調味料教室②
いよいよ調味料教室です。
二人の方がいらっしゃった。私の花の仲間と生徒さんだった。もう一人お誘いしていたが、その方は用が出来て来られなかった。
お二人は「広いわねー」と私のうちを見てまわれた。お二人は猫を飼っておられるからか、猫たちは警戒せずに撫でられていた。「キレイな猫ね」とココの事を言われて嬉しかった。
お二人に手を洗ってもらい、早速『ミキ』を飲んで貰ってから、お粥を交代しながら木べらでかき回し、友達が「木べらの感覚が軽くなるまで混ぜてください」と言っていた。二十分くらい混ぜてミキの素は出来た。ジップロックに入れて分けた。
三人に麦茶を出してから、私は玄関入り口スペースの端に父が作っている喫煙スペースで煙草を吸った。
手を洗い、うがいをして台所に戻ったら、友達が湯呑みで何やらお二人に飲ませていた。彼女が昨夜から作っていた、昆布と鰹節で作った出汁だった。出汁味噌に使った出汁だと言っていた。飲んだら濃厚な風味がした。
テーブルには、小瓶が並べてあり、蓋にラベルで『出汁味噌』、『醤油味噌』、『西京味噌』、『塩麹』、『甘酒』、『高菜マスタード』と書かれていた。高菜マスタードの瓶は他のに比べて更に小さかった。
彼女が作って来た、さまざまな発酵食品のレシピを見たが、それらを作る為には発酵メーカーが必要なのだった。
すり鉢にワインビネガーに漬け込んでいた高菜の種と塩麹を入れて、スリコギ棒で擦ってから、種が潰れて鼻にツーンとする香りが出て来たら、粒胡椒を擦って入れた。色付けにターメリックを少量入れて、高菜マスタードは完成した。味見をしたら、本当に粒マスタードの味だった。二、三日冷蔵庫で寝かせると、味が落ち着いて更に美味しくなるよ、と彼女は言っていた。
お二人もそれぞれ高菜マスタード作りをなされていた。
この高菜の種は、昨年彼女がうちに遊びに来た時に、叔父が家庭菜園で作っている高菜の種をあげた物だった。彼女はその種を用いて高菜マスタードを作り、調味料教室で生徒さん達からお金を取っていた。その事を私としては、一言欲しかった。両親や叔父に言ったら憤慨していた。
調味料教室と言っても、実際に教えるのはミキと高菜マスタードだけなのか、と私は呆気に取られていた。これで三千五百円取るのか、と私はお二人に申し訳ない気持ちになった。一時間もせずに教室は終わった。
洗い物をしてから、お湯を沸かしてコーヒーを淹れ、昨日彼から貰ったケーキを冷蔵庫から出して、切り分けて四人で食べた。
「文ちゃん、昨日誕生日だったでしょう」と、生け花の仲間が言い、二人からプレゼントを貰った。
生け花の仲間は書もしていて、とても才能があった。書かれた書を円形の額に入れてくださっていた。「文ちゃんは、かな文字のイメージだから、私は苦手なんだけど頑張って書いたのよ」と仰っていた。私は嬉しくて床の間に二人で高さを調節しながら飾った。読めないから、書かれている書の内容を教えて貰った。「文ちゃんは、柔らかいイメージだから、この内容の書と額の色に決めたの。私もなかなかやるでしょ」とお茶目に言われた。額は淡い桜色に金箔が散りばめられていて、金色の縁だった。
生徒さんからは、「沖縄に家族旅行で行ったのよ。文さん、気に入ってくださるといいけど」と、渡された袋には長方形の包みが入っていた。包装紙を開けてみたら、コロンとした虹色に光る不思議な色の硝子玉が付いた簪だった。「『蛍玉』という、琉球硝子なの」と説明された。説明書きを読んだら、中に銀が入っていてそれで角度によって不思議な輝きをするのだと分かった。私はその簪に一目惚れしてしまい、光に当ててキラキラ具合を確かめていた。お二人にお礼を言った。
彼が買ってくれたケーキは、フルーツがたくさん入っていて、クリームはあっさりと上品な味で美味しかった。
お二人から「文ちゃんは食べるのに痩せていて羨ましいわ〜」と言われた。私はお二人にオーガニックのルイボスティーを差し上げた。父に飲ませてやろうと思って買っていたのだが、父にはまた取り寄せてやろうと思った。「このお茶には、ダイエット効果があるそうなのです。試しに飲んでみられてください。私も飲みましたが、味にクセがないから、飲みやすいですよ」と説明した。「中年太りって嫌ねー」とお二人は笑いながら話されていた。
友達が用意したさまざまな発酵食品と、ミキを持ってお二人は帰って行かれた。お二人は帰る前にも猫たちを撫でて行かれた。
猫たちに餌を作って置いてあげた。
友達は書を眺めていた。彼女は三年前から習っていた。
彼女は日本に帰ってからは、「やはり日本が一番」とばかりに、日本料理教室に通ったり、茶道も始めたのだった。それらは本格的なものだった。生け花も月に一度習っていた。
ペンションのお母さんが来る前に、硝子の花器を押入れから数種類出して、彼女に花材を見せてから花器を選んで貰って、花鋏を彼女に貸して居間の台で彼女に花を好きなように生けてもらった。
出した他の花器をなおして、私は洗い物をした。
彼女の花には繊細さが無かった。基本的な花材の処理や切り方も出来ていなかったから、生け花教室で何を習っているのだろうと思いつつ、基本から教えた。彼女から頼まれて、うちに泊まりに来る度に、花を教えているのだが、彼女は私が教えた基本を覚えてくれていなかったから、毎回教えなければならなかった。
月に一度の生け花では、身に付かないのかな、と思った。
生け直して、私は内心で花材が無駄にならなくて良かったと思った。床の間に花を飾った。
チャイムが鳴り、ペンションのお母さんが来られた。両手に荷物を抱えておられて、受け取ったら新聞紙に包まれていたのは大量のラベンダーだった。
「ペンションの農園のラベンダーなんよ。あんた達、ラベンダースティックの作り方分かるやろ。作り」と言われた。お母さんにコーヒーとケーキを出した。
「文ちゃん、あんた、和装が似合うね。その浴衣いいねぇ。これ誕生日プレゼント」と言って、紙袋から、和紙に包まれた反物を出された。淡い水色に蝶々の柄の反物で、聞いたことがない小紋だった。素敵だった。「また、あげるね」と言われた。友達が「えー、お母さん、私も欲しいです」と言ったが、「あんたは似合わんもん」とバッサリと言われたから、友達は気分を害したようだった。「あんたは昔から男にしか見えん。そのガサツさを直し。文ちゃんを見てごらん。ほんま女性的で可愛いらしいわ」と言われた。
リボンの中から友達は黄色のリボンを選び、私は紫色のリボンを選んでラベンダースティックを作った。私は途中で変なリボンの巻き方をしてしまった。お母さんが見かねて作り直してくれた。お母さんは作りながら、「ブルーベリーも今年は豊作なんよ。あんたら、いらん?」と言われた。もちろん欲しかったから、二人で「欲しいです!」と言って、私は浴衣を脱いで白に淡いグレーのボーダーの長袖シャツを着て、靴下を履いてからジーンズを履いた。簪や帯留めをケースにしまった。
お父さん、お母さんはお酒が好きだから大吟醸と、今のオーナーの息子さんには飲まずに眠らせていたウィスキーを渡そうと帆布のバッグに入れた。
友達はブルーベリー狩りしてから、そのまま帰る、と言って荷物を纏めていた。私は荷物を車に乗せるのを手伝った。
ペンションの農園で、お母さんから園芸用の鋏を渡されて、ラベンダーを一掴みほど取った。母がラベンダーが好きだから、あげようと思って取ったのだが、「文ちゃん、それ頂戴。持って帰るから」と友達に言われたから渡した。
ビニール袋を二枚ずつ、お母さんに渡されて、ブルーベリー狩りをした。黙々と一時間くらい取って、疲れたから農園を歩いて回った。花木や花も植えてあり、見ていて楽しかった。
ペンションに行き、息子さんにウィスキーを渡したら喜ばれた。知らなかったが、今は製造されていない有名なウィスキーだったようだった。
奥さんがコーヒーと可愛い小さなロールケーキとアイスが乗ったプレートを出してくださった。「文ちゃん、誕生日やったんやてね。おめでとう」と言われ照れくさかった。
お父さんもいらしたから、持って行った大吟醸を渡したら、「気を遣わんでいいのに。またうちに泊まりにおいで」と笑顔で言われた。
ペンション一家は、他県から隣村に移住してペンションを始められたのだった。私が学生時代にアルバイトをさせて貰ってからのご縁だから、長い付き合いだった。
友達はブルーベリーをたくさん取っていた。満足したようだった。酵素エキスや酵母、ジャムを作る、と言っていた。
彼女が住む街まで車で三時間以上かかるから、私は心配して「遅くなると運転危ないよ」と言ったが、彼女は「平気」と言って、「文ちゃん、温泉に行こうよ」と言うから、え!と思ったが、しばらくまた会えないしな、と思い、一緒に温泉に入りに行くことにした。
タオルを持って来ていなかったから、お母さんに「タオルを貸してください」と頼んだら、ペンションのオリジナルの新品のタオルを三枚息子さんがくださった。
温泉は年下の友達といつも来る温泉だった。
コンタクトを外せないから、化粧も落とせず、髪も洗えなかった。身体だけ洗って、打たせ湯がある露天風呂に入った。
友達が来たから、「あっという間だったね」と私は言った。友達は「教室のやり方を考えなきゃな、と思った」と言った。「どんなとこ?」と聞いたら、「私は文ちゃんみたいに、お茶を出したりした事なかった。反省した」と言った。
温泉を上がってから、私は母に迎えに来てと電話をした。
二人で売店を見て回った。野菜や物産品の品揃えが豊富だった。
電話が鳴り、母が迎えに来たから、二人で駐車場に行き、私は友達に「気を付けて帰ってね。またね」と言って彼女を見送った。
母の車に乗ったら、「疲れなかった?」と言われた。私は正直に「疲れた」と言って、今日の教室の模様を話した。「なにそれ、文がお茶を出して、洗い物をしたの?」と母は呆れたように言っていた。
なにはともあれ、友達は帰った。一山超えた気分になった。
うちに着いて、玄関の喫煙スペースで煙草を吸った。パイプ椅子も置いてあり、のんびりと煙草が吸えるのだった。
猫たちは玄関で私を出迎えてくれた。
洗面所に行き、コンタクトを外して、化粧を落として肌のお手入れをして、歯を磨いてから、浴衣に着替えた。
猫たちにはササミを蒸してやり、撫でてやった。
夕薬と就眠薬を一緒に飲んだ。
母に「冷蔵庫に生あげが入っているよ」と言った。
「疲れた。眠たいから寝るね」と言って、夕ご飯は食べずに私は猫たちと寝た。
文は思いがけず、皆さんから誕生日プレゼントをたくさん貰って舞い上がっていました。
お読みくださり、ありがとうございます!




