「今日は4月1日。つまりエイプリルフールってことなのです。」
先輩のいない部室。残された部員は私1人だけ。誰もいない部室を見ていると、ピースが欠けたパズルのようで少し悲しい。今は春休みで学校には運動部の人しかいない。
外から走りこみをしている生徒たちの声が聞こえる。たまに聞こえるのはクラスメイトの騒いでいる声。
「先輩、今何してるのかな。」
先輩っていうのは元天文部部長で今はもう卒業しちゃった伊藤先輩のこと。私は真面目で星が大好きな先輩のことが大好きだった。でもそれは過去形でしかない。先輩とはもう会えないんだから。
こんこんとドアをノックする音が部屋に響く。天文部に来客なんて珍しい。先輩が大事にしていた望遠鏡から目を離し、音の主の方に行く。
「よっ、久しぶりだな。」
少し大人になった先輩、私が大好きな先輩がそこにはいた。
「もしかして、留年ですか? せーんぱい。」
ペシッ。頭をチョップされたー。いたーい。でも、この感じ間違いなく先輩だ。
「いや、ちょっとな、たまたま近くを通りかかったから。」
先輩のそういう素直じゃないところが可愛いんです。
「良かったらだが、おとめ座流星群、見に行かないか?」
目をそらしながらの提案。先輩の顔はほんのりと赤く染まっている。それにつられて私の顔も同じ色になっていく。
「先輩のお誘いなんて、断れるわけないじゃないですか。」
「お、おう。」
二人の間にあるのは謎の沈黙。でも不思議と心地よいものだった。
ずっとこのまま先輩といたい。だけどその願いは叶っちゃいけないよね。先輩は4月から大学生で、今の私は天文部の部長。もう会えないかもしれないと思うと先輩といるこの時間が大切なものだと思えてくる。
「善は急げっていいますし、今すぐ行きましょう。」
「あ、ああ。そうだな。」
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