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婚約破棄の無能令嬢 魔力至上主義の王国を追い出されて……  作者: 野良うさぎ(うさこ)
第四章 穏やかな日常の中で……

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ミザリーの愛


「これ美味しいでしゅ!! ミザリーさんも食べて下さい!」


 帝国の行きつけのカフェでいちゃつくテッドとミザリー。

 今日はギルはお父さんに呼ばれて大切な会議があるらしい。なんだろ?


 アリッサはセバスさんと一緒に王国地方にある観光名所デートをしているからいない。


 私は生クリームが顔に付いているテッドをぼんやりと眺めた。

 少年のような可愛らしい顔が満面の笑みを浮かべてスプーンを握りしめていた。


 隣にいるミザリーはそんなテッドを見て顔を赤らめていた。


 ――そうよね……。テッドの純真さは国宝級よね……、もし私がテッドと出会えてなかったら……。


 記憶を思い出すだけでぞっとする。


 優しいだけじゃなくて、心の芯も強い男の子。今回は私の従者としているけど、過去にはギルの従者として私と敵対していた時もあった。

 どんなときも私はテッドとギルの事を嫌いになれなかった。


 ――テッドも特別なのかな? そう言えばこの世界のテッドの強さって……過去の経験とか関係あるのかな? ちょっと強すぎだよね? ドラゴンの鱗を貫く攻撃力って異常よね……。




「ふ、ふふ……テ、テッド君……か、顔にクリームが……も、萌……」


 震える手でハンカチを取り出してテッドの顔を優しく拭くミザリー。

 まるでお母さんみたいな柔らかい表情。

 テッドはくすぐったそうな声を出していた。


「ひゃ、ひゃい!? は、はずかしいでしゅ!」


 ――うん、見てるこっちが恥ずかしいわよ!!   


「ちょ、ちょっと僕トイレに行ってきましゅ!」


「テッド君……ゆっくりね……」


 ミザリーは胸を強調させながらテッド見送った。

 私もひらひらと手をふってそれに答えてあげた。







 テッドがいなくなると、ミザリーは私に向き直った。

 いつもテッドに向けている優しい顔じゃない……冷たい眼差しで、氷の彫刻を思わせる表情であった。



「……さて、クリスさん。ちょっとお話しましょうか?」



 私の背筋に冷気が走ったような感覚に襲われる。私は無言のまま頷いた。



 ――そもそもミザリーも謎が多い女の子なのよね。占い師みたいな事を言ってるけど……槍の名手で、高ランク冒険者。そしてテッドが大好きな女の子……。


 ミザリーは私の記憶にもほとんど出てこない。

 たまに出てくる時は、必ずテッドの後ろにいる。


 ミザリーは呟くように話し始めた。


「……ちゃんと話すのは初めてかも知れないわね。……テッド君とばかりいつも喋っていてごめんなさい」


「い、いえ……」


「ところであなたって魔神?」


「ぶっ!? ちょっと意味がわからないわよ!? そもそも魔神ってなによ!」


 ――聖女プリムの事もそう言っていたわね? ちょっと一緒にしないで欲しいわよ!


「……そう。でもあなたから人外の力を感じるわ。……これは精霊の力ではないわ。……あなた魔力が使えないのよね?」


「ええ……魔力ゼロの無能令嬢って呼ばれていたわよ……」


「本当に?」


 少しイラッとした。


「……ねえ、遠回しに言わないで? 何が言いたいの?」


「あら、ごめんなさい。占いが本職だからついつい……」


 ミザリーはため息を吐いた。

 私を見る目が明らかに友達を見る目ではない……。

 敵意は……感じられない……厄介な物を見るような目だ。


「……ねえ、召喚者ってわかる? 東の国では魔神とも呼ばれているわ……」


 私の胸の鼓動が早くなる。

 ……別にやましい事はなにもない。だけどなんでミザリーがそんな言葉を知っているの?

 今回の世界では召喚者は出てきていないはずよ!?

 しかも魔神は記憶を遡っても出現しない。


「わからない……今の私には……」


 なんとも端切れが悪い返答になってしまった。



 ミザリーは身体を私の方に近づけた。



「……私の本職は占い師……過去を読み取り……未来を盗み視……違う可能性の世界を知る力」


 吐息が私の耳にかかる。

 甘い匂いが漂ってきた。


「……私はクリスさんの事は嫌いじゃない……比較的好きな部類……だけど……もしも……占いのように……テッド君を……傷つけたら……あなたを殺すわ」



 ――この人は違う世界で起こった事を断片的に視たことあるのね……



 ミザリーの身体が小刻みに震えている。

 瞳の強さは恐怖を覆い隠すための虚勢だとすぐにわかる。

 どの世界の私を視たんだろう? ……私でさえ思い出したくない場面が多々あるわ……。



 ――この娘は私と同じ……大好きな人を守りたいだけ……。



 私は身体の力を抜いた。

 そして軽い口調でミザリーに言い放った。



「ええ、その時はお願い……」



 この娘に嘘は通じない。

 愛する人を守ろうとする時、人は大きな力を手にすることが出来る。




 ミザリーは自分の椅子の背もたれに大きく身体を倒した。


「……はぁ……疲れた……」


 少し離れた所から声が聞こえてきた。


「おまたせでしゅ!! あれ? け、喧嘩でしゅか!? へ、変な空気になってましゅ!」


 私はテッドにいつものような笑顔を作ってあげた。


「テッド、大丈夫よ。……ミザリーがどれだけテッドの事が好きか、って聞いていただけよ」


「……うん、世界が壊れても私はテッド君は助けるって話し」


「ふえ!?」


 テッドは顔を真っ赤にしてそそくさと席に座った。





 まさかミザリーが過去を見ることが出来るとわね……カインは知っていたのかしら?

 愛する人を守るために、世界を壊すであろう私に抵抗をするあう姿は美しい。


 ふふ、可愛らしい人ね。


 私は二人を見つめる……。案外お似合いなカップルね。


 嬉しそうにしているテッドを見ると、私は子供の頃を思い出す。




 八歳の頃、レオンが私を見初めて……プリムは私の後ろを付いて回って……両親は優しくて……。

 うん、ちゃんと八歳の頃の記憶はあるわね。いつもここで世界は繰り返しているわ……。




(――ねえ、その前の記憶は?)




 ふう、安心した! 大丈夫! 私はギルの事が大好きなだけの普通の女の子! 

 そろそろギルも会議が終わる時間だし、早く会いに行こっと! 

 夜はカインと今後の事について対策練らなきゃね! 

 時間が無いから急がないと!

 私が頑張らなきゃ!





(――お願い……自分と向き合って……)





 ――分かってるわ……そうね……現実逃避しちゃ駄目よね……。




 私は席を立ってテッドに告げた。


「テッド、今日は私はギルの所へ行けないわ……伝言頼めるかしら?」


「ひゃい……クリス様……大丈夫でしゅか? ……お顔が……とても険しい……」


「……クリスさん」


「……大丈夫よ、テッド。……少し自分を見つめ直してくるわ」




 ――ギル……怖いよ……あなたにすがりつきたい……




 私は心を押し殺して、カインがいるであろう精霊の泉へと向かうことにした。


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