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鍛練所


 ギルバードは私の手を引いて鍛錬所の中の武器庫に案内してくれた。

 私は鍛錬所に入った瞬間、空間の違和感を感じた。


「こっちだ。この中から武器を選べ。む、どうした?」


「ええ、なんか変な感じがするわ? 魔法の結界があるの?」


「魔法ではない。この鍛練所は精霊の力を構築して、こことは一層違う空間で戦いを行う。その空間では本体の身体が傷つく事無く訓練ができる」


「ち、違う空間? というかさっきから出てくる精霊って何よ?」



 ギルバードはいつになく饒舌に喋っている。

 ……そう言えば王国で組手をしていた時もよく喋っていたわね。得意な戦いの事に関しては饒舌になるのね。まだまだ私はギルバードの事を知らない。

 この無愛想だけど優しいギルバードの事をもっと知りたいと思っている自分がいるわ。 



「ふむ、それを教える前に王国を出てしまったからな。……俺たちは魔力以外に精霊力というものを使っている。――それは万物に宿る精霊の力を借りている」


「万物?」


 ギルバードは武器庫にあった武器を指差した。


「そうだ。この武器にも宿っている。武器や防具、道具に宿る力を最大限に引き出して俺たちは戦う。……もちろん自分の身体にも宿っている精霊の力を使って身体を強化することも可能だ」


 私は自分の胸に手を当てた。


「精霊……。私の力は精霊力だったの?」


「そうだ。クリスの精霊力が強すぎるから魔力ゼロなんだ。……俺と同じだな」


「帝国では魔力を使う者と精霊力を使う者の両者がいる。精霊力は魔力を弱める力がある。魔力も精霊力を弱めてしまうぞ」


「じゃあどっちが強いとかじゃないのね?」


「そうだ。む、始まったな。俺たちも用意するぞ」



 鍛錬所が騒がしくなってきた。生徒達が武器を手に取り組み手を始めていた。


 その戦いは完全に模擬戦ではなかった。

 剣が胸に刺さり血が吹き出す。火炎が生徒の半身を焼く。腕がちぎれても戦いを止めない。


 まるで戦場であった。


「ギルバード? こ、これ本当に大丈夫なの!?」


 ギルバードは涼しい顔をしていた。


「安心しろ。賢者様が作ってくれた施設だ。絶対大丈夫だ。いくら殺してもこの空間では死ぬことがない。だが、痛みはあるから気をつけろ。帝国の兵士は精強だ。死ぬ事を経験することで本当の強さを得られる」


 倒れた生徒達は光となって消えて、鍛錬所の隅っこにある特殊な空間から出てきた。

 みんなピンピンしている。


 ギルバードは真剣な眼差しを私に向けた。


「武器の声を聞け。……本当はこの時間で俺がゆっくりと教えようと思っていたが、そうも言ってられない。アリッサはバカだが、かなりのやり手だ。俺が教えた全力を出せ」


 私は武器の前に立った。

 壁にかけれらている無数の武器。

 剣、槍、斧、棍棒、杖……。


 その中で一際目を引く武器があった。

 ボロボロの小さな短剣。私が持っていたペーパーナイフみたいに無骨であった。

 刃がこぼれていて、他の武器とは明らかに質が違う。


 その短剣を手に取ってみた。

 手に馴染む感覚。

 短剣の想いが私の心に伝わる。


「ギルバード、私はこれにするわ!」


 ギルバードはボロボロの短剣を見ても驚きもしなかった。


「お前が選んだ武器だ。きっと大丈夫だ、行くぞ!」

「うん!」


 私達は鍛錬所のバトルスペースで待っているアリッサの所へ向かった。






「あんたバカにしてるの!? そんなしょぼい短剣で私に勝てると思っているの?」


 アリッサは、バトルスペースで色気ムンムンの少女と一緒に待っててくれていた。


「すみません。武器を選ぶのに遅れてしまって……」


「あ、うん。大丈夫よ。ミザリーと話していたから。あ、この子はミザリーよ。ミザリーがどうしてもテッド君と戦いたいって言ってるけどいいかな? ……って、違うわ! 何遅れてるのよ! あんたの相手は私よ! そしてテッド君はミザリーと戦ってもらうわ!!」


「は、はい……」


「ちょっとあんた! クリスだっけ? これから戦う相手に敬語なんて使ってんじゃないわよ! 敬語禁止ね、分かった!」


 アリッサはそっぽ向きながら顔が赤くなっていた。

 ――ふふ、ギルバードと一緒で可愛らしい人ね。


「分かったわ。よろしくね、アリッサ!」


「ふ、ふん! ルールは戦場と一緒よ。死んだ方が負け。何を使ってもいい。……ギルから聞いたけど、あんたには魔法が効かないらしいわね? 珍しいわね?」


「……まだよく分からないけど、私の身に危険を感じた時に魔法を消すことができたわ。……でも普段は怪我した時にヒールとか受けられたからね」


「そう……。ほら、ギャラリーも集まって来たことだし、早く戦うわよ!」


 組み手をしていた生徒達の手が止まる。

 みんな私達の戦いの観戦をするようだ。




 テッドが私に抱きついてきた。


「ク、クリス様……。あの人怖いでしゅ……」


 アリッサの横にいるミザリーと呼ばれた胸焼けがするくらい色気がある少女。

 少女はテッドを凝視してつぶやいていた。


「……ふ、ふふ、ふふ、運命よ……私の……占い……超絶的中……ふふ、この槍で彼の心をこじ開けるわ……」



 いつの間にかカインさんがテッドの横に来ていた。


「大丈夫だよ、テッド君! だって俺が本気で教えたんだよ? いくらあいつが『魔槍の魔女』とか『竜殺しの魔女』とか言われているA級冒険者だって、才能ならテッド君だって負けないよ!」


 テッドは私を見上げて、身体を離した。


「……クリス様、僕……頑張りましゅ! クリス様を守るために強くなりましゅ!!」


 私はそんなテッドの頭を撫でた。


「そうね。私もあなたを守れるために強くなるわ。……さあ行くわよ!」






 そしてギルバードが一言だけ叫んだ。


「――頼む、クリス。強くなれ!!!」


 その言葉には重みと……愛情を感じられた。……まだ出会って間もないはずなのに、何故ギルバードからこんなにも感情を感じられるの?

 私はギルバードを見る。


 不機嫌そうに仁王立ちしているその姿はまるで泣いている子供みたいだった。

 不覚にも胸の奥からこみ上げてくるものがあった。


 私はギルバードの声に応えた。


「大丈夫よ! 私はずっとあなたのそばにいるわ!」


 ギルバードの片耳が真っ赤になってしまった。




 生徒達が騒ぐ。


「ウヒョー! ギル君が感情込めて喋ってるよ!」

「レアね。見てて照れくさいわ」

「ギル君のあんな表情初めて……萌えるわ」



 アリッサが吠えた!


「ちょっと私の事無視しないでよ!! むきーー! じゃあ行くわよ、絶対避けなさいね!! ――魔法『シャイニングフレア』!!」



 しびれを切らしたアリッサは王国でも一握りの人間しか唱える事が出来ない最高位魔法を放って来た!


 私達の戦いが始まった!



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