Over Dimension
末弟 時神は待つ 静かな森でただ1つ
クヌギ.イシノギが過去へ飛び
その後に来る可能性のあるもう一人を……
迷いなく歩く少女
『ジェシカ.ドーソン。
今回も欠片を持ってきたね。』
その存在は少女の前に姿を現す
人型を以てして。
クヌギ.イシノギとの会話を最短で終え
少女と話す時間を優先させた。
神はもう諦めかけている。
何万回と繰り返し結果が変わらないのだ。
クヌギ.イシノギでは変えられない
ならば、この少女。ジェシカ.ドーソンなら……
過去へ送る事は出来ないが
アン.ドーソンの姉である彼女なら……
「……あんた……誰?お兄ちゃんは何処?」
少女は存在に対して訝しげな顔をする
『クヌギ.イシノギは飛んだ。
この世界には存在しない。
僕は……まぁ。君の想像に任せるよ』
「…………そう。」
前回とは違う
前回はこの言葉を聞き少女は泣いてしまった。
今回は違う。その前も……ずっと……
少女は違う行動を常に取り続けていた。
この森に来る事すら稀だ。
ほとんどは仇討ちの為、街へ行き
1000人も殺せず、殺されてしまっていた。
少女がいくら強いといえ、
数の暴力という圧倒的な力の前には
いつか終わりが訪れるのは必然
自暴自棄のまま死ぬのも
少女の願いだったのだろう
『君に聞きたいんだけど……
その欠片を貰った老婆だよね?
その時、何か言われた?』
少女は握りしめた小石を見つめ
「希望を持って死にたいなら
この欠片を持って森奥へと行けって……
そういう訳だから。さよなら」
少女はその存在に背を向け歩き始める
人型は鼠へ変わり、慌てて少女の元へ駆けより
『ちょ!?ちょっと待って!
多分それ僕に会えって事だよ!
その欠片を持ってなかったら、
僕は君に会う気がなかったから!』
少女は冷たい瞳で言い放つ
「……たかがネズミに何が出来るのよ?」
『……君。あんまり僕を舐めないほうがいいよ?』
鼠が牙を剥き出しにする。鼠の姿といえど神だ。
この世界に存在している今なら……
他の神々の力を借りている今だからこそ……
少女1人ぐらいは楽に消せる
少女は背を向けたまま、ポケットを弄り
カチャカチャと金属を、もて遊ぶ
振り向きざまに金属の先端を鼠に向け
「……舐めるですって?
あ た し は キレてるのよ!!」
森の生物全てが逃げ出そうかという
大声と殺気を放ち
鼠の存在が消え失せる
バァン!
音速を超える射撃。
…………
消え失せた筈の鼠が居た場所。
その場から尻尾の無いトカゲが姿を現し
『好きなだけやりなよ!
それが終われば僕の番だ』
その存在は、もう少女を許す気は無い
絶対権は力のある方に常に傾く
この場において強いものに常に傾き続ける
故に
この場においての絶対権は少女にあった
変わらぬ拳銃を握り、銃口をトカゲに向け
「……好きなだけ…………殺らせてもらうわ」
ポンッ 可愛い音が森に響く
『石木櫟が造った金属か……
流石に、それは喰らいたくないな……』
トカゲは舌を弾丸に向けると
弾丸は徐々に回転が弱まり
ついには中空で停止してしまっていた
『憶測だけど竜を何処か彼方へ追いやったのは
その金属だろ?そんな物に当たってやる気は無い』
トカゲは舌をチロチロ這わせ微笑む
末弟といえど時間を操る神なのだ。
この程度なら造作も無い
停止した弾丸は本来の役割を果たす事なく
使命を終え
その場で螺旋の渦を描く
時神が止めたのは弾丸の時間
弾丸でなくなった《螺旋》は通常の時を刻む
龍の息吹により弾丸を消し去った事で
本来の力が発動された事を知らない神は
暴刻の螺旋に引き摺り込まれる
『…………やっぱり待っ』
ズチュリ ズチュリ トカゲに食い込んだ螺旋は
色を大きく変える。
漆黒の螺旋がその存在を破壊し始める
『!?ガァァ!グ……クソ』
藻掻き耐える存在。
しかし耐えれば耐えるほど
螺旋は拡がり続け破壊を増していく
『ふ……ざける……なよ!!』
力の大半を絞り、その螺旋から逃げ出す
薄っすらと姿を消す事で
存在が姿が消えた森で
声が地面の1点から響いてくる
『…………石木櫟……
アイツ……どれだけの力を込めていた?』
力を使わされすぎた。
もうこの存在は姿を現せない
精々、声を届ける事が限界
ジェシカ.ドーソンには完全に
手を出せなくなってしまった。
少女が放った弾丸
最後に残された、石木櫟の忘れ形見
それは神すらも脅かす力を秘めていたのだ
少女は殻になった弾倉から
キレイな薬莢を1つ地面に落とし
改めて弾を込め直す
ガチ……ガチ
ガキ……ガキャ
すんなりと入らない歪な、殻の金属を……2発
亡きドグマ.マグナスに渡した殻の金属
少女が身につけていた殻の金属
石木櫟の弾丸は他にはもう無い。
少女にこれ以上の攻撃は存在しない
存在しない筈だ
「お兄ちゃんは、なんで3発だったのかしら?」
少女の独り言。
「試し打ちなら1発でよかったし
穴が5個も有るんだから
5発でも良かったと思うのよ」
『…………』
前提が間違えていた
失敗作だった?それは誰が決めたのか?
石木櫟か……危険という理由ならば
拳銃と弾丸は破棄していた筈だ
何故3発なのか…………
石木櫟は想いを込めていた
どんな想いを込めていたのか?
弾丸には少女を守れるように と想いを込めた
そして3発という数字に
特別な意味を込めていた
例えば何かに……そう
……例えていたのではないのか?
兄姉妹 また3人で暮らせる幸せを
望んで造られた代物だったのなら…………
石木櫟はこの世界には存在していない。
過去に飛んでしまっている。
アン.ドーソンは魂が消え天に還ってしまっている
やはりこの世界には存在しない
ジェシカ.ドーソン。彼女だけが
今この世界に存在している
離れ離れになった家族。殻になった3発の弾丸
その再開を望んだ殻の弾丸は
パァン
パァン
パァン
一瞬の奇跡を現実に引き摺り降ろす
螺旋を描いた空間が歪む。歪むなどと言った
生易しい物ではない。捻じれていく
際限なく捻じれ、捻じれ
虚空に穿たれた捻じれの中心部に亀裂が入る
亀裂を更に捻じれが拡大させていく
限界など無いかのように
その先に……少女が望んだ姿があった
「…………お兄ちゃん!!?」
違う。クヌギ.イシノギだった
青年は炎を纏った 何か と対峙していた。
しかし少女にとっては
会いたかった存在には違いない
クヌギ.イシノギがその亀裂に目を向ける
「…………ジェシカ?」
バシュリ
亀裂は消え 変わらぬ虚空が姿を現す
この世界には存在しては
ならないと拒否するかのように
しかし少女は確かに次元を破った
次元跳弾
人の力……その中でも最も強い、
想いという名の奇跡を
空間は愚か、時間までも喰らい
一瞬とはいえ、少女の望みを叶えたのだ
しかし、何が変わった訳ではない
少女は変わらず、この暗い世界に存在している
クヌギ.イシノギに一声かけただけ。
その一声で何が変わるのか……
少女は解らない。少女の行動がなければ
永遠に変わらなかった……




