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嫉妬


「せ、聖女様! 転移した貴族兵たちの反応が次々と消えております!!」

「聖女……転移七箇所のうち、三箇所の転移装置が消失……」


 王国の魔法省の実験場の端にふかふかな椅子を用意させ、そこで私は成り行きを見守っていた。

 両脇にいる新しい賢者のピッグスと、王国貴族兵の最高クラスのジョブ剣聖であるウェッヂが慌てふためいていた。


 あのくそったれジジイ賢者が残した遺産を新たな賢者ピッグスに改良させて、数々の新魔法を開発した魔法省。


 この転移魔法の力と聖女の魅力で共和国は三日で滅ぼせたわ……


 私は手に持っていたワイングラスをウェッヂに投げつけた!


「あうち!?」


「なんでなのよ! 帝国は蛮族の国でしょ!? 手づかみで食事したり、剣と槍を突いてくるだけでしょ!!」


 陰気で根暗な賢者がボソボソ呟いた。


「……帝国は偽装してました。国力が弱いと見せかけていました。……マジ、ヤバっす」


 腹の底からむかつきが止まらない。

 だってあの国にはクリスがいるんでしょ!! 

 なんで王国からいなくなってるのよ!! あんたは私のおもちゃでしょ!! 

 私が学食で優雅にお茶をしてる時に逃げやがって! ……次は絶対私の目の前で弄んでやる……


「ピッグス! まだまだ捨てゴマ(学生)は沢山いるわね?」


 賢者ピッグスはメガネをクイッと上げた。

 その動作がしゃくに触る


「……王国全土から取り寄せてます」


「ご褒美よ!」


 私はピッグスの顔を平手打ちで打った!


「がはっ……はぁはぁ……あ、ありがたき幸せ……」



 私は椅子から立ち上がった。


「ウェッヂ! 剣聖部隊の準備は?」


「はい!! 喜んで!!」


 意味が分からない返事をするウェッヂの頭をグーで殴った。


「質問にはちゃんと答えを言いなさい!! この脳筋剣聖!!」


 本当にこの二人は実力と顔だけはいいけど、頭のねじが外れているから困るわ。

 私みたいに常識ってもんを知らなきゃ!!


 ウェッヂは顔を赤らめながら痛みを我慢している。


「もう我慢できないわ!! あ、レオン……あなたも来るのよ?」


 私達から少し離れた所にいたレオンに声をかけた。


 レオンは素敵な横顔で転移していく王国兵を見守っていた。

 ――うーん、素敵なご尊顔ね……でも、少し飽きたかもね……そろそろ捨てちゃうかな? 最近術の掛かりが悪そうだし……


 私の声に答えるレオン。


「……はい。すぐに準備します」


「あんたまだ準備してなかったの!! これは戦争よ!! あなたがこの世界の王になる為に必要な事よ!!」


「すみません……すぐに……」


 レオンはトボトボと武器庫へと向かって行った。

 その姿を見ると無性にムカムカして来る。

 ――クリスの婚約者の時はキラキラしてたのに、手に入ると色褪せるわね……


 うん、気を取り直して行くわ!!



「聖女のこの私が出るわよ!! 一気に壊滅させるわ!!! ついて来なさい!!」


 私の出陣で歓声が実験場に溢れかえる。

 歓喜の涙を流す王国民たち。

 その中には父様や母様、レオンのお父様もいるわ。


 ――王国なんてどうだっていいの。……私は……クリスを……あんたを殺したいだけなのよ!!!



 私は転移装置の闇に一歩足を踏み入れた。











 一瞬だけ脳が揺れる感覚が起こる。

 すぐに正常に戻ると、私は辺りを見渡した。


 ――ここが帝国……意外と文化的な街ね……略奪するのには悪くないわ!!


 街の入り口だろうか? 貴族兵達が街を破壊しながら帝国兵と戦っている。

 そして帝国兵は貴族兵たちの物量に押されていた。


「おーほほほっ!! 戦は数よ!! ほらみんな! 私が来たからもう大丈夫よ!! 一気に攻め落とすわ!!」


 貴族兵は手を止めてしまった。

 帝国兵に殺されながらも歓喜の涙を流していた。


「――おお!! 聖女様だーー!!」

「我らの勝利が決まったぞ!!!」

「ばんざーい!! ぐはっ!?」

「聖女様の為に道を開けろ!!」


 ――そうよ、私は一番なのよ!! クリスなんて目じゃない。聖女なのよ!! 


「踊りなさい!! ――聖女ブースト!!」



 貴族兵達の能力値が大幅に上昇した!!

 相手が魔法が効きづらいなら、威力を上げればいいだけよ!!





「――さあ行きなさい!! って――え!?」



 カッ!!!



 一本の短剣が私の足元に刺さっていた。


 ――なによこの短剣!? 嫌な力を感じるわ? ――え、ちょっと!?





 風切り音に気がついて上を見上げたら、空が黒い何かで埋まっていた!?

 ――落ちて来ない?


 そして、貴族兵達が慌てて逃げ惑っていた!

 ――はぁ!? 戦えよ、無能が!!!




 貴族兵達を喰らい尽くすように、突然大きな剣が飛び交った。

 稲妻のような槍が四方から飛んで来る!?

 切り刻まれ串刺しになる貴族兵。



「あーもう、仕方ないわね!! ―聖女バリア!!」


 大きな剣と槍は私のバリアで弾き返した。


「ウェッヂ! ピッグス! 進軍して!! 空の攻撃は私が守るわ!!」


「「はい!!」」



 私たちが新軍しようとした時、空を埋めていた何かが降ってきた。




 カッ!

 カカッ!!

 ドカカカカッ!!!



 さっきと同じ短剣が頭の上から降り注ぐ!?


「大丈夫よ! 私のバリアで!? 痛!? え!? なんで!?」


「せ、聖女様!! 熱い……熱いぞ!!」

「痛い痛い痛い!? し、死ぬ!!」

「ぐほっ……」


 短剣は私のバリアを無視して襲い掛かって来た。

 その威力は尋常じゃない……


 私の身体中に短剣が突き刺さる……激痛が私の身体を支配する……

 やまない短剣の雨……


 ウェッヂとピッグスが私の横で血を流しながら倒れている。

 貴族兵で立っている者は誰もいない……




 そして私の意識が遠くなる……

 これが……死?

 こんな所で私は死ぬの? 







 分かるわ。これはあの糞女の力ね。

 いつも私の上を行く。

 いつも私に優しい。

 いつも私の欲しい物を奪っていく。

 いつも幸せそうな顔をしている。

 その笑顔を奪いたかった。

 その肉体を汚したかった。

 その心を壊したかった。


 あの日私は聖女となってあの女の上に立った。




 ――聖女? そうよ。聖女だから奇跡を起こせばいいのよ……




 跡形もなくなったはずの私の胸が高鳴った。





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