表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/41

クリスの逆襲!!

 

 王国の大通りを歩くと、王国民は何事か? と私達を見る。

 私の姿を見ると、ぎょっとした表情になった。


 先頭には、剣が刺さっていて簀巻きになっている聖女プリムと、足を引きずりながら歩くクソジジイと、呆けた顔のクズ王がトボトボ歩いていた。


 ざわめきが街を伝わる。


「せ、聖女様!?」

「王様!! 公爵様まで!!」

「あれは反逆者クリスよ!! 王国に帰って来たのね!?」

「ぶち殺せ!! 石を投げろ!!」

「いや、待ってよ……聖女様と王様が捉えられているじゃん? もしかして……」

「負けたの?」

「そんなの関係ない! あんだけしか人数がいねえよ! 殺っちまえ!!」



 ここで王国民の罵声を聞くと、学園の帰り道に石を罵声と共に投げつけられた思い出が蘇るわ……

 変装して市場に忍びこんだ時は、何も無かったのにね……


 聖女がうめいていた。


「ぐむむむ……あんた達……やめなさい……絶対逆らわないで……」


 聖女の声を無視して、民衆が石を投げ出した。

 血気盛んな若者は魔法を唱え始めた。




「うざいでしゅ!!」




 テッドの槍が石を弾き返す。

 その石が砕け、民衆に散弾の様にぶち当たる。


「目、目がーー!」

「いてっ!? あ、足が……」

「くっそ、無能の分際で!!」



「――魔力足りてる? ちょっと弱すぎじゃない?」



 怒りを震わせる声でアリッサが魔法を解き放った。

 王国民の魔法を覆い尽くすようにアリッサの強大な魔法が岩石を作り出し、王国民を押し潰して行った。


 ギルはそんな光景を見て、私の心の心配をしているのか、手を強く握ってくれた。


「ふん、俺の出番は無さそうだな。……クリス、疲れたら言ってくれ。俺が支えてやる」


「ギル……。ありがとう、でも大丈夫よ。ギルは私の横で見ていて。これは私のけじめ。無能令嬢と呼ばれたクリスを捨てる儀式よ」



 私は王国民を見渡した。

 その顔には混乱と怒りが満ち溢れていた。

 ――私は覚えているわ。私に暴言を吐いた奴を、石を投げつけた奴を……


 でもね、あなた達は聖女の呪いが解けているはずよ?


 それなのに心が汚い……。


 私達は王国中央にある広場まで歩いた。

 その間も、罵声が止まらない。私達に近づくと殺されると分かってからは、遠くから石を投げるだけであった。



 広場の中央に王と公爵と聖女を立たせた。


 ――自分の罪を知ってもらわなきゃね。


 王国民は私達を遠巻きに見ているだけであった。

 そこには王国兵も混じっていたが、彼らはどうしていいか分からないで立ちすくんでいるだけだった。



 そして、王国民はこんな状況なのに私たちに罵声を浴びせる。


「聖女様なにやってるんだよ!? 負けんじゃねえよ!!」

「私達は高貴な王国民よ!! 無能令嬢ごときに屈しないわ!!」

「そうだそうだ!」

「おい、お前兵士だろ? 魔法で焼いちまえよ!」

「王様やめちまえ!!」

「あれはレオン様じゃねえか!! 無事だぞ!! 無能令嬢をぶち殺してくれ!!」



 最後尾でうつむいていたレオンが鋭い目で王国民を見た。


「……ここまで腐っていたのか……」


 レオンは父であるクズ王の元へ近づいた。


「――おお、我が息子よ……は、早く私を助けるんだ……へ、兵士達はなぜ動かない……私は何も悪いことをしてない!? この無能令嬢を早く始末するんだ……」


 レオンにすがりつくクズ王。レオンの顔は苦虫をかみ潰したような顔をしていた。


「……父上。もう終わりです。俺たちは王国民の誇りを失っていました……俺は化け物が支配する国はもうごめんです!!」


 レオンは手に持っていた剣でクズ王の右腕を切った。


「――あわ、あわ、あわ!? ――ヒール!? ――ヒール!? な、なぜ魔法が使えん!! い、痛いぞ!? ぎゃぁーー!!!」


 レオンはうるさいクズ王を無視して私の前で土下座を始めた。その土下座はすっかり板に付いていた。


 王国民がざわつく。


「おい、土下座だと!?」

「王族が無能に土下座? やばくね」

「ていうか親父の事切りやがったぞ!? 乱心か?」



 レオンは立ち上がって王国民に向かって叫んだ!!



「貴様ら目を覚ませ!! ――なぜ最高の令嬢のクリスが無能と呼ばれなきゃいけなかったんだ!! 魔力がゼロ? お前らクリスの優秀さを知っているだろ!! クリスの優しさを知っているだろ! よく考えろ……自分の思考のおかしさについて……。そして、それが分からない奴は消えて無くなれ!!!」



「あいつ何言ってんだ?」

「バカじゃね? 無能は無能だよ」

「聖女様、早く本気出してよ。その拘束だってすぐ解けるんでしょ?」

「死ね死ね死ね!! 無能王子も死ね!!」



 レオンは顔を手で覆い尽くして嘆いていた。



「ああ……クリス様……申し訳ございません……もう……王国は……」



 いいの。私は王国を捨てた女。

 私の居場所は帝国だけ。

 だから……ここは聖女を封印する地にするわ。


 聖女と同じ人間の心を無くした王国民を使って……





 私が力を使おうとしたとき、クソジジイが私に向かって懇願を始めた。




「ク、クリス……よくやった……私の思った通りの結末だ。……試練を与え、クリスが成長する為に……私は心を鬼にして……。だから、私だけは助けろ!! 妻はどうでもいい!!! 私は公爵だぞ!! 偉いんだぞ!! いずれは王を暗殺して私が王国を支配する予定だったんだぞ!!! ――クリスはもちろんお姫様になれるぞ? さ、さあ、私を助けろ!!!」



「はっ!?」


 アリッサが思わず声を上げていた。


「……」

「信じられないでしゅ」

「――クズだな」




「――バイバイ」




 私は心を無にして短剣で父親だったナイツ公爵家の当主の首を刎ね上げた。







 王国民がやっと状況に気が付いたのか、広場に悲鳴が響き渡る。


「ね、ねえやばくない?」

「だ、大丈夫だろ……聖女様もいるし……」

「でも剣刺さってるよね……」

「――俺はクリス派だったんですよ!」

「バカ! お前一人だけ逃げるつもりか!! 俺も土下座……」

「ていうか王様と公爵死んでも、あいつら数人しかいないじゃん! だれか肉壁になってあいつら殺してよ!!」



 私は王国民に告げた。



「――もう遅いのよ。あなた達のしたことを私は忘れない。無能令嬢とバカにされ、一度は自死を決意したわ……。それでも私は大切な仲間……テッドのおかげで生きる決意をしたの。帝国で出会ったみんなのおかげで今この場にいるの! ……聖女に操られていた? ううん、数刻前から聖女の力は消えているはずよ? それがあなた達の本性なのよ」




 王国民が怒りの感情から、恐怖へと変わっていくのが目に見えて分かった。

 私の声の力が王国民に伝わっているのだろう。


「――あなた達には聖女という名の悪魔を封印する簡単な仕事を与えるわ。一生かけて悔い改めなさい!!!」




 私は力を徐々に強くしていく。

 恐怖が絶望の表情へと変わっていった。




「そして地獄へ落ちなさい」





 首が無い公爵の胸に大穴が開いた。


 私は聖女の首根っこを掴んだ。


「お、お姉さま!? わ、私は可愛い妹ですよ!! ちょっと、力が手に入ったから調子乗っちゃっただけですわ! ね、ねえ、過ちってことで許してくれないかしら!?」


「――駄目よ。あなたは妹じゃないわ。臭いで分かるわ」


「そ、そんな!? ――なんで主様と連絡が付かないのよ!! 私は見捨てられたの!? ねえ、お姉さま!! 助けてよ!!!」


 公爵の腹にプリムを近づけると、大穴からいくつもの手が這い出てきた。


「ひぃーー!?」


「あそこには、あなたのせいで死んだ亡者がいる……と思うわ。うん、多分ね。大丈夫。一人じゃないわ。ここにいる王国民と一緒だからね」



 私はプリムを公爵の腹に出来た大穴に、足から無理やり押し込んだ。

 プリムは必死にもがいて穴から逃げ出そうとするが、亡者の手が逃さない。





 プリムに顔に亡者の手が絡みつく。





「ああ……こんな所で……私の計画が……主様……カ……様……」





 プリムは闇に呑まれて完全に消えてしまった。

 封印はまだ終わっていない。


 でも……プリムが消えた事により、心に平穏が訪れた……


 まだ気を抜いちゃ駄目……しっかり封印するのよ!



 ――心が聖女と同じ者を感じ取るのよ!



 私は力を開放した。


 走って逃げていた王国民の頭上では雨が降り注いだ。

 雨に触れると、黒い煙を出して苦しむ王国民……





「さよなら」





 煙を出した王国民たちは、不思議な強制力で次々と公爵の大穴に飛ばされて行った。




 私達はその作業を粛々と見ているだけであった。




 最後の王国民が大穴の中へと消えると、この場には王国民がほとんどいなくなってしまった……


 公爵の身体が徐々に鈍色になり、石化していった。



 ギルが石化した公爵に精霊剣を突き刺した。



「……ふん、これで俺の力も合わさって、俺とクリス、二人がいないと封印が解けることはない。……クリス」


 ギルが私の頭を優しく撫でてくれた。

 私の高ぶった感情が落ち着いていく。




「ギルーー!!!」



 全て終わった……これでこの国は本当におしまい。


 私達が抱き合っていると、空の上では帝国竜騎士団の竜の咆哮が聞こえてきた……






三章終了です。

ここまで読んで頂けてありがとうございます。


皆様のブクマや評価等の応援のおかげで、どうにかここまで書く事が出来ました。

本当にありがとうございました。

まだ続きますので、新章もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ