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12 BL部誕生


「BL部で間違いありませんって、啖呵切っちゃった。てへっ」


 おい。急にかわい子ぶるな。

 やばい、穂乃果が再び失神しそうだ。俺は無駄とは知りつつも戦いを挑む。


「せ、先生、でもそれじゃ、活動内容と部の名前が一致しませんよ」

「それね。BLのBは”bloom of youth”の頭文字ということで説明しといたから」

「ぶる……なんですか?」


 俺の質問に、先生は得意げに指を立てる。


「青春、って意味よ。青春応援部ってとこか」


 蜂須賀先生は眉を寄せて少し考え、


「んー、それじゃちょっとゴロが悪いわね。LaboratoryでBloom of Youth Laboratory……青春ラボってどう? 青春のお悩み解決、青春ラボに気軽に来てねー、みたいな感じで」

「お悩みなんて持ち込まれても困りますよ」


 あんまりな流れに穂乃果の魂は天井近くを漂っている。

 

 風見もどうしていいか分からないらしく、俺を見つめてくる。

 期せずして見つめ合う俺達。


 そんな空気を構わず、登呂川が手を挙げた。


「はーい、せんせー。私、エロい部活に入ってると思われると困るんですー。他の部活探してもいいですか?」

「え?」


 焦ったのは蜂須賀先生だ。


「ちょっと待った。部員が五人切ると設立が取り消されるから籍だけでも置いといて。私を女バスの顧問にさせないでよ!」


 そんなこと言われても。


「なにかしら形だけも集まってよ。遊んでていいから!」

「……液晶テレビ」


 ぼそりと呟く水無月。唐突な発言に皆の視線が水無月に集まる。


「私もゲームやってるからって、勝手に腐女子扱いされたくないし。辞めようか迷ってるんだけど」


 カチカチカチ。ボタンを連打しながら蜂須賀先生をちらりと見る。


「でも、もしこの部室に液晶テレビがあれば、私も足しげく通うかな。液晶テレビがあればなー」

「はい、はーい! 私はソファと冷蔵庫!」

「あと、職員室のWi-Fiパスワードが分かればなー」


 こいつら、遠慮が無い。


 蜂須賀先生はしばらく考え込むと、唸りながら頷いた。


「よっし、私が何とかする! その代わりちゃんと部活動するのよっ!」


 いやいや、俺達の意見はどうなった。風見も何か言いたそうにしていたが、諦めたようだ。

 そう、何を言っても無駄な時ってあるものだ。


 俺は先生が残りの午後ティを飲み干すのをただ見つめる事しかできなかった。



 ――――――

 ―――


「ああああああああああああああ」


 穂乃果はジャージ姿で頭を抱えてベランダにしゃがみ込んだ。

 第184回ベランダ会議は開始早々荒れ模様だ。


「やばいやばいやばい。ねえ、なんでこんなことになったの」


 うん、やっぱ、設立届にBL部って書いちゃったからじゃないかな。

 喉まで出かかったが、俺は飲み込んだ。


「大丈夫だよ。部の名前はガムテープで隠してるだろ? 部名は非公開でいこう」


 なんだそれ。そんな部活あるのか。自分で言ってて突っ込みたくなる。


「大丈夫かなあ、それで」

「心配ないって。活動さえちゃんとしていれば大丈夫だよ」

「そうかな。でも、こんな書き間違えをするなんて、うっかりしたなー」


 可愛らしくコツンと自分の頭を叩く穂乃果。

 ……え。なにか聞き逃せない不正が今、行われた気がする。


「書き間違え?」

「えーと」


 目をそらし、夜空を眺める穂乃果。

 先日の登呂川に続き、いけしゃあしゃあ女子の登場だ。


「わざと、だよね」

「わざとというか、つい、というか」

「なんでBL部とか書いちゃったんだ?」

「なんか、夢うつつでBL部とかあったら楽しいなー、とか考えていたら。つい、手が勝手に」


 うん、何となく分かってた。


「あ、でも部名を非公開で誤魔化し続けるんなら一つ気になることが」

「なんだ?」

「来年の新勧はどうしよう」

「前向きだな、穂乃果」


 俺はこれ以上心配することはやめることにした。



 ――――――

 ―――



「はーい、もうちょい右。はい、そこでーす」


 登呂川の指示で最後のソファを床におろした。蜂須賀陽子は有言実行。約束は守られた。


 風見と二人で生徒指導室からソファセットを運んだ上に、冷蔵庫とテレビ、ブルーレイレコーダーまで一気に揃ったのだ。


「重かったー」


 俺と風見はソファに倒れこむ。


「風見君、お疲れ様。せんせー、ありがとーございまーす!」


 登呂川はローテーブルにお茶の入った紙コップを二つ置く。やった、今回は俺の分もある。


「私は約束を守る女よ。あんたたちも約束は守りなさい」


 蜂須賀先生はどや顔で頷くと、会議があるからと部屋を出て行った。去り際、


「あ、それと。誰かに聞かれてもテレビと冷蔵庫は最初からここにあったと言い張るのよ。絶対」


 気になることを言い残して。先生、どこから持ってきたんだ。


 それはともかく、新生BL部の誕生だ。皆ははしゃぎながら、めいめいにソファに座る。一人を除いて。


 浮かれ気味な部員たちと対称に、穂乃果は所在無気に部屋の隅に立っている。


「穂乃果、座ろうぜ。部長がいないと始まらないぞ」

「でも、私のせいで部の名前が――」

「掛彬さん、誰も怒ってなんていないよ」


 風見はなぜかカバンからフィギュアを取り出し、テーブルの上に並べだした。


「穂乃果ちゃんのおかげでソファと冷蔵庫をゲットしたんだよ。お祝いお祝い」


 登呂川も早速お菓子とジュースを並べだす。


「部長の初手柄だ。掛彬、もっと偉そうにしてろよ」


 訳もなく偉そうな水無月が言うと説得力がある。


 彼女もさすがに嬉しいのか、フードを跳ね上げ、にやにやしながらゲームをしている。

 そういや初めてまともに顔を見た。普通にしてりゃ割と可愛いのに。


「「部長ーっ!」」

「……はい」



 穂乃果ははにかむように微笑むと、俺達の輪に入った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 順調に会議が開催されているようで安心です。 [気になる点] 腐った部活じゃない…?残念です…。
[良い点] 結果、ただのたまり場になりました。 [一言] テレビを置いた時点で、布教活動が一気に進むんですよね。まあ、猛者は無機物同士でも妄想できるんですけどね。
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