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最終話 BL部は永遠です

「ふむ、この新味もなかなかね。いいんじゃないかな」


 登呂川蜜はソファで足を組み、ハーゲンダッツの新味食べ比べを慣行中だ。


「次の味をお願い。あ、これは冷凍庫入れといて」

「じゃあ次はチェリーカスタードパイ味だ。ここ、置いとくな」


 俺はといえば言うまでもない。


「おーい秋月、ちょっと手が離せないんだけど。次はジャガリコのかっぱえびせん味お願い」

「分かった、ちょっと待て」


 打ち上げと称した接待お菓子会で二人のお世話である。


「ほら、あーん」

「あーん」


 ぼりぼりぼり。ソファに寝転がり、ゲームに夢中な水無月花火。


「つーか水無月、お菓子ぐらい自分で食え」

「ゲームで忙しいんだよ。お前のせいで忙しくて、ランクが落ちたんだからな」


 まじか。見てた限り、毎日お菓子食ってゲームしてたばかりに見えたが。

 また大口を開けた水無月の口にジャガリコを放り込む。なんかこれって。 


「まるでツバメの雛だな」

「ツバメの雛といえば、例の場所で生まれたぞ。今度掛彬と一緒に見に行ってみろよ」

「へえ、もう生まれたのか。早いもんだな」


 水無月を肩車をしたのも今となってはいい思い出だ。なんか柔らかかったし。


 俺がよからぬ考えに浸っているのに気付かれたか。水無月も負けじとよからぬ笑みを浮かべた。


「お前、掛彬が可愛いからってエロいことすんなよ」

「ばっ、馬鹿言うなよ! そんな、エ、エロいこととか、えーと、まだ早いだろ!」


 思わずしどろもどろになる俺の姿に、水無月と登呂川の顔色が変わった。


「お前、まさか色々済ませちゃいないだろうな」

「えーっ、昨日の今日でそれは犯罪よ!」 

「いやいや、何もしていないって! つーか俺達、付き合ってないからな!」


 ふと発した俺の言葉に二人は再び殺気立つ。


「は? なんだそれ。あそこまで騒いでまだなのか。むしろ男なら一発決めてこい」

「花火ちゃん、待って待って。穂乃果ちゃんって雰囲気に流されやすそうだし、むしろよく思い留まった方じゃないかな」

「なるほど。そういう考え方もできるな。じゃあ、部の方向性としては二人の間を邪魔する感じでいこうか」


 何でそんなことになる。こいつらをこのまま放っておくと、俺の追放くらいやりかねないぞ。一旦この場を離れよう。


「あのさ、折角お菓子がたくさんあるし、風見も呼んでくるよ。まだ学校にいるはずだ」

「拓馬君、風見君にもちゃんとお礼言っておくのよ」

「もちろん。あいつが咲良に話をしてくれてなけりゃ、どうなってたか」


 むしろこいつら二人は邪魔しかしなかったような気もするし。


「それだけじゃなくて。裏で結構、穂乃果ちゃんにとりなしてくれてたのよ」

「へ、そうなのか?」

「当り前じゃない。まさか自分の誠意とかそんなんだけで穂乃果ちゃんに許してもらったと思ってたの?」

「ま、それを言わないところがアイツと秋月の違いだな」

「ホント、風見君って優しいよねー」


 悔しいが言い返せない。風見の奴、どれだけイケメンなんだ。


「分かったよ。あいつには改めてお礼を言っとくよ」


 俺が部室を出ようとすると、二人が俺を呼び止める。


「私達がここまでお膳立てしたげたんだからねー。頑張んなさいよ」


 登呂川はアイスのスプーンを俺に向け、楽しそうに笑って見せる。


「フラれたらいつでも言え。また世話焼いてやる」


 久々にフードを外した水無月は、相変わらずの人を食った笑顔でジャガリコを振って見せる。


「つーか、いい加減にフード暑いな」


 そうか。実は暑かったのか。


 とはいえ、こんな二人にでも俺は勇気をもらった気がする。


「二人とも、ありがとな」


 俺は照れ隠しに後ろ向きでそう言うと、部室を後にした。


 さて、風見は確か図書室に寄ってから部室に来るって言ってたっけ。図書室に行くと、ちょうど風見が出てきたところだ。風見も俺を見つけて手を挙げた。


「風見ぃ! 今回は世話になったな!」


 俺は思わず風見に抱き着いた。


「おい、どうしたんだよ。いきなり」

「聞いたぜ。お前、知らないところでも俺のために色々やってくれてたんだってな」

「知ってたのか。気にするな、俺が勝手にお節介を焼いただけだ」


 もうなんなんだ、こいつのこのイケメンぶり。俺は肩を組んで、風見と歩き出す。


「部室に行こうぜ。打ち上げで菓子を色々買ってきたんだ」

「そいつは楽しみだな。じゃあ俺もご相伴に預かるか」


 並んで歩きだしたところで、風見は急に立ち止まった。


「俺、先に行ってるぜ」

「ん、どうかしたのか?」


 風見は無言で顎をしゃくって見せる。

 その先には穂乃果の姿。柱の陰からこっちの姿を伺っている。


「ゆっくり来いよ。それじゃな」


 穂乃果はちょっと慌てた様子を見せたが、照れ笑いを見せながらこっちに向かって歩いてきた。 


「穂乃果、昨日はその」


 こんな時、何を言えばいいんだ。戸惑う俺を気遣ったか、穂乃果は何気ない口調で話しかけてくる。


「その話はまた今度、ね。部室に行くんでしょ?」 

「ああ、そうだな。定例の部長会議、早く終わったんだな」

「うん、先週予備会もあったから、今日は議決だけ」


 俺が穂乃果の隣に並ぼうとすると、微妙に体の角度を変えてそうはさせまいとする穂乃果。


「穂乃果、なんか後ろに隠してるのか?」

「え。いやいや、何でもないよ!」


 そう言って片手を振った途端、穂乃果のスマホが床に落ち、俺の足元に滑ってきた。


「あっ!」

「おっと、液晶は大丈夫そう――」


 スマホを拾い上げた俺は、一目見て画面に釘付けになった。

 そこに映っているのは、さっきの俺と風見の抱擁シーンだ。慌ててスマホをひったくる穂乃果。


「いやー。あはははは。美しい友情の一コマだなーっと。あはは」


 別に撮るのは構わないけど。たまたまカメラを起動させていたところに、さっきの場面に遭遇したのだろうか。


「なあ、どうしてこんな写真を撮れたんだ?」


 興味本位で聞いた一言に、穂乃果は目に見えて動揺し始めた。


「ち、違う違う! 盗撮とかそんなんじゃなくて!」

「え? 盗撮?」

「違うよ! たっくん、大丈夫だって。ちゃんとシャッター音を消すアプリを使ってるから!」

「あー、そういえばそんなアプリもあるんだよな」


 あれ。なんだろうこのデジャヴ感。キャラをこじらせた風紀委員長を思い出す。


「ほら、たっくんは結構隙だらけな割に鈍感だから、変な虫には気を付けないと。これからは」


 小声でポツリと、


「私がちゃんと追い払うけど」

「え? 何の話?」

「心配しないで。解釈違いの先輩も、腹を割って話せばちゃーんと分かってくれたから」

「だから何の話だよ」


 穂乃果は答えずに俺の腕をとった。


「ねっ、一緒に部室に行こう」

「あ、ああ」


 腕を組むようにして歩く穂乃果と俺の姿に、すれ違う生徒が目を向ける。

 それはそうだ。学年一の美少女と冴えない俺の組み合わせはどう考えても人目を引く。


 すっかり大胆になった穂乃果の姿に面食らったが、なんだか懐かしいような気持ちにもなる。


 小学生の頃、何も考えずにじゃれあい、触れ合っていた時、きっとこんな気持ちだったのだろう。





 3人の楽しそうな笑い声が部室の中から聞こえてくる。


 俺は扉を開けようと手を伸ばす。


「ね、ちょっと待って」


 穂乃果は俺の手を押さえて、顔を寄せてくる。


 彼女は唇を耳たぶに触れるほど近付けて、くすぐるように囁いた。




「今晩、22時にベランダで」


これからも彼ら5人の仲良し青春ライフは続きますが、お話はこれにてひと段落です。

BL部の門出をブクマ、バナー下から★彡~★★★★★彡の評価でお祝い頂ければ、泣くほど感謝いたします!


そして本日から新連載も開始しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先輩…そしてほのちゃんは相変わらずで安心しました。風見くんに抱きつくたっくん見てたらもうそういう風にしか見えない。 ベランダの時間が逢瀬に変わる日もそう遠くないかも。 これからも、ちょっ…
[良い点] ひとまずは和解できてよかったです。部外に繋がる、BLの輪。 [一言] これからまともに恋愛、出来るのでしょうか?
[良い点] たっちゃんに近づく虫は穂乃果が払うのかw でも腐ってるね!清々しいほどに! [一言] 完結、お疲れさまでした(*^^*) 面白かった~ 腐ったとことか、自由すぎるBL部の女子たちとかw
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