 ダンドロールもクレーリアも、天職を授かることはなかった。ただ、クレーリアは町長の一人娘で家を継ぐことが決まっていた。幼なじみのダンドロールは彼女を支え続け、婿入りしたのだという。

 クレーリアは五歳のときに『真贋(しんがん)』のスキルを得て、ダンドロールは料理のスキルを得た。ダンドロールが料理に長けていたからこそ、この宿屋で酒場を経営することができたという。だからウエイン亭の味は、実は『お袋の味』ならぬ『親父さんの味』ということになるわけだ。

 二人の昔話を聞きながら、アリッサは自分の身にこれから何が起きるのか、期待に胸をふくらませ、ワクワクが止まらなかった。


 お昼になる前に、クルムポート伯爵領の領都に到着。王都ほどではないにしても、村の優に数十倍はある敷地面積の中、栄えた町並みがとても新鮮に感じる。

 馬車ターミナルで循環乗り合い馬車を降り、神殿行きの馬車に乗り換える。子供を連れた親だとわかると、御者の男性が『お嬢さんは五歳ですね? おめでとうございます』とお祝いの声をかけてくれる。


「そうです。ありがとう、ございます」

「いいえ、どういたしまして」


 アリッサは笑顔で応える。酒場のお客さんとのやりとりがあるからか、人見知りしない子に育っていた。


 ややあって、馬車は神殿に到着する。円錐状で角のない建造物、これが七神様をまつる神殿の特徴。どの領都、王都であっても、この建物は神殿だとわかるようになっている。一階には四角い入り口。回りの建物とは一風変わっている上に、その高さも倍以上ある。

 神殿は、アリッサにとって見上げるほど大きく、上を向いてぽかんと口を開けてしまうほどのものだ。彼女のその可愛らしさに、ダンドロールもクレーリアもつい口元を緩めてしまう。

 神殿の中に入ると、礼拝堂があり椅子が平行に並べてあり、正面にはステンドグラスのようなモザイク画の壁が見える。ここはおそらく、婚礼などの式典が行われる場所なのだろう。


「うぁ、大きいねー」

「そうね」

「あぁ」


 モザイク画は、七神様たちをモチーフに作られているようだ。ただ子供にはわかりにくい感じに、様々な色の石がはめ込まれている。アリッサには『ただ大きな絵』としか見えないのだろう。

 モザイク画を見下ろし、右側へ視線を移すと、その右下横には奥へ繋がる通路がある。すると奥からひとりのシスターが出てくる。


「こんにちは。お嬢様の洗礼でしょうか?」

「はい」


 ダンドロールがそう答える。


「では、奥へ案内いたします」

「よろしくお願いします」


 今度はクレーリアがお願いをする。彼女に手を引かれて、アリッサも奥へ進む。殿はダンドロール。やや緊張しているアリッサの後ろ姿に、でれっとしそうになるのを堪えていた。

 先ほどの広間の、おおよそ八分の一ほどの大きさの部屋。そこには、様々な高さの、男女の石像が七体。ほぼ人々と同じ等身大。中心に、髪の長い優しそうな表情の女性。右には頭二つ分くらい背の高い、肩口くらいの長さの髪を持つ細身の女性。おそらく彼らは、七神様を形取った本尊なのだろう。


 石像の前には、なぜか人数分の椅子が用意されている。


「こちらにお座りになってお待ちくださいね」

「えぇ、ありがとうございます」

「わかりました」

「すわっていいの?」


 アリッサがシスターに尋ねる。


「はい。こちらでお待ちくださいね。あなた、お名前は?」

「はい。アリッサです」

「アリッサちゃん。五歳のお誕生日、おめでとうございます」


 彼女は、とても良い笑顔で祝いの言葉を贈ってくれた。


「はい。ありがとう、ございます」

「いいえ。どういたしまして。では、少々お待ちくださいね」


 シスターは、丁寧にお辞儀をして左奥の扉を開けて入っていく。

 奥では準備ができていたのか、間が開かずに扉が開く。そこには先ほどのシスターと、白装束のローブのようなものを羽織った、首元に綺麗な太めの首飾りを下げた年若い男性。


「お待たせいたしました。わたくしはこの神殿の司祭を任されております、ホルムフィールと申します。あ、『若いな?』と思ったでしょう? すみませんね。わたくし、昨年王都の神学校を卒業しまして、父のあとを継いだばかりなものですから。ですがご安心ください。仕事はきっちり、間違いなく――」

「あ、あの。洗礼は、仕事とはちょっと」


 シスターがつい、突っ込みを入れてしまう。


「あははは。すまないね。わたくしもつい、緊張してしまったものですから」


 ホルムフィールという司祭は、まったく緊張する素振りは見えなかった。おそらくは、アリッサたちの緊張をほぐそうとしてくれているのかもしれない。


「――くすっ」

「あ、今笑ったでしょう? お兄さん、ちょっと傷ついちゃうな? なんて、冗談ですよ。どうです? 準備はよろしいでしょうか?」


 アリッサは笑い出しそうになるのを少し我慢する。彼女の緊張感のなさは、度胸が良い印なのだろうか? クレーリアは『これっ』と、窘めるような表情をする。ダンドロールは、『まぁまぁ』と苦笑していた。


「はいっ」


 元気よくアリッサは返事をする。


「では、両手をこのように組みまして、顎の下に持って行きます。そのまま目を閉じて、少し目を瞑っていてください」


 アリッサは両脇にいる二人の仕草を真似て、手を組みぎゅっと目を瞑った。


「聖の女神イグニス様。拳の神アダムス様。火の神フェルミス様。水の女神アクエス様。地の神ノーミレス様。風の女神ウィムレス様。闇の女神ノワレス様。偉大なる七柱の神々の皆様」


 ホルムフィールの澄んだ声。洗礼に必要な宣言のような祝詞が続いていく。


「五歳になります、このアリッサが、あなたたちの加護を求めています。どうか我がと思われる方がいらっしゃいましたら、彼女をお守りいただけないでしょうか?」


 この場でアリッサの守護柱が決定する。


「アリッサちゃん。この石版に両手のひらをあてて、くれるかな?」

「はいっ」


 椅子から立ち上がり、二歩歩くと石版の前に立つ。石版には青く澄んだ何も書いて買いツルっとした平らもの。その下の部分には幾重にも輪郭の書かれた、両手を形取ったものがある。


「そう。そこに両手をあててね?」

「はいっ」


 アリッサは手をあてる。『これからどうするの?』という視線をホルムフィールに向けた。彼は笑顔でこう答えてくれた。


「では、わたくしの後について、唱えてくださいね。『七神の皆様方にお目にかかれる日を楽しみにしています』、はい」

「『しちしんの、みなさまがたに、おめにかかれるひを、たのしみにしています?』」


 すると、石版が光り、文字を形作っていく。それはアリッサにしか読めない、秘密の文字になっていた。


「アリッサちゃん。名前、読めるかな?」


 アリッサは両親から、文字の読み方だけは教わっていたのだった。


「あ、はい。よめます。えっと、ボクのなまえのうしろ、うん、このままでいんだよね? ……アリッサ・イヴ・ウエインベール?」


 しばしの沈黙。驚いたような表情のホルムフィール。


「――これは素晴らしいです。この場に立ち会えたことを、わたくしは感謝しなければならないでしょう。イヴニス様のご加護を受けたようですね。聖魔法のスキルを得たのかもしれません。とても素晴らしい。この国でも、アリッサちゃんで二人目です。これは秘密裏に、聖女様へお知らせしないといけませんね。これは忙しくなりますよ……」

「イヴニス、様?」

 そう、彼女の名前を口に出した瞬間、もの凄い量の情報が、頭に繋がったパイプから強引に流れてくるような錯覚を受ける。


「ぅぁっ」

「だ、大丈夫? アリッサ」


 それは一瞬だった。けれど、濃密でそれでいて、とても懐かしい感じのするものだ。


「だいじょうぶ、だよ?」


 実は、アリッサの名前はもうひとつ記述されていた。それは『アリッサ・アダ・ウエインベール』。やはり、イヴニスの加護だけでなく、アダムスの加護も受けてしまっていたようだった。


「そう。それならよかった。それにしても、すごいわ。聖魔法ですって」

「あ、あぁ。俺も驚いた。俺もそうだったが、皆の予想では、アダムス様の系統のご加護だと思っていたからな」


「(イヴニス様、って、もしかしてGM(ゲームマスター)の、あのイヴニス様? あれ? ゲームって何? そういえばボク、イヴニス様と何度も一緒に遊んだような気がするけど……)」


 口には出さなかった。もちろん、こんなに流ちょうな話し方をしたら、両親が驚いてしまうことも納得できていたからだ。

 アリッサは何かを思い出した。それは間違いないことだっただろう。



お読みいただきありがとうございます。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークしていただけたら嬉しいです。

書き続けるための、モチベーションの維持に繋がります、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ