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28 三人とか、良くないと思います

 お疲れ様LINEの一連のやり取り。

 それを終えて、俺はスマホと一緒にベッドに体を投げ出した。


 昼食後は、そのまま解散。このサッパリ感もリア充っぽいなあとか考えながら時計を見ると、まだ昼の2時過ぎだ。


 解散後、穂乃果は何か用事があるとコソコソ姿を消したが、あの様子から見ると秘密のオタ活動にでも勤しむのだろう。


 心地よい疲れと、不思議な高揚感。休日に部の皆で買い物に行き、女子も含めた部員達でお疲れ様メッセのやり取り。これが噂に聞くリア充なのか。


 きっかけは「何となく部活に入らなかった」ことで、それが原因で男女仲良く部の買い物だ。世の中、何が起こるか分からない。高校入学から2か月足らず、大人の階段を登ってしまったようである。


 ベッドでごろごろしてると、スマホの着信音。目をやると、『穂乃果んちの電話』の表示だ。穂乃果、もう家に戻ってきたのか。 


「はい、もしもし」


 スマホの向こうからは返事はなし。訝しく思いもう一度呼びかける。またも返事は無かったが、思い当たることがある。通話音を最大にしてスピーカーを耳に押し付けた。


『あの、聞こえますか?』


 微かに聞こえる内気そうな声は志乃ちゃんか。俺は驚きながらも思わず顔をほころばせた。


「志乃ちゃんだよね。聞こえるよ、どうかしたの?」


 たっぷり20秒ほど無言が続く。


『あの、咲良とクッキー焼いたので、その』


 さらに10秒ほどの溜めを挟み、


『紅茶を入れるので、今から食べに来ませんか』


 あれほど俺を避けていた志乃ちゃんが俺にお茶のお誘いだ。なんて素敵なサプライズ。


「お邪魔でなければ喜んで。すぐに行って大丈夫なのかな」


 返事はよく聞こえなかったが、受話器越しにも好意的な志乃ちゃんの息遣いが伝わってくる。

 ……俺の妄想でなければ。


 通話を終えた俺は早速掛彬家を訪れた。


 俺を待っていてくれたのか。チャイムを鳴らすまでもなく、志乃ちゃんは玄関先に立っている。

 黒白のフリフリとしたワンピースに身を包み、髪にもフリルのカチューシャ。


 映画のワンシーンのような光景に、俺は思わず息を呑む。穂乃果の妹だけあって、幼いながらもかなりの美少女ぶりだ。


 ぱっつんの前髪の下から大きな瞳で緊張感も露わにじっと俺を見つめている。俺と目が合うとドギマギと照れた様子を見せながら顔を赤らめた。


「志乃ちゃん、お招きありがとう」

「拓馬さん、はい、あの、どうぞ上がってください」

「それじゃ、お邪魔します」


 掛彬家に来るのも久しぶりだなあと思いつつ、玄関に並ぶ靴に目をやる。


「あれ、咲良がお邪魔してるんじゃないの」

「咲良は午後から美術部に顔を出すって言ってました」

「そうなんだ。穂乃果はまだ戻ってないの?」

「はい。お父さんもお母さんもお仕事で夜まで帰ってこないんです」

「へえー」


 そうか。二人きりか。んー、なんだその情報。


 どことなく後ろめたく思いながらも、勧められるままにリビングに通される。やましいことはないが何となく座りが悪く、俺は理由もなく部屋を見回した。


 この部屋に入るのはいつぶりだろう。壁に飾られた掛彬姉妹の絵が更新された他は、昔良く遊びに来た光景だ。


 懐かしみながらソファに座る俺に向かって、志乃ちゃんは突然、ピョコンと頭を下げた。


「ごめんなさい!」


 え。何々。なんか謝られるようなことされたっけ。


「最近、避けるような態度をとってしまって」


 ああ、そのことを謝ってくれているのか。俺はホッとして笑顔になる。


「良かったー。俺、志乃ちゃんに嫌われちゃったかと思ってたよ」

「あの、怒ってないですか?」

「全然。志乃ちゃんが謝ることなんてないよ。気にしてないし」


 志乃ちゃんの表情がパッと華やいだ。やっぱり可愛い。よし、俺をお兄さんと呼んでもいいんだよ。


「じゃあ、紅茶を入れてきますね」


 ぱたぱたとキッチンに向かう志乃ちゃん。


 なんだろう、胸を満たすこの感情は。これが純粋な人類愛とかそういった尊い何かなのだろう。穂乃果の言う「とおとい」とは多分違う。


 間もなく紅茶とクッキーをトレイに乗せて志乃ちゃんが戻ってきた。


「クッキー、美味しいよ。凄いね、まるでケーキ屋のクッキーみたいだ」

「ありがとうございます。でもまだ、咲良に教えてもらってる段階なんです。咲良、お菓子作りが上手なんですよ」


 褒められて恥ずかしいのか。志乃ちゃんはちょっとにやけながら顔を伏せた。


「へえ、咲良がねえ。あいつ、昔から手先だけは器用だったからなあ」


 紅茶も美味いし嗅いだことのない匂いがする。家に常備されている安いティーバッグしか知らない俺には未知の味だ。


 和やかに談笑しながらティーパーティーに興じていた俺達だが、突然、志乃ちゃんが意を決したように俺の顔を正面から見つめてきた。


「どうしたの? 志乃ちゃん」

「拓馬さん、最近お姉ちゃんと夜、会ってますよね」


 ! 知っていたのか。何も後ろ暗いところはないが、なぜか動揺する俺。


「まあ、ときどきね。お姉さんと俺の部屋、向かい合わせだし」

「それだけ、ですか?」


 真剣な顔で身を乗り出す志乃ちゃん。


 あー、あれか。俺と穂乃果が付き合っていると勘違いしているのか。


「ほら、昔してたのと同じだよ。小学生の頃、よく俺とお姉さんはベランダでお話ししてたんだ。立ち話みたいなものだって」

「む、昔から?! 昔からなんですか?」


 何故かひどく動揺する志乃ちゃん。


「志乃ちゃん、小さかったから覚えてないかな。昔は志乃ちゃんも時々一緒にベランダに出てたんだよ」


 俺達が小学生の頃だから、志乃ちゃんはまだ10才にもなっていない。

 よく、遊びに行く俺達の後ろをテケテケついてきたものだ。


「わたっ、私もですか?!」

「今度、志乃ちゃんも一緒にお話しする?」

「ふぁっ?!」


 素っ頓狂な声を上げると、志乃ちゃんは手の平を俺に向けてぱたぱたと振った。


「さ、三人とか、良くないと思います!」


 三人が駄目とは。ベランダの耐久性とかそういう問題なのだろうか。目まぐるしく変わる志乃ちゃんの顔色に俺は不安になった。


「ねえ、志乃ちゃん、大丈夫? 少し横になって休もうか」

「横っ?! いえ、大丈夫です! すいません、ちょっといきなりだったのでびっくりしちゃって」


 志乃ちゃんは冷めた紅茶を一気に飲――もうとして飲み切れず、三回くらいに分けて飲み切り、勢いよくカップを置いた。


「いつも、あんな感じなんですか」

「いつもって?」


 志乃ちゃんは意を決したように声を張り上げた。



「こないだの夜、見ちゃったんです! 拓馬さんが土下座して、お姉ちゃんがその、上から踏みつけるみたいな―――」



志乃ちゃん可愛いです。

こんな子に一方的に課金できるサイトは無いでしょうか。

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― 新着の感想 ―
そんなサイトは無いです!!笑
[良い点] うん、尊い… お姉ちゃんの影響は受けてほしくないなぁ… [気になる点] ありゃ?昨日読んでなかった^^; [一言] 女王様プレイを見ただと( ,,`・ ω´・)?
[一言] いや、まさに「とおとい」だと思いますう
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