カフェと心配事
アリッサがりんごのパイを必死に頬張りながら私に話し掛けた。
「はぁ〜、死ぬかと思ったわよ……。クリスって戦っている時は超怖いね……」
私は帝国栗を使ったホクホクのモンブランを頂いている。
「あらそう? あ、これ食べる?」
アリッサは笑顔で頷いた。
「うん! ありがと! へへ、このカフェは行きたかったんだけど中々行けなくてね。今日はありがとね!」
学園生活は順調であった。
私とアリッサは仲の良い友達になることができた。
アリッサは甘いものが大好きで、私はよくカフェに付き合う。
そして冒険者の仲間としても、町の依頼を一緒にこなしている。
私、テッド、ギルバード、カイン、アリッサ……そしてミザリーの六人パーティーを組んでいた。
王国にいた頃はこんな事は信じられなかった。
だって、友達と一緒に冒険者をしてるなんて……。
私は幸せだった。
魔力がなくても馬鹿にされない。
みんな心が綺麗で優しい人たち。
これだけでもとっても幸せなのに……
ギルバードのプロポーズには本当に驚いた……。
うぅ……思い出すと今でも恥ずかしい……。
だって、いつも無愛想で不機嫌そうで、ツンツンしてるのに……、あんなに優しく私を抱きしめてくれて……。
うぅうぅぅ……
ずるいよ!? 湖に映っていたギルバードの真剣な顔が忘れられないよ!
「ちょっと、ちょっと……」
はぁ……、あの後、私達は赤面しながらポメ子の所まで戻ろうとしたら、森の精霊が一斉に輝きだして空へ飛翔して行った。
ギルバード曰く、私達を祝福してくれているんだって……。
「クリス! ちょっと、聞いてるの! ……グス、無視しないでよ〜」
うっ……、そうよ。私はクールな大人な令嬢よ。取り乱しちゃだめ。
「ご、ごめんなさい……。つい……」
「つい? どうせギルバードの事考えていたんでしょ! きー、悔しい! 私だって素敵な婚約者を探すんだから!」
ヤバ、バレちゃってた。
「…………」
「あんたたち分かりやすいのよ! はぁ……、でもギルバードの婚約者がクリスで良かったわ。だって、私よりも強くなかったら絶対譲らなかったわよ!」
アリッサの語尾が小さくなる。
「……そ、それに、クリスは大切な親友だから」
アリッサは照れ隠しに、残りのアップルパイを一口で食べてしまった。
私はそんなアリッサを見ると、幸せな気持ちになれた。
******
このまま幸せな日が続けいいのに……。
だけど、帝国は王国に面していた。
私は幸せな生活の中、いつも心の片隅で不安を抱えている。
魔力至上主義の王国。
あの国が北の共和国に攻め込んだ事を、帝国新聞で見てしまった。
多彩な能力スキルを操る共和国でさえ、三日で滅びてしまった。
新聞には聖女プリムが率いる軍の虐殺について書かれていた。
私はこの国に来てから、時折胸が苦しくなる時がある。
他愛もない痛みだと思っていた。
だけど、私はこの記事を読んだ時、鋭い痛みを胸に感じた……。
自分の力が身体の内部で暴れ回る感覚。
私は自分の力に疑問を持っていた。
私の力は本当に精霊力なの?
確かに精霊らしき力を感じ取ってそれを行使できる……
でも……でも、何でそれを息を吸う様に使う事ができるの? 他の人は精霊の力の一部使うだけ……。私はまるで精霊が乗り移ったかのような力を感じる。
私はアリッサと戦っている時……手加減をしてしまった。
自分の力を隠してしまった……
過剰な力は軋轢を生むだけ……
なんで私だけ魔法が完全に効かないの?
この胸の痛みと関係あるの?
思考が渦巻く……ギルバード……助けて……。
部屋の外から声が聞こえる。
「クリス様〜、そろそろ時間でしゅ! お供しましゅ!!」
「……うん! 今行くわ!」
私は自分の心に蓋をして、元気なフリをしてテッドの元へ向かった。