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第零話 プロローグ。


♪てってれーっ


――アリスが黒龍王グリダリーザを討伐しました


『ぃやったぁああああっ!』


 アリスと呼ばれたプレヤーが、右の拳を突き上げて喜ぶ。


『やっと倒せました。楽しかったです。また遊びましょうね、GM(ゲームマスター)。約束ですよ? 疲れたー、寝たら仕事ですよ。休みたいなー。じゃ、また――』



彼女はそう言って、ログアウトしていった



……


再会を約束して、サヨナラしたばかりなのに



もう逢えないなんて、悲しすぎるわよ――




「なぁんですってぇええええええっ?」


 数十個の並べられた液晶ディスプレイ。その前にはキーボードや様々な機器。まるでそこは、さながら放送局のモニタールーム。

 中央にあるディスプレイから数えて四画面だけ。どこかの都市の、駅前が映っており、右側にはマイクを持った女性レポーターが何かを話している。


「嘘よあり得ないわ。だって、今朝もあんなに元気だったのに……」

「イヴニスちゃん。そんなに大声を出すんじゃなくてよ。レディがはしたないわ」

「そんなこと言ったって、これ見てよ兄さま」

「お・ね・え・さ・ま、でしょ?」

「いえ、そんな『設定』はこの際どうでもいいわ」

「どうでも良いだなんて、……ってあら? ニュースかしら?」


『――臨時ニュースをお伝えいたします。東京都南区、東京南駅前からの中継です。つい一時間ほど前。こちらの駅前交差点で、歩行者と乗用車との痛ましい事故が発生いたしました。お亡くなりになったのは、同市に在住の佐山亜里砂(ありさ)さん。佐山さんは十八時すぎ、通学中の小学生を助けるべく事故に遭いました。幸い、小学生は軽い怪我で済みましたが、佐山さんは搬送先の病院で……』


 ニュース画面を前に力なく落ち込んでいるのは、濃紺のビジネススーツを身にまとい、金髪のウェーブのかかった綺麗な髪を持つ女性。後ろから支えるように落ち込む女性を支えるのは、金髪のボブカット。白いゴスロリのワンピースを着た、細身でトップモデルのように背の高い女性。ただ彼女の喉には、喉仏がうっすらとある。


「イヴニスちゃん。もしかしてこの子は?」


 イヴニスと呼ぶ彼女は実は男性――というより男性神。本人は『愛と友情の女神』と自称しているが、『拳神』と呼ばれる『戦いの神』。名前をアダムス。ちなみに、おねぇである。

 頭を抱える女性。彼女こそ『慈愛を司る聖の女神』。名前をイヴニス。彼女が妹で、アダムスが兄であることは間違いはない。

 彼女たちは『フォーミレストラ』という、地球とは違う次元にある惑星を守護する『七神』と呼ばれる神の二柱だ。彼女らの他には、五人の神たちが様々な役割を持っている。


「そうよ。あの『拳骨(げんこつ)アリス』よ。トッププレイヤーのひとりの」


 地球に似た世界観を持つ、イヴニスたちが守護するフォーミレストラを模して作ったゲーム。VRMMORPG(バーチャルリアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)、いわゆる精神没入型のオンラインゲームである『レストラ・オンライン』。七柱の神々は、レストラ・オンラインを設計、制作し、運営する会社、フォーミレスカンパニーも経営している。

 アダムスはこう見えても、システム保守担当。イヴニスは、プレイヤーたちの精神のケアや、イベントの作成。ときにはゲーム内に顕現し、GM(ゲームマスター)としての盛り上げ役も担当している。

 亡くなったとされる女性。イヴニスが彼女を『トッププレイヤー』と呼んでいた理由は、レストラ・オンラインで活躍していたユーザだったからだろう。


「あぁ、素手盾のあの子なのね。でも本当なの?」

「えぇ。間違いようがないわ。だって、わたくしの担当ですもの。イベントで一緒に盛り上げたり、笑顔がチャーミングで、とてもよい子だったんですよ。それにほら――」


 イヴニスは、右手を開いて手を振る仕草をすると、目の前に投影画面を出す。そこにあったのは、フレンドリストだろうか? 確かに『アリス』の名前がある。

 しかし、今にも消えてしまいそうな薄さ。横には、死亡を意味するこのゲーム特有のマークが添えられていた。


「そう、残念だったわね」

「悔しいわ。あらかじめわかっていたなら、すぐにでも飛んで、蘇生魔法(リザレクト)をかけてあげたわよ。ついでに、周りの人の記憶を消してでもね。でも……」

「そうね。私たちは神とはいえ、地球には直接干渉できないわ。私たちのフォーミレストラにだって、干渉してはいけない。パワーバランスを壊してしまいかねないのですからね」

「わかってるわよ。それに、蘇生魔法だって万能じゃないわ。致死性の衝撃を受けて、三分以内じゃないと元に戻らない可能性が高いし、最悪違う化け物になりかねない劇薬だものね」

 電子音のような、少し古めの音が鳴る。二人の裏側に、横スライド型のドアが開いたようだ。


「アダムスいる?」


 少しハスキーな声。そこにいたのは、黒を基調にしたビジネスジャケットに、同色のパンツ。銀髪のベリーショートの色黒な女性。


「あら? ノワレスちゃんじゃないの」


 彼女の名はノワレス。七柱のひとりで、夜を司る闇の女神。フォーミレスカンパニーの広報、渉外担当でもあった。


「よかった。イヴニスもいたの。これ、取ってきたけど、いる?」


 広報のコマーシャルにも出ている彼女は、お姉さん系のレポーターのように声も表情も明るい。だが、プライベートだと口数が少ない。

 彼女の右手にあるのは、USBメモリに似た、銀色の記録媒体(チップ)のように見える。


「も、もしかしてそれって?」

「えぇ。アリスさんの、魂」

「うん。地球(あっち)の人と交渉してきた。イヴニス、仲良かったから」


 イヴニスはノワレスに抱きついてほんの少し涙を流す。


「ありがとう」

「うん。地球で輪廻(りんね)の輪に戻ると、どこにいくかわからない。けれど、フォーミレスト(こっち)なら、最低限どこにいるか判断できる、……はず」

「そうね。おしゃべりは難しいかもしれないけれど、見守ることはできると思うわ」


 システム管理者であるアダムスが、ノワレスからチップを受け取る。


「じゃ、あとはよろしく」


 後ろ手に挨拶しつつ、ノワレスは部屋を出て行く。

 アダムスはそのまま、自分のいつも使用しているコンソールの前に座る。USB型のチップを専用のコネクタに挿す。

 すると、そこには見慣れた『アリス』のステータス情報が。今まで頑張ったレベルなども、一度リセットされた状態になっている。

 もちろん、これから転生の準備は始まるから。いわゆる赤子として、生まれ変わるのだから仕方がないのであった。


 イヴニスはコンソールにある、手のひらを広げた形をしたセンサーの上に両手をかざす。


イヴニス(あなた)、それ……」

「うん。お友達だもの。あっちに行って、危なくなったら役に立つかな? って思うのよ」

「ううん。あなた、今まで指一本以上」


 イヴニスの与える指一本分の加護というのは、『聖魔法が使えるようになる程度』というもの。フォーミレストラに現存する聖女ですら、指一本から鍛錬して今に至ったほどだから。指十本がどれだけ『加護』でなく『過保護』かということ。


「えぇ。加護を与えるのは、一割だけだった。けれどね、『アリス』とは、しばらくおしゃべりできない――ううん、いつできるかわからないから。せめて、わたくしと一緒に遊んだ記憶が、戻ってくれたらいいなって、希望でしかないから。それに、十枚の加護をあげると、いつか出会えるって聞いたことがあったから……」

「そんな逸話もあったわね。そう。止めはしないわ。……あ、『アリス』ちゃんは、素手盾だったわよね? じゃ、私も」


 そう言いながら、アダムスも両手をセンサーについてしまう。


「うんうん。これでよしっと」

「兄さま、何やってるのよ? まさか……」

「お・ね・え・さ・ま、でしょう? 間違っては駄目です――よっと」

 アダムスはシステム管理者である。だから確信犯だっただろう。

「あ、あぁあああああっ。そのボタン」

「あら? 間違って押しちゃったわ。ごめんなさいね」

 首をかしげ、『てへっ』っと可愛らしく微笑みつつ、舌を出してウィンク。彼が押したのは、『転生開始の決定ボタン』だった。

 コンソールには、メッセージが出てくる。

『管理権限コマンド実行。……実行されました』

魂情報ソウル・インフォメーションアップロードシステム起動。……実行されました』

『10%、……30%、……50%、……80%、……100%』

『コマンドを完了、……正常終了しました』


 呆然とするイヴニス。『あらら、しーらないっと』という表情のアダムス。


「あぁああああ。どうするんですか? バランス壊れてしまうかもじゃないですか」

「あなたがあげた加護でも、十分チートなにわかってないのかしら? まぁ、育ち方、使い方次第だと思うのよね。それに聖の加護だけじゃアリスちゃん、今までみたいに遊べないじゃないの。やっぱり素手で遊ぶなら、私の加護が必要よ」

「そんなわけ、ないじゃないですかっ」


 ちょっとだけ兄妹喧嘩。どちらにしても、始末書を書くことはない。何せ七人の最高神なのだから。部屋を出て行ったノワレスか、他の神たちから説教を食らう可能性はあるだろう。

 どちらにしても、(さい)は投げられてしまった。あとは、彼女が与えられた環境と、加護に気づいてそれをうまく鍛錬し、利用し、幸せになるかは、イヴニスたちも見守ることしかできないのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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