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男子トーク


 極大の光線が私に迫る。


 ――魔法……。私が持てなかった力……。もう未練は無いわ!


 私は右手を前に突き出して魔法を拒絶した。

 光線はあっけなく霧散していった。



「ちょ!? マジで! 私の最強の魔法だよ!? ギル君でさえダメージ入るのに……。ふ、ふふふ……完全消去はありえないわ!?」


 アリッサは言葉とは裏腹に、自然な笑顔になっていた。

 そして雄叫びを上げながら距離を詰めた。


「――令嬢なら殴り合いよ!! 拳で語るわよ! 殺す気で来なさい!」


 アリッサの両手には金属製のナックルを装備している。

 重く鋭い拳が私の顔に迫る。


 ――ギルバードとの訓練を思い出すのよ!!


 ギルバードの剣技は卓越した腕前であった。

 力強く、素早く……それでいて私を傷つけない技量を持ち合わせる。


 私はアリッサの拳にボロボロの短剣を合わせた。


 拳と剣がぶつかり合い、鍛錬所に凄まじい音が響き渡った。





 ********




「テッド君ーー! 激頑張れ!!」

「あの槍さばきって、カイン君の技じゃん!?」

「あいつ教えやがったな……。カインも真面目だったらモテるのに……」

「精霊術で身体強化だと? もう使えるのか? しかも魔女相手に瞬殺じゃない! ぞくぞくしてきた!」

「クリスさんもすごいわね。あのアリッサ相手に肉弾戦で一歩も引かない」

「ああ、すごいハートの持ち主だね」

「短剣がどんどん輝いているよ! 精霊に愛されてるお方ね!」




 僕とギルは二人の戦いを真剣に見ていた。


「はは、当たり前だよ! テッド君は僕が本気で教えたからね!」


「お前、知らぬ間にあそこまで鍛えたのか?」


「だって、テッド君ったら教えた事をすぐに覚えちゃうんだもん! 身体能力も恐ろしく高いし……。ねえ、これって魔力ゼロと関係あるのかな?」


「そうだな、テッドの場合はスラムを生きる為に無意識に、身体の中の精霊の力を使っていたのかもな……」


 うん、テッド君の執念はすごかったよ。僕のねじ曲がった心と大違いだ……


「……あと一ヶ月あったら魔女に勝てたかもね。悔しいね……」


 色ボケ魔女の攻撃を巧みにかわしつつ、槍を連続で突き出すテッド君。

 その技は僕が教えた通り。まるで僕が戦っているみたいだ。


 荒い息を吐きながら必死に戦うその姿に僕は当てられたのだろうか?

 胸がドクンと跳ね上がる。


 ――そうだね。そんな姿を見たら……僕もそろそろ頑張るかな……





 ギルバードはクリスを見守っていた。

 その顔は無表情にも見えるが、付き合いの長い僕にはわかる。

 鼻がヒクヒクしている。まるでウサギみたいだ。


 これはギルバードが心配と不安の時に起こる。


「ギル? ちょっと落ち着いたら? ほら、クリスちゃんも頑張っているよ? あのアリッサ相手に接近戦で互角に戦っているよ」


「……ふん、心配など……くっ、どうせお前は俺の事は何でも知ってるからな……。ああ、心配だ。――こんな感情は初めてでどうしていいか分からん」


 僕はそんな言葉を茶化さずに聞いてあげた。


「俺は女が苦手だ。……アリッサはバカだから別だが、クリスは初めて見た時から既視感があった。一緒にいても……問題ない。心が落ち着く」


「既視感? どっかで会ったことあるの? 帝国と王国は馬で二週間かかるよ?」


 ギルバードが苛つくのが分かった。足を小刻みに震わせる。


「会ったことは無いはずだ。――この感情が何なのか理解出来ない。……俺はクリスの王国での現状を聞いていても立ってもいられなかった。……親父には多大な借りと多額の借金を作ってしまったな」


 そうだよね。クリスちゃんの現状を聞いてからのギルの動きは早かったね。

 いや、マジでびっくりだったよ、朴念仁のギルが婚約者だなんて!



「うーん、それってクリスちゃんに一目惚れしたの?」


 ギルバードは手に持っていた剣を落としてしまった。


「……ち、違う。ふ、ふん、うるさいぞ! 俺はあいつを王国から出す為に名前だけの婚約者にしただけだ! ……惚れてなどいないぞ。……そうだ、きっとあいつの戦いの才能に惚れ込んだだけだ!」


「あ、クリスちゃんがピンチだ!!」


「なに!!」



 クリスちゃんの短剣がアリッサのガードごと切り裂き、そのまま首を跳ね上げた。

 え、初めてでここまで行ける人初めてみた!! 死ぬほどの痛みは遮断されるけど、痛いんだよね……

 しかし、すげえな……


 ギルは俺の肩を強く掴んだ。


「……おい、カイン? 貴様死にたいようだな?」


「いやいやいやいや、そんな、ほっとした顔で言われてもさ! ははっ! 大好きじゃん! ほら、今すぐに駆け寄りたい感じ?」


 ギルの闘気が膨れ上がる。


「ふん……これはそんな感情じゃない……はずだ! ……おい、貴様もついにやる気になったのか?」


「え、何言ってるの……」


 いつの間にか僕は手を強く握りしめていて身体から精霊の力が溢れそうになっていた。


「ははっ! テッド君の戦いを見てたらね……。うん、久しぶりに本気でやろうか!」


 テッド君は気を失いながらも倒れずに槍を構えていた。小さい身体が大きく見える。

 ――立ったまま失神してるよ! 魔女も止めを刺せずに身悶えているね……

 女子達はその姿を見て大興奮だ。



 ギルが剣を俺に向けた。


「ふん、手加減抜きだ!」


「僕に勝ったらクリスちゃんに駆け寄っていいよ?」


「黙れ!!」


 僕らの激しい戦いが幕を開けた。

 その後、僕らの戦いのせいで午前中の授業が潰れてしまった。






 午後からも転入者にとって初めての事ばかりだろう。

 名物学食ランチ、もふもふ獣騎乗、学生冒険者登録を控えている。

 そんなクリスちゃんのそばを絶対離れないギル……。


 はぁ……絶対一目惚れじゃん!?







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