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もう我慢しない


 私の前に立つレオン王子は私の雰囲気にたじろいでいた。


「ク、クリス……?」


 私は無表情に言い放った。


「あなたは自分の元婚約者が悲劇にあってしまい、自分が悲劇の渦中にいると思い込んでいる勘違い男です」


「な!?」


「そもそもそんなに私の事を好きじゃないでしょ? あなたは自分が一番好きなだけ。悲劇に酔っているだけ」


 レオンが一歩後退った。


「私が他の貴族から暴言を吐かれても、石を投げられても、意地悪されても、突き飛ばされても……あなたは見てるだけ。何もしない。……むしろ、私がイジメられているのを見て優越感を感じていたでしょ?」


「正直、昔からうんざりでした。お父さ……あのクソジジイの出世のためにあなたの婚約者になりましたが、全然好きになれませんでした。……あなたは昔から変わりません。自己中心的でナルシストで、独善的で……自分しか信じていない悲しい人」






 レオン王子のほどほどに端正な顔が歪む。

 表面上の薄っぺらい笑顔が剥がれてきた。


 その顔はまさに邪悪。王国の貴族を表している顔だろう。

 王子は地面にツバを吐いた。


 ――最悪だわ。


「ペっ!! 最後に哀れみで弄んでやろうと思ったのによ。貴様、僕をコケにしたな? 蛮族の国へ嫁ぐ? ……そうだな、死体で嫁がせてやろうか?」


 私は一瞬だけギルバードを見た。

 彼はただ頷くだけだった。

 私は彼に頭を下げる。


 ――好きにしろ。

 ――迷惑かけてごめんなさい……。


 それだけで私たちの意思は通じ合った。




 レオン王子は腰の杖を抜いて私に向けて来た。


「おい! 僕を無視するんじゃねえぞ、僕は王国最強のジョブ『ロード』だぞ! きひっ、身体を麻痺させて楽しむぜ! 意識なくすなよ!」


 王子の杖が炎を纏う。

 その火力は凄まじいのだろうか? 

 私には魔力がわからない……。


 そんな力が私に襲いかかってきた。


 杖から発射された炎が私の身体を覆い尽くそうとする。


「クリス様ーー!!」

「クリスちゃん!?」

「――――くっ」



 ――大丈夫よ。

 私は炎を軽く手を払った。

 すると、炎が、魔力が簡単に霧散してしまった。


 レオンが狼狽する。


「な!? ぼ、僕の魔力は上位クラスだぞ!? くっ……今度は仲間もろとも死ね! ――『煉獄』!」


 ――させないわ!!


 私の身体が勝手に動きだした。

 ギルバードとの訓練を思い出す。


 鋭い踏み込みでレオンの懐に入り込む。

 そして移動しながらポッケに入れてあったペーパーナイフでレオンの顔を斬り上げた!


 ペーパーナイフは、魔力で強化コーティングしているはずのレオンの肌をあっさりと切り裂いた。


 ――え!? 切れないナイフなのに?? ……うん、今は考えちゃ駄目!


 そのまま三回程連続でレオンの腹にナイフを刺しておいた。


「ぎゅ!? ぐえ! 痛いよ……ママン!!」


 泣きながら地面に倒れてしまうレオン


 死ぬ程では無い傷だろう。


 ……冷静に考えると、王国の王子を傷つけたら死罪だ。いくら王子が襲いかかってきたからって言っても無駄。


 でも、もう我慢の限界だったわ。

 この男は私の大切な『友達』を傷つけようとしたわ。


 絶対許さない!!

 私の鼻息が荒くなった。


「ぷすーー、ぷすーー!!」


 ギルバードが私の手を取る。

 その触り方はとても柔らかった。


「……良い踏み込みだった。だが、ナイフで刺す時はもっとひねりを加えた方がいいだろう。……よし魔法省へ行くぞ! ……これ以上貴様の心を傷つける必要ない」




 私はやっと落ち着いて来た。


「……うん、ごめん……私といると犯罪者になっちゃうわ……私、ギルバードの国に行けない……」


 ギルバードは私の頭を軽く叩いた。


「馬鹿め。すでに俺の国は王国と険悪な状態だ。個人的に親交がある賢者様がこの国にいなかったら、とっくの昔に王国へ攻め込んでいたぞ。……ふん、だから……貴様はなにも気にするな……俺の国に来い。――これは俺の命令だ!!」


「……ギルバード」


 ギルバードは照れたのかそっぽを向いてしまった。




「おーい! そろそろ屋敷から執事が出てきちゃうよ! 早く行くよ!!」


 カインさんの声に促されて、私達は再び魔法省へ目指した。

 王子の悲痛な叫びを無視して。


「ね、ねえ……ヒールかけて……血が……きゅぅぅ」




 **********





「ほほ! やっと戻ってきたのじゃ。……うんうん、ちゃんとクリス殿も一緒じゃな。よし、儂の本気の力をみせるのじゃ!!」



 魔法省へ行くと賢者様が入り口で待っていた。

 そして、闘技場まで案内された。


 闘技場には大きな魔法陣が描かれていた。

 そして多数の白衣を着た賢者の弟子が待機していた。


 私とテッドは分けがわからなかった。

 だって私達は旅をしてギルバードの国に行くんでしょ?


 でもここは魔法省の闘技場(研究所)だ。

 乗り物があるわけではない。

 魔法陣があるだけだ。


 ギルバードは私と繋いだ手をゆっくりと離した。


「ギルバード、ありがとう」

「…………うむ」


 手のひらにはギルバードの温かさが残る。

 気持ちまで温かくなってきた。



 カインが私たちに説明を始めた。


「はい、ギルはいちゃついてないで……いて!? ……もう、二人に説明するから……。今から賢者様の魔法で僕らの国に転移するからね!!」


「て、転移でしゅか!? で、伝説の魔法でしゅよ……」


「ありえないわ。転移魔法は禁忌魔法。王国に知れたら縛り首よ? ……まさか賢者様?」


「そうじゃ。わしゃー賢者じゃ! 魔法を探求してなんぼのもんじゃ!! 国と国を渡り歩いてきた儂には関係ないことじゃ!!」


 賢者の弟子が騒ぎ出した。


「師匠! 準備オッケーです! 漏れそうです!」

「新天地楽しみです〜」

「魔法じゃない力に興味津々……」

「……王国うざい」


 賢者が真剣な顔で私に向かいあった。


「クリス殿。儂は元々この王国を出る予定じゃった。後釜の賢者も育ち、儂がいなくても魔法省は回るじゃろう。……そして数人の弟子を引き連れて、ギルバード殿の国で遊……いや、研究をしようと思ってるのじゃ! だから儂も一緒に『ギュスターブ帝国』へ行くのじゃ!! ほら、早く魔法陣にのるのじゃ。王国の連中が止めに来る前に行くのじゃ!! 」


「け、賢者様……ぐす……私……」


「ふぉふぉ、泣くでない。クリス殿は幸せになる権利があるのじゃ」




 ――ギュスターブ帝国。私が行く新しい国。


 私は、私の大切な友達達を見た。


 テッドが嬉しそうに笑いかけてくれる。


 賢者様が興奮しすぎて奇妙なダンスを踊り始めた。


 カインさんはいつも通りちゃらちゃらした笑顔を向けてくる。


 ギルバートはいつもよりもほんの少しだけ優しそうな目で私を見てくれた。




 私は王国から追い出された。


 だけど、私の人生はここから始まるわ!!


 私はギルバードを見て頷いた。




 小さく頷き返したギルバードが高らかと声を上げた。


「行くぞ!! 我がギュスターブ帝国へ!!」



 魔法陣が唸りを上げて魔法力が高まる。


 そして私達は綺麗な光に包まれた。




ここまで読んで頂きありがとうございました!

第一章完です。

次は帝国です!


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