表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/35

24 二人の距離それぞれに

 その時、俺達の会話を盗み聞いていたのか。扉が突然開いた。


「そうよ、あんたが疑われたままだと、私の管理責任が問われるの」


 うわ、最低な大人が来た。

 BL部顧問の蜂須賀陽子だ。苦笑いする風見を引き連れ部室に入ってくる。


「で、どういう話なの。ちゃんと聞かせなさい」


 俺は最初から順に事情を話した。

 時折鳥海に確認を取ったが、映像の効果があったのか。今度は素直に話を認めた。


「大体は分かったわ。今の話、他の先生にも伝えるから。鳥海さん、追って聴取と処分があると思う。退学にまではならないから安心して」

「はい」


 抜け殻のような顔をして鳥海は頷く。

 水無月は不安そうに彼女を眺めていたが、思い切ったように蜂須賀先生に向き直る。


「あの、先生。処分とか、無いように出来ませんか。私、無実が証明されればそれで」

「どうして。今回は冤罪を証明できたけど、出来なかったら良くて停学だったのよ。本人が許したからってそれじゃ」

「すいません、どうにか。お願いします」


 深々と頭を下げる水無月。


「だって、持ち物検査までして大騒ぎになったのよ。今更」


 水無月は頭を上げようとしない。

 蜂須賀先生はしばらく何かを考えていたようだが、最後にはイライラと頭を掻きむしった。


「あー、もう! ゲームソフトを貸し出してたのを忘れていたのよね!」


 俺達の反応を見るように見回すと、最後は鳥海に向き直る。


「それをあんたが無くなったものと勘違いした。表向きにはそれでいくわよ!」

「先生!」


 水無月の表情がパッと晴れる。こいつ、こんな明るい表情ができたのか。


「鳥海、他の先生達にはちゃんと本当のことを言うからね。私の評――えっと、水無月の今後のこともあるしね」


 この人今、私の評価って言いかけた。


「じゃあ、悪いようにはしないから。鳥海も一緒に来て頂戴。事情を説明してもらうよ」

「はい、すいません。先生」


 鳥海はまだ頭がはっきりしないのか。フラリと立ち上がった。そのまま部室を出ていこうとしたが、先生に頭をポンポンと叩かれた。


「ほら、あんた何か言い忘れていることが無い?」

「花火、ごめんなさい。私、私」

「いいよ。もう済んだことだから」


 水無月はもう少し何かを言いたげだったが、やはり上手く言葉にならなかったのか。もう一度先生に深く頭を下げた。


「でも水無月、あんたも学校で友達の一人くらい作りなさいよ。担任も心配してたわよ」

「そうね、花火ちゃん。友達くらいはいた方がいいよー」


 お祝いでも始めるのか。カールのうす味をカバンから取り出す登呂川。


「え」

「そうだな。勇気を出してクラスメートに自分から話しかけてみようぜ」

「水無月さん、気が合いそうな人を何人か紹介しようか」

「え、え? えーと」


 テンパる水無月の両肩に、穂乃果が後ろから手を置いた。


「蜂須賀先生、大丈夫です。水無月さんは私達の大事な友達ですから」

「そうか、よし」


 蜂須賀先生はにやりと笑うと、鳥海の肩を抱いて部屋から出ていこうとして、最後にもう一度振り向いた。


「あと、カメラは外しておけよ!」



 ――――――

 ―――



 俺は穂乃果が差し出したマグカップを受け取ると、ベランダの柵に寄りかかった。


「ありがと、穂乃果」

「たっくん、今回は大活躍だったね」


 え、そうかな。俺は照れ隠しにコーヒーを啜って顔を隠した。


「それに登呂川さんの盗さ――」


 言いかけて、


「監視カメラがなかったらどうなってたか」

「ホントだよな。登呂川の特技がなければどうなっていたか」


 穂乃果も一連の騒動が片付いてホッとしたのか。いつもより緩んだ表情で、チビチビとコーヒーを飲んでいる。


「なにより、水無月の疑いが晴れてよかった」

「たっくん、最初は疑ってたじゃん」

「それ、穂乃果もだろ」


 二人でひとしきり笑って会話が途切れた刹那。穂乃果は俺の目を正面から見つめてきた。 


 ……この展開ってもしかして。


 見れば今日の穂乃果のジャージはいつもよりちょっとおしゃれな奴だ。その証拠にマジックの名前も小さいし膝に穴も開いていない。


 俺はごくりとつばを飲む。


「そういえば、たっくんと水無月ちゃん、すっかり仲良くなったよね」


 さあ考えろ。この会話の意味を。俺は頭をフル回転させる。お子様ランチの旗ほどの小さなフラグでも必ず掴まなくては。


 まずは落ち着くためにコーヒーを一口。


「どうだろ。特に二人でLINEしたり出かけたりする訳じゃないし」

「そんなことないよ。ほーんと、気楽に肩車をするほどの仲だもんね」


 コーヒー吹いた。


「は? いやいやいや、なんでそれを知って」


 あ。笑っている穂乃果の目が怖い。


「へー、やっぱそうなんだ。水無月ちゃんの足を撫でまわしたり、顔を色々なところに押し付けたりやりたい放題なんだね。よかったねー、たっくん」

「違う違う違う! ツバメ、ツバメの巣を守るためにだね! やむを得ずなんだよ! うん、やむを得ず!」


 水無月、穂乃果に何を吹き込んだんだ。いやもうホント信じらんない。


「たっくんも男の子だもんね。水無月さん可愛いし、その気になっちゃうのも仕方ないよね」

「違うんだ、ご褒美くれるって言うから。あ、いや、ご褒美って言っても想像するようなもんじゃなく、単にからかわれただけで」


 うわあ、墓穴掘りまくり。神様、時計の針を戻してください。


「へーえ、ご褒美欲しさにホイホイ水無月さんの言うこと聞くんだ。へーえ、どんなご褒美なんだか」


 何も言えずうつむいた俺の視界に、苛々と爪の甘皮を削る穂乃果の指先が入る。顔を見なくても分かる不機嫌オーラがビシビシだ。


 これぞ針の筵だ。嫌な汗がだらだらと頬を伝う。


「あの、だから、飴を貰っちゃったから、仕方なく、仕方なくなんだよ」

「たっくんは不審者に連れていかれる子供ですか」


 返す言葉もない。


「私が言いたいのはね、部員同士が校内で、あの、ふ、ふしだらな」


 顔を赤くして言い淀む穂乃果。ふしだらは照れるのに、いつもの問題発言はノーカンなのか。


「そういうのは困ります。活動停止になったらどうするんですか」


 穂乃果も少し落ち着いたのか。深呼吸をしてコーヒーを飲みだした。


「本当にそんなんじゃないんだぜ、必要最低限の文化的な肩車というかなんというか」

「ふうん。たっくん、デレデレと鼻の下伸ばしてたんだってねー」

「ま、まさか。肩車なんかで一々そんな。ははははは」

「そうなんだ。たっくんって、それはそれはオモテになるようで。へーえ」


 やばい、この選択肢も誤りか。俺が動揺してあたふたしていると、穂乃果は俺から顔をそらし、むっつりと黙り込んだ。


「あの、穂乃果?」

「って、ことはつまりこういうことよね」


 顔を背けながら、俺に向かって伸ばした手には棒付きキャンディ。

 俺は戸惑いながら受け取った。


「え? え?」

「じゃあ、もらったからには私の言うこと聞くってことよね」


 え。どういうことだ。俺は完全に混乱し、口もポカンと半開きだ。


「穂乃果、何でこっち見ないの?」

「……」

「怒ってる?」

「怒ってない! 何でもないから! この件は忘れて! わーすーれーてー!」


 穂乃果の耳が真っ赤に染まっている。え、これってもしかして。


「じゃ、お休み! また明日学校でね!」

「ちょっと待って!」


 部屋に戻ろうとした穂乃果を俺は呼び止める。


「お礼、と言っては何だけど。もらったからには穂乃果の言うこと聞くよ。何をすればいい?」

「……モノ」

「モノ?」

「買い物。今週末、買い物付き合って」

「え? ああ構わないよ」

「じゃあまた連絡するから。今度こそお休み!」


 穂乃果は最後まで振り返らずに部屋に戻ってカーテンを閉めた。俺はベランダで一人立ち尽くしながら、先ほどまでの会話を反芻する。


 これって、もしかして穂乃果、妬いてた? 俺と水無月に? 



 えええええ。


 水無月なりに考えて出した結論。

 なんだかんだで少しずつ距離が近付く二人。


 良ければバナー下から☆彡評価、そしてブクマを頂ければとても嬉しいです。

 是非よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すっかりラブコメということを忘れていました。買い物、BLドラマCDとかでしょうか? [一言] 妬いたというより、推し以外のCPを認めていない可能性もあるのでは?
[良い点] 無事、騒動が収まって良かった^^ [気になる点] 買い物イベント発生っ! でも、本を買いに行ったりするんだよね…多分w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ