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悪くない騒がしさ


 私達の教室はひとしきり騒いだ後、自己紹介をして一時間目が終了した。

 私はギルバードの隣の席になり、テッドは私の前の席となった。


 そして次の授業のために生徒達は鍛錬場へ移動することになった。


 移動しながら、テッドはクラスの大人びた女子達に囲まれてしまった。

 肉の海にもがき苦しむテッド。


「ぼ、僕はクリス様のお世話を……むきゅ!? く、くるしいでしゅ……」


「きゃー!! 可愛い! お人形さんみたい!」

「ちょっとずるいわよ! 私だってテッド君とお話したいのに!」


「ま、待って下しゃい……僕は王国では平民以下の存在でしゅた……スラム育ちで、皆様と対等に話せないでしゅ……」


 テッドに群がる女達が不思議そうな顔をした。


「うん? 私は平民だよ」

「うん、私だってスラム出身だぞ!」

「私は貴族だけど、それが何? 気にしないわ! 可愛いは正義よ!!」

「ちょっと、カイン! テッド君に近づかないで! 悪いことすぐ教えるから!」


 テッドは戸惑っていた。

 スラム上がりの子がこんなにも愛されるなんて……


 ――でもね、それはあなたが純粋でとってもいい子だからよ。ふふ、私は嬉しいわ。


 テッドがみんなから好かれているのは自分の事みたいに嬉しい。

 私は思わず笑顔になってしまった。




 ……しかし、私の元には誰も来ないわね?


 隣には不機嫌そうなギルバードがいるだけであった。

 私はギルバードをチラリと見る。

 ギルバードと目が合った。


「……テッドは心が綺麗な男だ。あいつは精霊に好かれるだろう。……ふん、早く鍛錬所へ行くぞ!」


 ギルバードが私の隣を歩いて先導してくれる。

 周りの生徒はそれを微笑ましく見ている。


 ギルバードはいつもよりも大分ゆっくり歩いている。


 ――もしかして……私の歩調と合わせているのかな? ふふ、優しいね……


 私達は程なくして鍛錬所に着いた。








 鍛錬所は王国とは違い、屋内にあった。

 王国城のホールよりも大きくて広い。

 魔法省の闘技場に屋根を付けたみたいな形をしていた。


 そして鍛錬所の入り口の前で、担任の先生と……二人の少女達が待っていた。


 ギルバードの足が止まった。


「どうしたの? 同じクラスの人?」


「……ああ、同じクラスのヤツらだ。……しかもカイン並の問題児だ」


 カインはギルバードの肩を叩く。


「ちょっと!? 僕は真面目な生徒でしょ? ギルの後始末してるだけじゃん! ……そりゃ、ちょっとだけ女性に対して優しすぎるけどさ……」


 ギルは首を傾げた。


「優しい……七股する男の言う言葉か……」


「ちょ、ギル!? 内緒にしてよ! ク、クリスちゃん? ぼ、僕はそんな事しないよ!!」


 私は無表情でカインに告げた。


「テッドに悪いこと教えたら……」


「ひぃ!? 絶対教えない! 約束する!!」





 私達がそんなやり取りをしていたら、入り口の前に立っていた女の子達がやって来た。


 小さい方の少女はピンク色の髪をツインテールにしている。

 猫みたいな目をしてて勝ち気そうに見えるけど、とても可愛らしい。

 遠くからでも表情豊かな顔が分かる。




 もう一人の少女は……少女? 背が高くてお胸が……爆発しているわ……。

 腰も凄く細くてお尻のラインが綺麗。少しタレ目気味のお顔は色気で胸焼けしそう……。

 絶対十代で出せる色気じゃないわ。ミステリアス過ぎるわ。

 ――そんな彼女はテッドを真っ直ぐ見つめている。


「ひぃ!?」


 テッドは私の影に隠れてしまった。





 ピンクツインテールの小さい女の子が、ギルバードに元気一杯に話しかけてきた。


「ギルーー!! 今日は負けないからね!! ふふ、私が勝ったら、デ、デートしてね!!」


「……悪いが今日は相手できん」


 ギルバードは私の方をチラリと見やる。


「ま、まさか、噂の……婚約者?」


 女の子は私とギルバードを交互には見た。目が回りそうな速度だ。


「のーーーー!! 私の憧れが!! きーー、ゆ、許せないわ! 私はギルの幼馴染にしてファンクラブ会員ゼロ番、名誉会長のアリッサ!! ……くっ、私が泥棒猫の相手をするわ!!! ギルバード! 止めないでね!」



 カインさんが私に耳打ちをした。


「アリッサはギルバードの事が好きなんだよ。でもね、どちらかと言うと憧れに近いのかな? この子はおバカだけど本当は素直で真面目でいい子だから、相手してあげて?」


「……そう。分かったわ」






 私は一歩前に出た。


 アリッサさんが一歩後ろへ下がる。


「な、なによ! ふふん、私は魔法と精霊術のハイブリットスキルなのよ! そんじょそこらの……ひぃぃ!? ……な、なに……この子から感じる力は……ちょ、セバス!!」


 アリッサさんの前にいきなり一人の執事が現れた。

 眼鏡が似合う知的なイケメンであった。

 全く気配を感じなかった……


 イケメン執事さんがメガネを指で軽く持ち上げて私を見つめた。


「……はじめまして、クソガ……アリッサ様の執事をやってあげてるセバスと申します」


 ――執事? 違う、このオーラは絶対執事じゃない。


「は、はじめまして、クリスと申します」


 セバスさんがアリッサさんに向かって盛大にため息を吐いた。


「ふぅ……。ポンコツアリッサ様は昨夜『ギルバード様の婚約者様に会って女子トークを沢山したい! 友達になりたい! 早く会いたい!』と言ってました。……今どき時代遅れのツンデレ令嬢でございます。とりあえず戦って友情を育んでください」


 アリッサさんの顔がトマトみたいに真っ赤になって震えていた。


「セ、セバス!? な、ななな、な、何を言ってるの! 私はそ、そ、そんな事言ってないわ! ぷんぷん!! ほ、ほら、さっさと用意しなさい! 私が組手の相手するわよ!」


 セバスがまたメガネを持ち上げた。


「――『きっと転入したばかりで友達がいないから私が組み手の相手になってあげよっと! ふふ、超楽しみ! 一緒に組み手して、カフェに行って……あ、もふもふランドにも行こう!』と言っております。クリス様……アリッサ様を頼みます。ほんと頼みます」


 瞬きをした瞬間、セバスさんが一瞬で消えてしまった。

 アリッサは雄叫びを上げた。



 ――なに……この人達……。


 でも悪い人じゃなさそうね。


 私はアリッサさんの手を取って握手をした。


「ふふ、アリッサさん、よろしくお願いします」


 アリッサさんは照れながらも握手に応えてくれた。


「ふ、ふんだ! あんたなんかボッコボコよ」


 アリッサさんの口元が緩んでいるのが分かった。





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