思いあう気持ち
ギルバードが私の手を取って落ち着いた声で告げた。
「大丈夫だ。帝国は強い。だから安心して避難してくれ」
帝国民は驚く程落ち着いて行動していた。
異常な警報が鳴り響く中、混乱もせず避難場所へ向かって行った。
「この帝国には巨大な地下施設がある。そこが非戦闘員の避難場所だ。――クリスもテッドと一緒に避難してくれ……お願いだ」
空を覆う巨大な魔法陣は今にも力を解き放とうと光り輝いている。攻撃の気配が未だ無い? どういう事?
いつも冷静で、わがままで、不器用でぶっきらぼうのギルバードが焦っていた。
「お願いだ……クリス。お願いだ……。くそっ、こんな感情は初めてだ。……こんなにも人を好きになるのが苦しいなんて……クリス、お前だけは失いたくない」
私達は出会って日が浅いはず。……だけど初めて見た時から、気になる存在であった。
日に日に私の中で大きい存在になっていくギルバード。……私を王国から助けてくれたからじゃない。……この感情は何だろう?
――ああ、これが人を愛する事なのね。
ギルバードの気持ちが痛いほど分かる。
だって、もしもギルバードがこの世界にいなくなったら、私はどうなるのだろう?
気が狂う? そんなものじゃ済まないわ。全てを破壊……。
私は怯えているギルバードの顔を優しく触った。
「愛しいギル。……私だって同じ気持ちよ? 分かるでしょ? 胸が苦しいのよ。胸が痛むのよ。あなたが戦いの場に行ってしまう事を……。お願いギル、私を連れて行って! もしも、王国の魔法なら私の魔法消去が役立つわ!」
アリッサ達は私達を見守っていた。
テッドは私の横にいてくれる。
「くっ!? こんな時にそんなセリフは反則だぞ!? ……初めてギルって呼んでくれたな。……俺はどうすれば……カイン……こんなときにあいつがいてくれたら、くっ、裏切り者のことなんて……」
「……ねえ、カインから敵意を感じた?」
ギルは即答した。
「いや」
「なら何か理由があるのよ。……だから大丈夫。きっとまた会えるわ」
「……そう、だな。あいつとの思い出……嘘だったと思いたくない。カイン……」
アリッサが口を挟んだ。
「ちょっとどうするのよ! クリスが大切なのは、よ〜く分かったけどさ、もう時間ないよ!? あんた皇子なんだからシャキっとしなさいって!」
ミザリーも口を出した。
「……惚気いらない。……クリスとテッド君は貴重な戦力。……私も真面目にやる」
テッドはギルを見つめていた。
ギルはため息を吐いた。
「――ふぅ……仕方ない。クリス、俺のそばから離れるな。絶対にお前を守る。この命に代えても」
――そんな歌劇みたいなセリフ言われたこと無いよ!?
私の顔が熱くなっているのが分かる。――真っ赤なんだろうな……
「……うん、ありがとう」
「へへ、良かったでしゅ!!」
私達は状況を正確に把握する為に、帝国城へ目指した。
魔法陣の心配をしながら私達は帝国城まで走った。
帝国の空に展開された魔法陣の下に、いつの間にかクリスタルで出来た様なバリアが展開されていた。
テッドが驚いた。
「あ、あれはなんでしゅか!? キラキラが綺麗でしゅ!」
ギルが走りながら私達に説明してくれた。
「……王国はクズだ。それは周知の事実だった。だからどの周辺国家も王国対策を施している。あれは対魔法精霊術式だ。大規模魔法攻撃から街を守ってくれる防壁だ」
アリッサが続ける。
「そうよ! あいつらの魔法なんて私達にかかれば、お茶の子さいさいよ!」
「……テッド君をイジメた王国……殺す」
ギルの端正な顔が徐々に怒りに満ち溢れていった。
「……そうだ。俺の大切なクリスに……辛い目にあわせた王国は許さん。絶対許さんぞ!!」
空の上の魔法陣はとても不気味だった。
私はそれを見ると王国を思い出してしまう……。
あの辛い日々。人を人だと思わない所業。突然変わってしまった父様と母様。
友達だと思っていた令嬢や貴族の息子たちの豹変。
……王子はもう少しまともだと思っていた。だけどクズだった。
全てはあの日から変わってしまった。
私の魔力が無い事が判明したあの日。
無能令嬢と呼ばれたあの日。
――プリムが聖女になってしまったあの日!!
もう私は王国に未練はない。
私の大切な友達を傷つけるなら容赦しない!!
無能? 追放? ――結構よ!!
私は走りながらギルの横顔を見る。
無表情だと思っていたその顔は沢山の表情があり、傲慢かと思っていたらとんでもなく優しくて、恥ずかしがり屋で……
大切なギル。
そんなギルの帝国を傷つけようとする王国は絶対許さない!!!