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ココ  作者: 竜胆
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出会い

餌を食べに来ていた野良猫のうちの一匹を飼うようになります。


「不思議な部屋」シリーズを読まれると、内容が分かりやすいと思います。

私が我が家の庭に来る野良猫たちに餌やりをしているせいもあってか、その中の野良猫の一匹が軒先に置いていた段ボールの中に住み着くようになった。やっと梅雨が終わった頃だった。

その猫は白に黒い斑がある目が淡い緑色の美しい猫だった。よく観察してみたら、お腹が大きいようだった。


私はその猫を抱き抱えて室内に入れて、蓋付きの籐カゴにバスタオルを敷いて、そこにその猫を入れようとしたが、猫は暴れて腕には引っ掻き傷が出来た。その猫はしばらくは籐カゴを警戒して中に入れても出てしまった。なかなか入ろうとしなかったが、籐カゴの近くに餌と水を入れる容器を置いて、毎日数回餌や水を入れていたら、警戒心が薄れたのかカゴの中に入るようになった。トイレも用意したら、ちゃんとそこで用を足してくれた。


気が強い猫で、その猫は餌やりをしていた時に他の野良猫を追い払っていたから、私はその猫のことを「女王さま」と内心で呼んでいて、ココ・シャネルから取って名前を『ココ』と名付けた。

少しずつ撫でたり、名前を呼んだりしている内に私に気を許してくれて、身体を擦り寄せてくれるまでになった。


前日餌を食べなかった翌日の朝に私が籐カゴの蓋を開けて中の様子を見ると、ココは中で三匹の赤ちゃん猫を出産していた。まだへその緒が生々しくて産まれたばかりのようだった。バスタオルに血がついていたし、濡れていて取り替えてあげたかったが、ココは気が立っていて私をフーッと唸って威嚇して来たから、私はココが餌を食べにハウスを出た時を狙って、そっとカゴから赤ちゃん猫ごとバスタオルを取り出して、新しいバスタオルに替えてあげた。その時に赤ちゃん猫を手の平に乗せてみた。まだ目も開いておらず、耳も丸くて猫よりもハムスターやネズミに似ていた。赤ちゃん猫は黒色、グレーの縞模様、黒白猫だった。黒白猫だけがメスだった。


ココは出産してから、げっそりと痩せてしまった。缶詰を与える回数を増やして、ココに猫用のミルクを与えた。子猫用として買っていたミルクだったが、赤ちゃん猫達はココのお乳をずっと吸って丸々としていたから、必要が無くなっていたのだった。ココを太らせる事に私は専念した。


ココはオシッコや便を自力では出せない赤ちゃん猫のお尻を舐めてあげていた。猫の母性の強さに感心するばかりだった。。。


産まれて十日ほどで赤ちゃん猫の目が開いた。黒目がまん丸で黒い目をしていて、どんな目の色になるのかはまだ分からなかった。よろよろと少し歩くようにもなっていた。ココも私が見ていても授乳させるようになった。


赤ちゃん猫はココのお乳を競争しながら吸って、満足したらカゴの中で固まって寝ていた。ココは赤ちゃんが寝ると私に鳴いて餌をくれ、と催促をしていた。私が缶詰を開けて器に入れる間、私の足元に身体を擦り寄せてニャーニャーと甘く鳴いていた。


赤ちゃん猫は子猫と言える大きさになり、最初はカゴの中から出すと恐る恐るラグの上を歩いて、部屋の中を探検してはココの元に戻っていた。

ココはソファーが気に入ったようで、ソファーの上で寛ぎながら授乳するようになった。


子猫の目はみなココと同じ淡い緑色に変わった。

黒猫はおっとりとしていて、縞模様の猫はやんちゃで、黒白猫は私に一番甘える猫になった。それぞれ名前を付けた。ルナ、ナナ、ニコと名付けた。

本能なのか、子猫たちは教えなくても猫用のトイレで用を足すようになった。


私は子猫の口を無理やり開けて、歯が生えているか毎日チェックするようになった。最初は前歯四本が生えてから、牙が生えた。それから奥の歯が生えて行き、乳歯から大人の歯に生え変わった。


産まれて二ヶ月くらいして、私は子猫用のフードを買って来て、子猫たちに与えてみたが、最初は食べなかった。それらは代わりにココが食べた。子猫はココのお乳ばかりを吸っていた。市販のフードが気に入らないなら、自分で作ってみようとインターネットで調べて手作りの餌を子猫にあげてみたら食べてくれて嬉しくなった。


ココも子猫も飼う事に決めて、獣医さんに連れて行こうとしたが、運転をしない私は父に頼み、猫たちを父の車に乗せた途端に叫ぶように鳴き出し暴れたので、獣医さんに連れて行くのは諦めた。家の近くの獣医さんは犬を専門とされていたし、猫好きの獣医さんに行くには車で約四十分かかるのだった。


ココと子猫は私とベッド寝るようになったから、私はノミがいないか気になって庭のラベンダーの花を乾燥させて、それをバンダナに包んで、それぞれの首に巻いてやった。ラベンダーにはノミを寄せ付けない効果があると聞いたからだった。ラベンダーのドライフラワーを部屋のあちこちに置いた。


私は病気療養中で定職には就ておらず、生け花を週に一度だけ教えるだけの生活だった。近所の商店街に買い物に行くのもやっとの体力しか無かった。一人暮らしをするようになってから食事が疎かになっており、かなり痩せてしまっていた。猫たちが私に生きる活力をくれたのか、私は少しずつ食べる回数や、量も増えて体重が増えていった。気持ちも穏やかになれて、猫たちの姿を見て私は久しぶりに笑えるようになっていた。

ゆったりとした毎日を送っていたし、体型が変わっても着られるということもあり、私は毎日夏用の着物や浴衣を着て両方の祖母からと母から譲り受けた着物や帯、小物、浴衣を着て楽しんでいた。父方の祖母は和裁学校を二つも出ていて、私が幼い頃はいつもミシンや手縫いで着物や浴衣を仕立ていた。寝る時にも浴衣を着て寝ていた。


子猫たちが乳離れをして、ココは外に出たがるようになった。元々は野良猫だったから、室内飼いは無理なのかな、と私の悩みの種になっていた 。。。発情期なのか、ココは玄関で外に出たいと鳴いていた。

子猫たちは外の生活を知らないから、部屋の中で遊ぶだけで満足しているようだった。

私はココに避妊手術を受けさせるべきか悩んでいた。うだうだと悩んでいるうちにココの発情期は終わったみたいで、ココは落ち着きを取り戻した。


ココと子猫たちは、私が外出して帰って来ると玄関でお出迎えしてくれて、遊んで、遊んで、とばかりに足によじ登ったり、ニャーニャー鳴いて餌を要求した。私も外出中は猫たちが気がかりで仕方がなかった。なるべく外出は控えるようになった。


眠る時にココは私の腕枕で寝て、子猫たちは私のお腹の上で寝ていた。

朝は猫たちに起こされて、餌作りをしてあげていた。自分自身の朝食も作り、一緒に朝ご飯を食べていた。猫たちのお陰で私は規則正しい生活が送れるようになった。体力も戻ったのが実感出来た。


子猫たちはイタズラ盛りで、床の間に生けた生け花の葉っぱを食べて、花器に入れた水を飲んでいた。生け花は無残な姿になっていた。

草が食べたいのかな、と思いついて私は猫たちを庭に出してみることにした。ココは慣れた様子で私にまとわりつきながら芝生の上を歩いていたが、子猫たちは初めての体験におっかなびっくりの様子で、その挙動不審ぶりが可愛かった。

子猫たちは庭に慣れると、私が洗濯物を干したり、庭の花や花木、木々の手入れをしている間に猫草代わりに芝を食べたり、三匹で駆けっこをして疲れたら木陰で寝ていた。ココは子猫たちを見守っていた。


部屋に飾る花は猫が食べても害が無いものにした。花や葉によっては、動物に有毒なものが結構あって、持っていた花の図鑑や野の花の本を本棚から出して改めて調べて勉強した。


ココも子猫も私が長風呂なせいか、私がお風呂に入っている時に浴室の曇り硝子扉の外に集まり鳴いていたから、試しにお風呂場の中に入れてみたら、お風呂場が気に入ったみたいで私は蓋の上にバスタオルを敷いて彼らが座るスペースを作ってあげた。

私は気付いたら浴槽に浸かったまま寝ているくらいの長風呂をしていた。猫たちをお風呂場に入れてもその癖は治らずに、いつの間にやら寝ていて猫の鳴き声で起こされていた。

猫たちを試しに洗ってみた。ココは私と一緒にお風呂に入るまでになった。ルナ、ルル、ニコは身体を洗ってあげると気持ちよさそうにしていた。


ココは本当に美しい猫で見ていて飽きなかった。そして賢かった。ココは悠然とソファーで寛ぎ、私が本を読んだり、仕事で使う資料をパソコンで調べたり、纏めたりしている間は、私に寄り添って寝ていた。子猫たちは資料の上で駆け回って騒動していた。ココが鳴くときは私に何かしらの要求がある時だけだった。ココが何才なのかは分からなかったが、歯が綺麗な事や毛並みが美しいことから、まだ二、三才なのではないかと思った。ココの身体をブラッシングしていると、子猫たちも、私もしてくれとばかりに催促していた。


ココと子猫三匹との暮らしは穏やかで、気持ちが和んで行き、癒されていた。


ココは網戸を開けたり、扉のノブを下ろして出入りするようになっていた。


ある日、ココがいなくなっていた。網戸が開けていた。近所を探し回ったけれど、夕方になってもココは見付からなかった。子猫たちは母猫がいなくても意外に無関心のようだった。私だけがオロオロとしていた。。。


ココがいつ帰っても良いように網戸のまま私は子猫たちと寝た。かすかな物音に何度も起きていた。眠れなかった。

翌朝、私の腕を枕にしてココは寝ていた。帰って来てくれたんだと、喜びの余り、抱き締めようとしたが、我慢してココを寝かせた。ココや子猫たちに起こされるまで私も眠った。ぐっすりとお昼近くまで寝てしまった。猫たちに起こされて、猫の餌にココの好物の鳥ササミ肉を蒸したのを千切って与えた。子猫たちには、小さく刻んで与えた。

私もホットミルクだけを飲んだ。昨日からココのことを心配する余り、胃が痛かった。


猫たちの餌用の器を洗って、私はココとソファーに横になった。ココに「心配したんだよ、帰って来てくれてありがとう」と言いかながらココの身体を撫でた。私は本を読んでいたがいつのまにか寝ていた。ココや子猫たちはまだ寝ていた。起こさないように気をつけながら、読みかけの本を読んだ。


猫たちが起きて、餌を催促するから白身魚を蒸して、ほぐして与えた。

まだ胃が痛かったから、私はホットミルクだけを飲んだ。

お風呂に入る気力は無く、シャワー浴びてだけを浴びて、髪も洗わなかった。私の髪は腰まで長さがあって、乾かすのに手間がかかるのだった。

明日は午後から、生け花の集まりがあって、着物を着なければならないけど、私、倒れないかしら?と思いながら和室で衣紋掛けに明日着て行くつもりの訪問着をたとう紙から出して掛けて、それに帯を合わせて三本出して、帯紐を数本、帯飾りを入れているケースを出した。長襦袢と紐、足袋を二足用意した。バックも二つ出して、中にハンカチ、懐紙、花鋏、ミニタオル、お財布などを入れた。簪は毎回私は真珠をあしらった銀細工のか、鼈甲を使用していた。草履が入った箱を開けて、着物やバックに合うのを選んだ。和室に猫たちが入ってイタズラしないように入り口の襖をロックした。


明日の準備をし終えて、疲れたせいか甘い物が食べたくなって、アイスクリームを食べた。ココが食べたがったから、少しだけ与えた。アイスクリームを少しずつ舐めるココは可愛かった。子猫たちはもう寝たのか、姿を現さなかった。

歯を磨き、ココと寝室に入ったら子猫たちはベッドの上で固まって寝ていた。そっと子猫たちを動かして、ココとベッドに入って寝た。


翌朝猫たちに起こされたのだろうが、私は昼近くまで寝ていた。慌てて猫たちの餌を作り、私も軽めの食事をしてから、大忙しでシャワーを浴びて髪も洗い、半渇きの髪を結ってから、お化粧をして、着物を着付けた。昨夜準備をしていて良かったーと思いながら、超特急で身支度を整えた。


ココに、「二時間出掛けて来るから、待っててね」と語りかけてから、私は母が運転する車に乗り生け花の大先生のお宅に向かった。


私は最年少で、他の先生方から可愛がられていた。着物と帯の組み合わせを褒められて嬉しかった。

大先生に命じられるまま、他のベテランの先生方の前で花を生けた。大先生は機嫌がよろしかったのか、珍しく褒めてくださった。

お茶室に移り、大先生が点てられたお抹茶を頂いた。

猫たちの事が心配になって来て、その後の会議には参加しないで急いで家に帰った。母は車の中で寝ながら私を待っていてくれていた。


猫たちは、玄関に並んで私を待っていてくれた。ホッとした。私は素早く着物を脱いで、長襦袢姿で、猫たちの餌作りをした。

猫たちが餌を食べている間に、着物を衣紋掛けに掛けて、髪をほどいて長襦袢を脱いでシャワーを浴びて、化粧も落とした。髪の整髪剤も洗い流した。

普段着に着替えて、髪にドライヤーをかけて乾かした。浴衣に着替えて、集まりで出されて食べずに持ち帰った懐石弁当を食べた。珈琲を淹れてソファーに座って、今日生けた花の花材やイラストをノートに描いて、大先生が褒めて下さった言葉や、注意点を書いた。

猫たちは私の横に寄り添うようにして寝ていた。


両親は私が猫を飼いだしたのを好意的に受け入れてくれたようだった。ラインで猫たちの成長具合の画像や動画を送ると、猫好きの母は我が家に泊まりに来た。父も一緒に泊まりに来た。

私が健康を取り戻しつつある姿を見て喜んでくれているのが感じられた。母は子猫の中でも黒猫のルナを気に入り、抱っこしてルナと一緒に寝た。

私は父の晩酌に付き合いながら、久しぶりにお酒を飲んだ。

両親は猫たちと私の暮らしぶりに安心したようだった。私が留守にする時には、猫たちを預かるからね、とも母は言ってくれた。ありがたかった。










「不思議な部屋」シリーズの「楽しい部屋」が先行き不透明でして、新しく現在の私の話を書きました。

お読みくださると嬉しく思います!

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