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再び学園……


 その日の朝、私がいつものようにギルバードのところへ行こうとしたら、珍しく両親に止められてしまった。


「クリス。いいかげん学園に行きなさい」

「そうよ、あなたはまだ退学になってないのよ?」


 突然の事で私は戸惑ってしまった。


「え!? 今更ですか? 散々私の事を無視していたのに?」


 お父様は私の頬を叩いた。

 数週間ぶりに会えたと思ったら……


「……もうお前はうちの娘じゃない。いいか、私は決めたんだ。魔力ゼロの貴様は蛮族が支配している国に嫁がせる。……いい金で貴様が売れた。嫁ぐまでの間、学園でおとなしくしてろ!! いいな?」


 その声は敵対者に発するような響きだった。


 ――嫁ぐ? 蛮族の国? 意味がわからないわ?


 私は突然の事で頭が混乱して、頷く事しか出来なかった。






 私はテッドと共に再び学園に通う日々となった。

 母のお古のドレスを着て、学園でバカにされる毎日。


 私に対しての攻撃は前よりもひどくなっていた。


 突然ぶつかってくる生徒。

 窓から石を投げられる。


 ――だけど前の私とは違う! 絶対屈しない!


 あの日、テッドと約束したわ! 私は自分と大切な人を守るために強くなるの!

 

 ……ギルバードには悪い事をしたわね。連絡出来ずに行けなくなってしまって……。


 監視の眼を盗んで賢者様の所に何度も行こうとしたけど、監視が厳重過ぎて無理だったわ……




 蛮族の嫁になる……私には想像も付かなかった。

 はるか南に蛮族の国があることは知っていた。魔力を持たない者が支配する国。

 野蛮で毛むくじゃらで、まるでオーガが支配している国。


 私はそんな国に嫁いでしまう。



 ……もっとギルバードから習いたかった。

 口が悪いけど、私に真剣に教えてくれた。あの時間は私に取って大切な思い出になったわ……


 知らない蛮族の男に嫁ぐならもうギルバード達と出会う事はないだろう。

 私はそれが残念だった。


 そして、残念だと思っている自分に驚いてしまった。





 私が正式に蛮族の国に嫁ぐ事が決定した日、プリムは私を教室の壇上に立たせた。

 先生はこの時間を自習にしてどこかへ行ってしまった。




 プリムが腹を抱えて私を笑った。


「ひひひっ!! みんな聞いて〜! なんとお姉さまは蛮族の所へ嫁ぐ事が決まったの〜!」


 生徒達も笑い始めた。


「ぶははっ!! 蛮族って!? 毛むくじゃらなのか!!」

「まじで? あれか? 素手で食事するんじゃない?」

「どうせ魔法使えない所でしょ? 使えない令嬢の末路じゃん。いつも通りでしょ」

「うっほ、うっほ、うっほほ!! へへ、蛮族のマネ!」


 私はそんな生徒達を感情を込めずに見ていた。

 こいつらはただ面白がっているだけだ。

 魔力ゼロという名の免罪符で私を攻撃する。


 私は薄く笑った。


「……ふっ」


 プリムが目ざとくそれを捉えた。


「カッチーン! ちょっとその態度ムカつくんですけど? ……ねえねえ、どうせお姉さまは処女でしょ? なんだったらこの教室に外から見えない結界作るから、ここで喪失しない? 蛮族どもも悔しがるよ!」


 ……ちょっと頭逝ってる? 意味がわからないわ?


 だけど、プリムの目は本気だ。

 生徒三十人のうちの半数は貴族男子であったが、その男子達の目が輝き始めた。


「プ、プリム様! そ、その提案素敵です!」

「ぼ、僕も賛成!!」

「――――」

「――――」


 流石に令嬢達は眉をひそめて教室から出て行こうとした。


「ちょっとやりすぎじゃない?」

「あんたら貴族でしょ!」

「……怖いわ」


 ――明らかに男子生徒の様子がおかしい。プリムはそれを面白そうに見ているだけであった。


「――聖魔法『結界』。私は学食でお茶してくるね! バイバイ!」


 プリムは教室から去って行った。



 そして教室が一瞬光輝いて、野獣の檻となってしまった。





 令嬢達の悲鳴が聞こえる。


「きゃーー!! ちょっと出してよ!」

「怖いよ、怖いよ!!」

「あっち行きなさいよ! あんたらクリスのところでしょ!!」



 野獣と化してすべての男子貴族達が私に襲いかかろうとした。


 ――大丈夫、私は落ち着いている。ギルバードとの鍛錬を思いだすのよ!


 横にいるテッドも横で剣を構えた。


 絶対こんな所で負けない!! 









 ――その時大きな爆発音が響いた。


 結界ごと教室の扉ぶち破る音。

 激しい衝撃が爆発音に聞こえる。


「ぎゃーーーーすっ!!」


 扉は窓ガラスを割って数人の男子生徒と一緒に地面に落ちていった。


 教室が静まり返る。

 二人の男が教室へ入って来た。







「……おい、女。俺が何日待ったと思っている? ……ふん、迎えに来たぞ」


 片耳を真っ赤にしたギルバードが現れた!?

 端正なその顔は不機嫌そうにしているのがよくわかる。

 その後ろには小さく手を振っているカインがいた。


「ハロハロ! ギルが心配しちゃってね! ……あいてっ!」


 ギルバードは無言でカインの頭を叩く。




 令嬢達の目が輝き、さっきまでの惨状を忘れて騒ぎ出した!?


「ちょっと、ワイルド系イケメン!! ヤバいわ……」

「ひょろっちい男子と大違いだわ……」

「尊い……」

「はぁ……後ろの方も綺麗なお顔……遊ばれたいわ……」

「クリス様のお知り合いかしら? ……私今日からクリス派になります」

「あら? わたくしは初めから可愛いテッド君に目をつけてましてよ?」



 興奮覚めやらぬ男子生徒が叫んだ。


「なんだてめえ! 俺たちの楽しみを邪魔しやがって!! ぶっ殺すぞ!」

「イケメンは死ね!!」

「そうだそうだ!!」


 ギルバードは教室の惨状を見るや、いきなり闘気を膨らませた。


「……貴様ら死ぬか」


「「「ひぃぃぃ!!!」」」



 男子生徒達は恐慌状態に陥る者や失神する者が出た。







 ギルバードは私の元へゆっくりと歩いてくる。

 そして私の手を取った。


「……ふん、では俺の国に行くぞ。俺の親父と貴様の親父の話は付いている。……俺は今日出立しなければいけない。さっさと付いて来い!」


 ギルバードは片耳を真っ赤にさせながらそっぽを向いて私に言い放った。


 その姿は少しだけ可愛かった。

 なんで私がギルバードの国に行かなきゃいけないのか意味が分からないんだけど……私、蛮族の国に嫁ぐんだよ?


 …………あれ? もしかして…………




「……ギルバード。ありがとう……」


 多分わたしの顔は茹でダコのように真っ赤になっていただろう……


「……ふん」


 ギルバードは耳を赤くしながら私の手を引いて教室を飛び出した。


「待ってくだしゃーい!!」


「ちょ、ギル!! 俺が後始末か!? ――あ、令嬢の皆様ご安心ください。このカインに任せてください!」


「「「キャーー!! カイン様!!」」」


 令嬢達の黄色い歓声を背に、私とギルとテッドは学園を飛び出した。




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