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ギルバードの決意


 私は帝国に来て驚く事ばかりだった。


 人が死なない鍛錬所なんて王国には無かった。

 生徒達の戦闘レベルは恐ろしく高かった。あれでまだ学生ということは本職の兵士はもっと強いだろう。


 精強な王国貴族兵を上回るかも知れない。


 そしてこの土地は魔物の生息地域が近いのか、生活と魔物が密着している。

 生徒達は冒険者となり、町の便利屋として働いたり、近隣に出没する魔物の退治の依頼を行っていた。


 王国での冒険者はただの荒くれ者で、職業に付けなかった人達しかならない。まさに底辺職であった。


 帝国の冒険者は町の人に愛されている素晴らしい職業であった。





 学園の帰り道、ギルバードは私に見せたい物があると言って、私とギルバードは二人で町を歩いていた。

 テッドはお色気ミザリーとカインに捕まってカフェでお茶をするらしい。

 ……アリッサは私との戦いの傷(心)を治すため教会へ行った。


 私とギルバードは二人っきり。妙な緊張感があった。

 町を歩いていると、町の人はみんなギルバードに挨拶をしてきた。




「学園終わったの? ちゃんと勉強してる?」

「あ、皇子様だ! 今日もカッコいい! ……隣にいる綺麗な人だれ?」

「ギルバード様! 頼まれた武器出来ましたよ!」

「ギル! お祝いだ! 持ってけ!」


 みんなから愛されているギルバード。

 ギルバードの口角がほんの少しだけ緩んでいた。




 ……そういえば、先生の一言が気になってたのよね。

 私はギルバードに聞いてみた。


「ねえ、ギルバード、あなたって……皇子様なの?」


 ギルバードはそっぽを向いてしまった。


「……ふん、一応な」


「ちょっと!? 私聞いてないよ! ……皇子様と婚約しちゃったの!?」


「安心しろ。俺は第二皇子だ。上に優秀な兄貴がいる」


 ギルバードは無愛想な顔で言い放った。


「……ふん、それにクリスは名前だけの婚約者だ。……すまんな、お前も迷惑だろう? 勝手に婚約者にされて、自由を奪われて……」


 ギルバードのその言葉に私は少しだけ落ち込んでしまった。


「あ、やっぱり私は婚約者じゃなかったのね……。……でもギルバードには返し切れない恩があるわ! だって、ギルバードは私を王国から連れ出してくれた皇子様だよ? 絶対いつか返すわ!」


 ――ギルバードには好きな人いるのかしら? ……なんか胸がモヤモヤするわね。よし、明日もアリッサと組手しよ!


「―――――」


 ギルバードは眉間に皺を寄せて無口になってしまった。

 私達は無言のまま町外れへと向かった。







「少し待て」


 学園にいた時よりも少しだけ硬い声質でギルバードは私に言った。


 ここは町外れの魔獣宿舎である。この帝国では兵士達は、魔獣に騎乗して戦う。

 魔獣の中でも人が扱いやすい品種が沢山ある。


 しばらくすると、ギルバードは魔獣に騎乗して私の前に近寄って来た。


「がるぅぅぅ……わふん……がる……わふふん!!」


 馬よりも大きな体躯で、ふさふさした毛並み、くりくりしたお目々が絶妙に可愛かった。

 ――これ本当に魔獣??


 私は魔獣に近づいて鼻先を撫でてみた。

 すべすべして気持ちいい。


「……わふっん……ぐるぅ……ごろごろ……」


 魔獣は気持ち良さそうに目を閉じていた。


「こいつはA級魔獣『ポメラーニ』だ。戦うとかなり厄介な相手だぞ。俺の自慢の魔獣だ」


 ギルバードは魔獣の上から話しかけてきた。


「やはり精霊力が高いから魔獣に好かれる質か……、ふん、俺と一緒だな。……クリス、乗れ」


 ギルバードが魔獣に命令して、伏せをさせる。そして私に向かって手を差し伸べた。

 私が恐る恐るその手を掴むと、力強く手を引かれた。


 ――え、ええ!? 


 私はてっきり後ろに乗るのかと思ったら、ギルバードの前に座っていた!?

 そして私の身体はギルバードに包み込まれていた。


「ちょ、え、は、恥ずかしいって!?」


 ギルバードは手綱を持ち直して魔獣を走らせた。


「それ! ……舌噛むぞ、気を付けろ!」


「――わっふん!!」


 私達は凄まじい速度で町を離れていった。






 私たちが森に入るとポメラー二は速度を落としてくれた。


 それは神秘的な森であった。

 静謐な空気が漂い、魔物の気配が一切無い。

 木々の香りと、鳥や虫たちの鳴き声。

 高々と伸びている大樹に囲まれて、私達は森の奥へと進んで行った。



 私はずっとギルバードの身体に包まれていた。

 うん、騎乗だから仕方ない! と思いながらも凄く恥ずかしい……

 ギルバードは平気なのかな? と思い、顔を振り返ろうとしたけど、ギルバードに押し戻されてしまった……


 でも、身体から伝わるギルバードの鼓動が大きく波打っているのが分かる……


 安息。


 そうだ。私は産まれてからずっと緊張を強いられていたんだ。公爵令嬢として、くそ王子の婚約者として……心を休ませる時が無かったんだ。


 私は今、ギルバードと一緒にいて安心している……

 そんな自分に驚いてしまった。



 ギルバードが耳元に近い所から声を掛けてきた!?

 自分の胸が跳ね上がるのを感じる。


「ここだ。降りるぞ。ポメ子留守番してろ」


「わふん!」


 ……ちょっと、驚かせないでね。




 私達が降りた所から少しだけ更に森の奥へと歩いていった。


 ギルバードが私とはぐれないように手をつなぐ。

 ギルバードの耳が真っ赤なのが分かる。


「ふん……ここだ」





 草木を抜けると、そこは小さな湖であった。

 森の奥だから暗いはずなのに、水が光り輝いている。

 光の粒子が空中にキラキラと漂っている。


 こんな神秘的な場所は王国では見たことがない。


「……綺麗」


 私は湖に近づいてみた。


「うわ!? 顔が映ってるよ! 凄く綺麗……なんか不思議な力も感じる」


 ギルバードの顔が湖に映る。


「ふん、ここは精霊の湖と言われている場所だ。……この森自体が迷いの森と言われていて、高難易度ダンジョンに匹敵する場所だ。……俺の子供の頃からの遊び場だ」


 私は水を触ってみた。

 ギルバードと私の顔が波打つ。


「……そして、ここは……俺の親父が……」


「うん? お父さんが何?」


 水に映っているギルバードの顔がいつもに増して真剣になっていた。




「クリス!!」


「ひゃい!?」




 いきなり大声出されたから私は思わず立ち上がってしまった!


 そしてギルバードはゆっくりと、優しく、私の身体を後ろから抱きしめた







「……お前は俺から離れるな」





 ギルバードの鼓動が早くなるのを感じる。

 私の胸も高鳴る。




「俺はお前を幸せにする」




 湖に映るギルバードは優しい顔をしていた。

 私は泣きそうな顔をしていた。




「……だから……だから……俺の本物の婚約者になってくれ!!」




 私の目から涙が流れているのが見えた。


 私は抱きしめているギルバードの手に自分の手を持っていった。

 温かさが伝わる。

 思いが伝わる。


 私は自分の心に従って、ゆっくりと頷いた。



「はい……嬉しい……です……」



 ギルバードは目を閉じて私を強く抱きしめた。





 


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