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結婚式当日の異変

「研究者諸君、賢者様が消えた影響はどうなってる?」


 私は自分の執務室に賢者様の研究所で働いていた研究者達を集めていた。


 なぜか鼻息が荒い女研究者が私に答えた。


「は、はい、アルベルト様……萌え……はぁはぁ、賢者様が世界各地で封印したとされる遺跡や魔獣、魔物が復活される事が予測されます……ですが」


「なんだ?」


「ですが、全然復活する気配がないと言いますか、遺跡ごと無くなっていたり、魔物が退治されている報告を受けています。いや~、あれ復活してたら結婚式どころの騒ぎじゃなかったですよ! だってぶっちゃけ賢者様でも倒しきれなかった化け物揃いですから!」


「あと、全然話しは違いますが、ここ数日帝都で変なマスクをした謎の癒やしの使い手が病院や教会を回って、無償で重病者を治しているって聞きました。風のようにすぐにいなくなっちゃうから足取りがわかりません」



 ふむ……魔物は帝国にとって脅威では無いか……。

 謎の癒やし手も害はなさそうだな、無視していいだろう。



 これでギルの結婚式を心置きなく挙げられるな。

 あの朴念仁のギルが結婚とはな……。


 はぁ、まさか先越されるとは思わなんだ。俺はいつ結婚できるんだ……。このままだと東の国の姫とお見合いする羽目になる……。あいつだけは駄目だ……。


 物思いに耽っていたら、女研究者の顔が目の前にあった。

 うぉ、近!?


「はぁはぁ……私たち賢者研究員が全力を持って、引き続き調べておきます!! ですから……アルベルト様のサインを下さい!!」


「近い!! ほら離れろ、サインしてやるから……。まあ、お前らだけではなく、一応ギルドにも依頼しておこう。騎士団が出るほどの事態じゃないな」


 しかし、どこの誰だか知らんが、無償で魔物退治をしてくれるとはありがたい話しだ。

 ……だが賢者が苦心して封印した魔物。

 それに勝てるほどの実力者? 

 まさかギルじゃないだろうな? クリスは力が無くなったし……。

 あいつらは結婚式の準備で忙しくしているしな。


 ふぅ、何にせよ、このまま問題が起こらなければ幸いだ。





 **********





「こんにちは、ダヴィット様。今日は依頼ですか? 明日のギルバード様の結婚式の警備の依頼ですか?」


 俺は何故か生きていた聖女をこの手で葬ることが出来た。

 ……記憶が曖昧なところが多いが、それで満足するはずであった。


「そうしようと思っていたが、俺は街の外を警備する依頼を受けようと思う」


 あの後、俺はアリッサ嬢のリラックスする魔法を受けて、心の平穏を取り戻したハズであった。

 今日もいつものようにギルドでクエストを受けようとしていた。


「はい、わかりました。ダヴィットさんはSランク冒険者なのに謙虚な方ですよね……書類、書類……これを……ポンして……はい、あ、一人でいいですか? 最近また一人になっちゃいましたね」


「あぁ? ……一人で頼む」


 俺は共和国でパーティーを無くしてから、ずっと一人でクエストをこなしていたぞ?

 おかしい。


 こんな風に言われるのは初めてじゃない。


 八百屋でも。

『ダヴィットさん! 今日はマスクの嬢ちゃんいないのか!』


 武器屋でも。

『おう、この前頼んだ鋼鉄のスタッフが出来たぞ! これで撲殺できるぞ!』

 俺はそんな化け物みたいなスタッフなんて使わない。東の国の武器、刀しか使わん。


 どこへ行ってもこんな感じであった。

 まあ、俺が分けわからん顔をすると、段々とみんなその話しをしなくなる。


 ……ふう、街の警備の仕事が終わったら、帝国を離れて旅に出てみるか。


 少し疲れただけかも知れない。


「――どこか行きたい場所はあるか?」


 俺は自分の左側の何もない空間を見ながら独り言をしていた。


 ――まただ、くそっ。ボケるには早すぎる。……独り言増えたな。


「今日は警備の準備をするか」


 平和な帝国だが、一部のギルド員が国の特別クエストを受けているらしく、妙なざわつきがある。


 何故か嫌な予感がしてたまらない。

 ――共和国の時と同じだ。


 俺は分けもわからない不安を胸に押し込んで、自宅へと急いだ。






 ************





「うわ~~! クリス様超キレイだよ!!」

「従者のテッド君だ!! カッコいい!! 僕将来テッド君にみたいになるんだ!!」


 結婚式当日になった。

 帝都の大通りが祭りのような騒ぎになっていた。

 子供たちは嬉しそうにはしゃいで走り回る。


 俺はそれを横目で見ながら、みんなとは反対方向の街の出口へと向かった。




 入り口の兵士に軽く挨拶をして、俺は自分の持ち場に着く。





 ――?




 なんだ? この力は? 精霊力じゃない……魔力と……感じたことが無い力?


 周りを見ると、それに気がついている兵士、冒険者は誰もいない。

 俺は近場にいた兵士に声をかけた。


「悪い、ちょっと森の方が気になるから、少し見てくる」


「ああ、ダヴィットか。歴戦の冒険者が見てくれるなら安心だ! ははっ、流石に今日は帝国を攻めてくるやつはいないだろ! 気が済むまで見てきな!」


「ああ、俺の気のせいだと思うが……」


 兵士は笑顔で俺を送り出してくれた。

 俺は笑顔でいられただろうか? 嫌な予感がしてたまらない。


 装備をしっかりと確認して、俺は精霊の森に向かって走り出した。






 くそ……俺の目がおかしいのか?

 精霊の森全体の空間がおかしい。

 森を覆う空間に亀裂が入っている。


「……結界か? 何が起きているんだ!?」


 森に着く前に、その亀裂が一気に広がり、音も無く空間が崩れ落ちた。

 衝撃が周囲に襲いかかる。


「うおぉ!? くっ!」


 俺は身を低くして、衝撃をやり過ごした。

 程なくして衝撃は去っていった……が、今度は帝都全体を覆う結界のような物が瞬時に生成された。


「な、なんだあれは? て、帝国の結界とは違う? ――スキル遠見」


 共和国の人間に教わった便利なスキル。

 遠見を使って、兵士達の様子を見た。


「……談笑している。……この状況に気がついていない? この結界のせいか?」


 半透明の結界から感じる力は、聖なる属性であった。

 だが、俺が今この場で感じる力は……


「邪悪な力だ……」


 精霊の森を調べに行こうと、入り口に向かおうとしたら、人型の何かが精霊の森から出てきた。

 ――明らかに人ではない。


 見るだけで心を萎縮される、強者の威圧。

 尋常じゃない力を感じる。

 散歩をするようにゆっくりと帝都に向かって歩みを進めている。

 俺のことは完全に無視している。


 鬼ではない……魔族でも無い……あれは……伝説の……妖魔?


「くっ!? う、動け、動け、動け……」


 動かない手を必死に動かしてスマート水晶でこの状況を帝国に伝える必要がある。


 ――はぁはぁ……もう少しだ……急げ……急げ……


 俺はスマート水晶を震える手で起動した……と思ったら、スマート水晶が地面に落ちていた。


「はっ? ち、力が抜けたのか? もう一度……」


 俺はスマート水晶を地面から拾おうとした。

 水晶には俺の右腕が付いていた。


 痛みの認識が遅れて俺に襲いかかってきた!?


「ぐぅぅぅ……やられたのか……俺は……ここまでか……あっ」






 角の生えたこの世の者とは思えぬ美しい男性が俺の目の前にいた。


「……貴様は賢者を知ってるか? 俺様たちを封印したクズ男のことだ!! 俺様たち妖魔貴族の叡智を盗むだけ盗んで封印しやがって!! ぶっ殺してやる!!」


 後ろのは違う妖魔の女性が笑って立っていた。


「なんかこの世界から気配がしないわよ……逃げちゃったんじゃない? ……でもさ~、あそこの街から賢者の残り香がするよ~。とりあえず壊しちゃう?」


「イエス、マイマム」

「仰せのままに」

「……眠い」

「まあ食料には困らなそうだな。あ、こいつ食っていい?」

「バカ、王が先だろ? ささ、ルオニージュ様、どうぞ」


 総勢七人の妖魔の貴族だと!? 魔王に匹敵する存在……その威圧だけで俺は息が出来なくなってしまった。


 美貌の妖魔ゆっくりと俺の頭をつかもうとした。

 俺は為すすべもなく、ただ見ているだけであった。


「中々強い力を感じるな。さあ俺様の糧になっ」




 ルオニージュと言われた妖魔がいた場所には、両柄に鉄塊が付いた巨大なスタッフが地面に突き刺さっていた!?


 ルオニージュは血を吹き出しながら盛大に吹き飛んで行った。



 聖なる気配を感じる。

 俺の知らない気配……。






「――あなた達で最後の後始末です。……命に代えても帝国には一歩も踏み入れさせないです!! ……そこの……人……逃げて下さい……」



 巨大なスタッフの元に突然、変なマスクを被った傷だらけの獣人の少女が舞い降りた。





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