テッドの逆襲
テッドです。
僕は今猛烈に感動しています……
クリス様が威風堂々と公爵と王と対峙しています。
王国での辛い日々を思い返すと、胸が張り裂けそうになります。
初めてクリス様と会った時の衝撃は忘れません。女神様がそこにいました。
僕は僕の全人生をクリス様に捧げると誓いました。
だから、クリス様をイジメた王国は絶対許しません!!
実験場で戸惑っている貴族兵達を見ると、クリス様の学園の生徒も沢山いました。
クリス様が透き通るような声で高らかと宣言しました!
それと同時にクリス様がいる空間から膨大な短剣が飛び出し、貴族兵たちに襲い掛かりました。
……僕は知らず知らずのうちに涙が出ています。
だって……クリス様はやっと……王国を……
「テッド君。……大丈夫よ。もう辛い目に合わせない。テッド君をイジメた王国を許せるはずがないわ」
隣にいたミザリーさんはいつもの妖艶な笑みでは無く、僕の事を心底元気付けようとした笑顔を振りまいていた。
僕は頷く。
「ひゃい……ひぐっ……ひっぐ……」
もう泣かないって決めたのに……。
僕が泣いている間に、クリス様の短剣が貴族兵たちの身体に突き刺さります。
阿鼻叫喚の断末魔がそこら中から聞こえて来ました。
数人の貴族兵は短剣が当たっても戸惑っているだけで無傷でした。
「あ、あれ……い、痛くない……身体が軽くなった……何が起こってるの?」
――あ、クリス様と同じクラスにいたタナカ君です? 彼は大丈夫でした……良かった、イジメられている僕にこっそりと飴をくれたのは絶対忘れないです。
他の貴族兵は黒い煙を上げながら断末魔の叫びを上げます。
「死ぬ死ぬ!!!」
「熱いよ、熱いよ……意識が……」
「がはっ!? せ、聖女様……助けて……」
王と公爵はクリス様が調整したのか、かすっただけで、苦しみながら床に倒れました。
腕の辺りからしゅうしゅう音を立てながら黒い煙が立ち上がります。
「ク、クリス……実の親を……殺すのか!?」
「お、俺は王だぞ!! この世界を支配する絶対的な存在だ!! 無能令嬢ごときに殺されてたまるか!!」
どうやら彼らは立場が分かってないようです。
クリス様が僕の事をちらりと見ました。
僕は頷いて、王と公爵の元へと駆け寄りました。
クリス様とギルバード様は再生し始めた聖女を拘束しに行きました。
僕は槍を構える。
「き、貴様はスラムで拾った使用人じゃないか! 早く助けろ!! この役立たずが!!」
公爵が僕に向かって吠える。
僕の頭が沸騰しそうになったけど、ここで公爵を殺す訳にはいかないです。全てはクリス様のお考えのままに……。
僕は倒れている公爵のつま先に向かって槍を突き刺した。
「ひぎゃ!?」
「うるさいでしゅ。そこから動いちゃだめでしゅ!」
思えば、この男がクリス様の妹の教育を間違ったのです。
この男がクリス様を王国から追い出したのです。
この男がクリス様を見捨てたのです。
この男が……。
槍の切っ先が震えています。
怒りを抑えるので精一杯です……。
ふと、僕の肩に柔らかい感触が伝わりました。
「クリス様……」
いつも素敵な笑顔を僕に与えてくれる……
「テッド……ありがとう。わたしの為に怒ってくれて……」
クリス様はそのまま僕の手を取って、槍の震えを止めてくれました。
そして槍を公爵へ押し込みました。
「ぎゃーー!!」
公爵の肩に突き刺さる槍。
「さあテッド、これから私達はクズ王とクソジジイを連れて王国城下町の広場に行くわ! そして全国民に宣言するわ! あ、プリムも忘れちゃ駄目ね!!」
「はい! クリス様!!」
実験場はクリス様の短剣に心が耐え切れなかった貴族兵の死骸で溢れていました。