25 Intermission ~あれからその後
「風見君も帰ったから、私ももう帰るねー」
登呂川はスカートのお菓子くずをはらいながら立ち上がった。
水無月はスマホから顔を上げると、咳払いをしてから登呂川に声をかける。
「あ、私、遅くなったからお母さんが車で迎えに来てくれるんだけど。登呂川も乗ってく?」
「いいの? でも私、自転車だけど」
「母さんの車大きいから乗せれるよ」
「やったー! よろこんでー!」
登呂川は万歳すると、再びソファに腰を下ろす。
「拓馬君は穂乃果ちゃんを待つんでしょ?」
にやにやと俺をからかう登呂川。
蜂須賀先生が鳥海を連れて退室後、部長である穂乃果が事情の説明のために呼び出されたのだ。
「ああ。俺達は歩きだから、送ろうかと思って」
時間は18時半を回り、外はすっかり暗くなっている。
「ねえそういえば。さっき言ってた菅原君って、花火ちゃんが振った男の子?」
「ああ、まあ」
ちょっと言いにくそうにしながら。
「D組の菅原。知らないだろうけど」
「ひょっとしてバスケ部の菅原勇太君?」
ズバッと身を乗り出す登呂川。
「待って。彼、ゲームが好きなんだ。中学の頃からバスケ部じゃなかったっけ」
「中学違うのに良く知ってるな。1年の頃から兼部してて。よく鳥海と3人で素材集めとか行ってた仲だけど」
「へえ、そんな有名人なんだ」
俺は何気なく口をはさむ。
「中学時代はバスケ部のレギュラーで、かなりモテたらしいよ。告白されることも多かったらしいけど、好きな人がいるからって全員断ってたって」
「え、その好きな人って」
二人の視線が集まり、さすがに照れたのか。水無月はフードを深く被り直す。
それにしてもバスケ部の菅原君、なんて一途な奴なんだろう。それってすげえいい奴なんじゃないか。
「水無月、今からでも遅くない。こっちから告ろうぜ!」
「はあ? なにいってんだ、お前」
「あのな、お前にそんなまともな男が言い寄ってくるなんて二度とないぞ!」
言い終わる否や、テレビのリモコンが額を直撃。俺は額を押さえてうずくまった。
あれか。秋月家の男はリモコンをぶつけられる運命なのか。
「うぉぉ……。これ、マジで痛いぞ」
「だからぁ、私はいまのままでいいんだよ。私は割と青春してる」
「でもさ、ゲームで青春とかさみしいじゃん」
水無月はジト目で俺に冷めた視線を送る。あれ、意外とリモコンより心に痛い。
「お前、デリカシーないな」
「まあ、拓馬君じゃねえ」
登呂川は楽しそうに笑うと、さりげなく水無月の隣に席を移す。
「ね、花火ちゃん。じゃあ、菅原君を私に紹介する線で」
振られた相手に女の子を紹介されるとか、それ何の拷問だ。
「つーか、登呂川。お前風見のことが好きなんじゃなかったか」
「ちっちっち。恋は戦争よ。第2候補、第3候補を用意しておくなんて当たり前でしょ」
相変わらずこいつのドヤ顔はむかつくぜ。
「ま、今回は拓馬君も頑張ったし、二けた候補位には入れてあげてもいいかもね」
「秋月拓馬、気を付けろ。繰り上げ当選の可能性が濃厚だぞ」
「花火ちゃーん、それどういう意味かなー」
登呂川は両手の指をワキワキしながら、水無月ににじり寄る。
「うわっ! やめろ、くすぐるなーっ!」
登呂川のくすぐり攻撃に悶絶する水無月。
「ただいま。みんな、待っててくれたんだ」
そこに戻ってくる穂乃果。表情を見る限り、話はうまいこと進んだらしい。
「あ、なんか楽しそうなことしてるね。私も混ぜてーっ!」
浮かれ気分の穂乃果も参戦。いかん。見ているとなんだかもやもやした気分になるぞ。
「降参! 降参だって! ほら、母さんが校門に着いたから、行くぞ! 掛彬も車で送るから」
「え、いいの?」
「じゃあ、車で女子会の続きだ! 穂乃果ちゃんも行くよーっ! じゃあね、拓馬君」
「ああ、今日は世話になったな。また明日」
「じゃあ、お先にね」
「お、おう」
勢いに押されっぱなしのまま、気が付けば部室に一人残された俺。
さみしい。とりあえず、リモコンから落ちた電池を探すか……。
女の子がイチャイチャ楽しそうにしていると魂が洗われます。
汚れが全部落ちたら、残っているか不安です。
水無月受難編もこれで終わり。
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