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17 ご褒美は最後にまとめて

 翌日の昼休み。俺は1―Aの教室を覗いた。

 俺はちょうど教室から出てきた女生徒に話しかける。


「あの、ちょっと人を呼んで欲しいんだけど」

「はい、誰をですか?」


 狐目の女生徒が怪訝そうに俺を見る。


「水無月さん呼んでもらえるかな」

「えっと、悪いけど水無月さんとは親しくないし。ごめんなさい」


 取り付く島もなくスルーされた。マジか。水無月、クラスではこんな扱いか。


 仕方なく俺は教室に入った。他のクラスに入るのは何となく気まずいのは何故なのか。


 ワイワイと騒ぐ男女グループの陰に、ゼリー飲料を口に咥えてゲームに没頭している水無月の姿があった。


「おい、水無月」


 水無月は大儀そうに顔を上げると、余程予想外だったのか。驚いた顔で俺を見返してきた。

 ゼリーの残りをズズッと吸い上げると、空き容器を器用に机の上に吐き出す。


「秋月、私のクラスで何してんだ?」

「お前を呼びに来たんだよ。今から付き合ってもらっていいか?」

「構わないけど。私と一緒にいるとお前まで変な噂が立つぞ」

「関係ないだろ。水無月、なにも悪いことやってないし」

「昨日は疑ってたくせに」

「はい。昨日は俺が悪かった」

「なんだ、えらく素直だな」


 水無月はいつものように人を食ったような表情に戻ると、ゲーム機をポケットに突っ込んだ。


「いいよ。付き合うよ」



 ――――――

 ―――



 水無月と連れ立って来たのは校舎裏。


 人気のない校舎裏を歩いていると、思わず先日の一件を思い出す。水無月の内腿、柔らかかったなあ。


「なんだ、積極的だな。この前の続きでもしたいのか」


 俺の考えを読んだのか、水無月はにやにやしながら俺を小突いてきた。


「ばっ! 馬鹿言うなよ!」


 憎まれ口を叩けるくらいなら心配はないだろう。むしろそれよりも心配事が一つ。


「まさか、この前のこと穂乃果には言っていないだろうな」

「ふうん、私達だけの秘密にしたいってことか?」


 ああもう。女はこうやって男を手玉に取るのか。

 俺は目的の小屋の前までくると、鍵を取り出した。


「ここ、ごみの収集小屋じゃないか」

「ああ。疑惑のカマボコが、ここにあるはずなんだ」


 水無月はフードの奥の目を丸くして無言で俺を見つめた。


「カマボコの件、あれから皆で情報収集をしたんだが」

「え、あれから?」

「ああ。昨日の朝、先生がカマボコを袋に入れて捨てたのが、職員室のごみ箱だ」


 建付けの悪さに苦労しながら扉の鍵を開く。


「で、昨日の午後から用務員のおじさんがそれを回収して、校舎裏のごみ収集小屋に入れた」


 俺は小屋の扉を勢いよく開いた。まだ5月でそれほど強い臭いがしないのが幸いだ。


「おじさんによると回収業者が来るのは午後からだから、昼休みまではここにカマボコがあるはずなんだ」


 俺は気合を入れると、猛然とごみ袋を漁り始めた。


「なるほど」


 水無月は一瞬納得したように見えたが、


「で、なんで私が一緒に来たんだ」


 ある意味もっともな質問を投げかけてきた。


「え、だって。お前の疑いを晴らすためじゃん」

「カマボコの現物を見つけるのが?」


 水無月の奴、フードのポケットに両手を突っ込み、帰りたいオーラを出し始めた。


「待てって。昼休みで時間がないから放課後詳しく話すけど、結構変な話になってて。少しでも情報が欲しいんだよ。だから手伝ってもらえたらなー、とか」

「そうかそうか。よし、手伝ってやるよ」


 水無月はしゃがんで両手で頬杖をついた。えーと、どういうことだ。


「あの、手伝ってくれるんじゃ」

「やる気が出るようにここで応援しててやる。疲れたら振り返れ」


 なんだそのシステム。こいつ自己評価高すぎやしないか。


「がんばれー。太腿とか、もしかしたらパンツとか見えるかもよ」

「え」


 ん、まあ昨日のお詫びだしな。俺が頑張るのが当然だ。


 俺は黙々とごみ袋のチェックを続けた。時折振り返りながら。


 小屋の半分ほどのごみ袋を確認したあたりか。他と毛色の違うごみ袋が一つ。


 教室からのごみ袋はジュースのパックやパンの袋、古いプリントなどが中心だが、これだけ仕出し弁当の空き箱やダイレクトメール、カップ麺の容器、教材のチラシなどが詰まっている。


「これ、怪しいぞ」


 俺の言葉に水無月も近くに寄ってきた。応援タイム、終了だ。


「朝に捨てたんだかから底の方にあるはずだ」


 意を決してごみ袋の中に手を突っ込む。中身をかき分けると、奥の方に口を縛ったスーパーの袋がある。


「これか?」


 手に取ると、半透明の袋の中には紙皿と湿り気のある小さな塊が複数。

「つまり、私がひどい目にあったのはこいつのせいか。ちょっと渡してくれ」

 水無月は袋の結び目を開ける。

「秋月も見てみろ」

 言われるままに覗き込むと、鼻をつくワサビの臭いに思わず顔をしかめた。

 スライスされたカマボコには切れ目が入れてあり、そこに丁寧にもワサビが挟まれている。


「なんかもう酒のつまみだな」


 そもそもこんなもの猫が食うんだろうか。人間でもワサビの臭いが鼻につくのに、鼻の良い猫は食わんだろ。


「むしろ猫除けだな、これ」


 水無月が俺の気持ちを代弁する。袋をしばらくガサガサ揺らすと、


「なんか引っかかるな。ちょっと写真撮るから持っててくれ」


 水無月はスマホで写真を撮り、しばし考えてから紙皿を袋から取り出した。


「これ、臭い嗅いでみろ」


 ぐいぐいと俺の顔に紙皿を押し付ける。


「うわ、臭いきついって」

「ワサビの臭いか?」

「プラス、何かの腐った臭い」

「じゃ、反対側」


 今度は紙皿の裏側を俺の鼻に押し付ける。


「!!」


 刺激臭に思わず顔を背けて咳込んだ。


「うわ、なんだこれ。裏側の方が臭いがきついぞ」


 水無月は納得したように頷くと更に何枚か写真を撮り、袋の口を縛った。


「じゃ、これ捨てといて」

「もういいのか?」

「大体な。じゃ、後片付けはよろしくな」

「あ、おい。手伝ってくれないのかよ」

「ほい、お駄賃だ」


 水無月はどこからともなくゼリー飲料を取り出すと俺に向かって放り投げた。

 受け止め損ねたゼリーがごみ袋の中にナイスイン。


「うわっ!」

「全部済んだら、ご褒美はまとめてくれてやる。あてにしてるぞ」

「あ、おい!」



 お駄賃のゼリーは少し生ごみの臭いがした。


他のクラスってなんか入りづらいですよね。

そんなことより私も仕事中とかJKに応援して欲しいです。リアルな金額を払う覚悟はあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 外堀、埋まってないですか? [一言] ゼリー飲料生ゴミ味、近日発売予定です。
[一言] おっ、なんかわかったか? JKの応援よりお駄賃のゼリーのほうがいいと思います。 応援が気になって仕事にならないからw
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