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黒幕


 精霊の森はいつも通り静謐な雰囲気であった。

 カインはこの森の奥を拠点にいて動いていると聞いている。


 この森を歩くと、ギルが私に告白してくれたことを思い出してしまうわ……

 決意を秘めた顔で私を後ろから抱きしめてくれて……。


 そんなギルに内緒で私はカインと会おうとしている。

 正直気乗りしないけど、私はカインと話す必要がある。


 どこの記憶を辿っても、私は八歳以前の記憶が無かった。全身に寒気が走る。

 始まりはいつもレオンとプリムがいる。後ろでは両親が見守ってくれていて、賢者様と歓談をしていた……。


 そして、決まって事件が起きるのが魔力検査の時であった。

 ……終わりを迎えるのが……結婚式を予定している日……。


 カインとも話したけど、この結婚式の日を乗り越えれば……ギルは死なないかも知れない。

 ギルが死ななければこの世界は破滅しない。

 ……カインが初めの世界に戻れるかはわからないけど、まずはギルを守る事を第一に考えよう、という事で話がまとまったハズ。


 だからカインと私はあらゆる手を使ってギルに迫る魔の手を排除する予定よ。

 カインは繰り返しの中、最強に近い力を手に入れた勇者。

 私も聖女を封印出来る程度には力を持っている。


 そんな私達に勝てる相手は一握りも居ないはず……


 そう思っていた。


 うぬぼれ? 違うわ。事実のハズだった。


 カインの住居に近づくと妙な気配を感じる。

 魔力……精霊力……なんにせよ普通じゃない力。


 私は不安になって思わず駆け出してしまった。



 草木をかき分け、道が開かれると、そこには……血だらけのカインが立ち尽くしていた。

 思わず叫ぶ!


「カイン!! 何があったの!?」


 自分の荷物から回復ポーションを取り出そうとしたら、カインはその場に崩れ落ちた。

 なんにせよ回復よ!! ポーションをカインにぶっかけると、カインの身体が凄い勢いで蒸気が発生する。


 胸に手を当てる。――息は……あるわね……

 ほっと安心すると、奥の方から人影が近づいてきた。全力で警戒する私……。

 人影が認識できるくらいの距離になる。二十半ばほどの青年、鷹のような鋭い目は深い闇をた想像させる。鍛えられてる身体は、着ているローブでは隠せる物ではなかった。


 よく通る低い声で私に告げた。



「……まずは……この欠陥品を異次元に封印する必要があるのじゃ。クリス殿はどうせ後で自爆してもらうからちょっと待つのじゃ」


 頭が混乱しそうなった。


「え……あなた……誰!?」


 私はこんな人を知らない……だけど、この口調は……。


 その時、後ろから腕を掴まれた。――カインだ!


「クリスちゃん! はぁはぁ、ポーションありがとう……助かってしまったのか? ……こいつは俺を殺せない。俺を殺すと、また世界が繰り返す羽目になる。封印される前に自爆技を使ったんだけど、死にきれなかった……。……クリスちゃんは俺の後ろにいて」


 カインは傷だらけの身体で私の前に出た。

 その息は今なお荒い。


「まさかね……この世界で俺より強い奴がいるなんて……ぶっちゃけ勝てないのはクリスちゃんだけかと思っていたのにな……しかもこいつの後ろには召喚者達もいたよ」


「――召喚者……」


 魔神と言われるほどの力を持つ存在達。

 あるものは異世界から。あるものは地獄から。あるものは女神界から。


 私の手駒として動いた時もある絶対的な強者。それでも今のカインが負けるハズは無い。


 青年が顎に手を当てて何か考えている。

 その姿はあの人に重なる。


「クリスちゃん……ごめん……今回の世界はもう駄目だ……俺は次に……」


 ――駄目よ!? あなたにとっては繰り返したけど、私にとってはたった一つの世界! ギルを……みんなを……置いていくの!!


「……ふぉふぉふぉ、そんな事させないのじゃ! この欠陥品が!!」


 カインの頭を青年が放った魔法が貫く!? 吹き飛ばされたと思ったカインの頭は無事?

 だけど、カインは立ったまま再び気を失ってしまった。


 青年はため息を吐く。


「ふぅ〜、手間かけさせおって。――聖女! 女神! 勇者! 魔王! こいつを封印するのを手伝うのじゃ! 何度も繰り返したから絶大な力を持っているから気をつけるのじゃ!」


「プ、プリム!? なんで復活してるの!!」


 青年の後ろから影があつまる。一人一人が絶大な力を持つ召喚者……。

 そこには生気を失った顔のプリムが泣きそうになりながら立っていた。


 私は頭を素早く回転させた。


 ――この状況はまずいわ。カインを封印されたら世界の繰り返しが無くなるわ。ということは……世界が壊れたまま終わる可能性が出てくる。私のわがままを言っている場合じゃない? ……私がカインを殺す?


 そう決めた瞬間、私はカインの頭めがけて短剣を振り抜いた。

 力を込めたその一撃はいくらカインでも絶命するはず……だった。


 青年の手が私の短剣を素手で掴んでいた。


「ふぉふぉ、クリス殿、おとなしくしてるのじゃ」


 微動だにしないその力。

 切れ長の瞳は暗く……絶望を見てきたであろう悲しさを感じられる。


 なんで? あんなに私達に優しかったのに!? 私を助けてくれたのに!!

 ねえ、どうして? どうして姿が違うの!? なんで私達と敵対するの!!




「賢者様!!! どうして……」



 賢者とよばれた青年はニヒルな笑いした。


「ふぉふぉ……いかにも儂は賢者じゃ。……賢者は影の姿……本当の姿は」


 賢者はカインを見た。その目には敵意を感じられなかった。だけど、ひどく人間味が無い。まるで物を見るような目つきであった。


「そこの偽物カインの本物の姿じゃ」


 ……カインとは似ても似つかぬ平たい顔。少し色が入った肌に黒髪、黒目……こんな人種は初めて見たわ。


 私が訝しんでいると賢者はオーガのような形相で笑い声をあげた。



「ふぉふぉふぉ! 儂はこの世界に転移して二千年の時を過ごした日本人じゃ!! 儂は……日本に帰るんじゃ!!!」



 私は手に力が抜けて短剣を離してしまった……


 ――ギル……怖いよ……だけど……この人達がギルを殺すのね……


 私は確信をした。これは憶測ではない、絶対的な法則である。


 胸の奥がとくんっ、と音がしたのがわかった。


(――こいつがギルを殺した)

(――何度もギルを殺した)

(――許さない)


 でも勝てないよ?


(――弱気になっちゃ駄目)

(――こいつはカインだよ? はんっ)

(――話は通じると思うけど……)


 思うけど?


(――言いなりになっちゃ駄目!!)

(――ギルを二度と傷つけないで!!)



 ――ギルを守って……


 お願い、クリス。あなたなら出来るわ。この世界を何度も経験し、ギルと共に苦楽を共にし……やっと掴んだ最高の可能性の世界……だから……


 ……だから


 だから、




「……今が本気をだす時よ……これを乗り越えれば……私はギルと幸せになれるの!!! ――魔力精霊力同時開放!! ――スキル無能力!!」




 忘れていた胸の痛みが蘇る。無かったはずの魔力が身体の中を暴れまわる。

 身体の奥底から感じる喪失感。生命力が吸い取られるのがはっきりとわかる……。


 その代わりに、私の身体から波動が波打った。


 波動が森全域を打ち鳴らす。


 精霊力が止まる。魔力の吹き溜まりが消失する。龍脈が消える。

 ありとあらゆる力が消失する。



 ……そう……全ての力……



 私の身体がほんの少しだけ……薄れていった……





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