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09 馬剃風紀委員長

 ……さて、あとは何部を作るかだ。順番が逆な気がするが。

 そういえば穂乃果は何かやりたいことがあると言っていたな。


「なあ、拓馬。設立届書くのを手伝ってやれよ」

「あれ、風見は?」

「俺、ちょっと早く帰らなくちゃいけなくてさ。登呂川さんも二人に任せて帰ろうか」

「はい! 私、偶然風見さんと帰る方向一緒なんですよ!」


 すげえ、いけしゃあしゃあとはこのことだ。


「ばいばーい」


 風見はひらひらと手を振る登呂川に連行されて姿を消した。イケメンはイケメンで大変そうだ。


「穂乃果、眠そうだけど大丈夫か?」

「えー、二人のは友情じゃなくて愛ですよー、えへへへへ」


 やばい。なんの夢見てるんだ。


「お、おい、起きろよ」

「あ、ごめん。ちょっとトンでた」


 その時無遠慮に開くドア。


 先生がもう戻ってきたのかと視線を向けると、そこには今朝俺から本を取り上げた風紀委員長の姿があった。


「1年C組、秋月拓馬。ここにいましたか。風紀委員室に来てください」


 ……ついにきた。決戦の時だ。


 ――――――

 ―――


  

 放課後、眼鏡の先輩女子と風紀委員室に二人きり。


 男子的には中々のシチュエーションだが、正直俺はそれどころではない。

 没収されたBL本を取り戻さないと俺の身が危ない。怒った穂乃果は怖い。マジ怖い。


「入学早々、神聖な学び舎にこんなもの持ち込むとはいい度胸してますね」


 机の上には包みに入ったままのBL本。委員長は汚いものでもあるかのように、竹定規でつつく。


「いいですか。健全な男女交際というのは」


 委員長は腕を組み竹定規をフリフリ、椅子に座らされた俺の周りを回りだした。厄介なのに目をつけられたものだ。


「そもそもですね、女性の体を性的搾取の対象とするのは」

「ああ、それなら大丈夫です、その本に女性は出てこないので」


 反射的に口をつく。


「はい?」


 委員長は眉をしかめると、定規を自らの手の平にピシッと打ち下ろした。


「いい加減にしなさい。私が何も分からないと思って」


 委員長は本を手に取ると、軽蔑を隠そうともせず横眼でパラパラとページを眺める。


「こんないかがわ、しぃっ!?」


 がばっ! 両手で本を掴み、凝視する。 


「どっ、どどど、どういうことですか! 男性同士がどうしてこんな!」


 眼鏡が曇り、慌てて拭いて本に戻る委員長。

 部屋にはしばし、ページをめくる音のみが響く。


 ……何だこの時間。


「うわぁ……うわぁー」

「あのー」

「え、こんなところに」


 ……俺、帰ってもいいだろうか。


「秋月さん、こういった本を持ち歩くということは」


 委員長は本と俺の間を何度も視線を行き来させ、唇を震わせながら


「つまりあなたは」

「違います」

「必要なら全校的にあなたに配慮を」

「いりません」


 委員長、落ち着いて。


「と、とにかくこの本は没収します。もっとしっかり中身を精査しないと」


 え、それは困る!


「ま、待って下さい! えーと」


 この人の名前は何だっけ。見れば委員長の胸には名札が。


 名札。


 そういえば入学式でもらった気がする。誰もつけている人を見たことがなかったが。


 ——3年E組、馬剃天愛星か。


 馬剃天愛星。バソリ。うん、その先はなんて読むんだ。


「バソリ、えーと、下の名前はなんて読むんですか?」

「ティ、ティアラ」

「え?」

「ティアラです! 何か問題でも?! この名前で私があなたに何か迷惑をかけましたか?!」

「いやいやいや、そんなことないです。ちょっと気になっただけなので!」


 いきなりテンパる馬剃委員長。これは、むしろチャンスかもしれない。この隙に本を取り戻すのだ。


 やるしかない。いや、俺はやれる。穂乃果が選びに選んだ薄い本の魂が俺の中に息づいているのだ。


「こういった本に興味があるのなら、もっとありますよ」


 俺は椅子から立ち上がり、本に夢中になっている委員長に歩み寄った。


「はひ?」


 俺が目の前まで近付いていることにようやく気が付いたのか。委員長は素っ頓狂な声を上げた。


 ここはもう押しの一手だ。俺はセセラギ高のドン・ファンだ。石田純一だ。


「先輩、こういった本がお好きなんでしょう?」

「は、は、ははは、はひ?! まっ、まさか、こんな本」


 委員長は白い肌を首まで赤くして、足を震わせながら後ずさる。


「へえ、それにしてはこの本をずいぶん気に入ったみたいですけど」

「まさか! あなたこそ、こういった本を使って、あの、その」


 堕とせる。俺はここが攻め時と委員長を壁まで追い詰める。


「使う? なんに使うんですか。それとも先輩、この本を持って帰って「使う」ってんじゃないんでしょうね」

「な、ななな!」


 仕上げは穂乃果直伝の壁ドンだ。


「わ、わら、わたしに何をする気ですか!」


 俺は委員長の手から穂乃果秘蔵のBL本を優しく取り上げた。


「僕は本さえ返してもらえばいいんです」

「は、は、は」


 腰が抜けたのか、床にへたり込む委員長。俺はそれを尻目に踵を返す。もうこの部屋に用はない。


「ああ、でも」


 おれは最後に一度だけ振り返る。


「『使いたく』なったらいつでも言ってくださいね。待ってますよ」

「は、はひ……」


 なんだこれ。俺にこんなことができたのか。



 穂乃果、俺が間違っていた。あの薄い本の数々は無駄ではなかった。



 ――――――

 ―――



 部室では穂乃果が一人で座ったまま寝ていた。


「みなまで言わなくても分かっています。愛なんですね。えーへーへー」


 ……ひどいな、穂乃果の寝言。俺が黙っていなくてもばれるのは時間の問題じゃないだろうか。


 俺は穂乃果の肩を揺すった。


「あれ、たっくん。あー、寝てた」

「設立届はどうなった」

「蜂須賀先生が来たので渡したと思う。なんか寝ぼけていて覚えてないけど」

「お疲れ。どんな風に書いたの?」

「なんか心理とかの研究会っぽく書いといたよ。眠くて途中から」


 ファ~と大あくび。


「自動筆記みたいになってたかも」


 睡眠不足なのにご苦労様です。労おうと思った矢先、穂乃果の目がくわっと見開く。


「本は! 本はどうなったの!」

「無事、取り戻せたよ」

「ありがとう! よかった~」

「いやいや、風紀委員長も話せばわかるというか」

「じゃ、たっくん、これ。感想聞かせてね」


 あ、やっぱ借りなきゃなのね。


不憫な風紀委員長に愛の手を

                ☆彡

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― 新着の感想 ―
マケインの馬剃さんの元型ともいえそうなキャラが登場してて驚きました! 他作品を全て読ませて頂き、あとはこの作品を残すのみです。素晴らしい作品ばかりでしたので、ここからの展開が楽しみです。
[良い点] 何も知らない娘を自分色(違)に染め上げるってワクワクしますよね(ゲス顔) こっちの沼はあ~^まいぞっと。
[良い点] 布教活動は成功ですね。 [一言] 両刀使いとなった拓馬さんの明日はどっちでしょうね。
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