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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第0章 0%の鉄板
95/123

継承

数ヶ月の間 

兄妹は穏やかに幸せに暮らしていた

辛い事、嫌な事を忘れてしまった

少女にとって幸せな時間



「兄ちゃん。鹿の肉を村の人に

お裾分けしに行くけど……」


「あたしも行く!」


青年はニコリと笑い少女の手をとる



村人達は兄妹に干渉してくる事はなかった

それどころか食べ物を支給までしてくれて

お返しにと動物の肉を持っていくと大変喜ばれた



金など持っていても価値の無い島

何も無い島。亡くした物がその島にはあった



…………



…………


それはいつものように

動物を狩る為に森へ入った時に起こった出来事



『アン.ドーソンに会いたくないか?』



「!?誰だ!」



声だけが響く。姿は見えず声だけが森全体へ

声変わりのしていない少年の声


会いたくない訳がない。

しかしアンはもうこの世にはいない


『石木櫟だっけ?君の力を借りたい。

いつでも良い。準備が出来たら、またこの森、

この時間。この場所に来てくれ』


「…………」

青年は返事をしなかった



…………


…………



「ジェシカ……兄ちゃん、これから……」

「やだ!嫌だ!」


少女は言葉も聞かずに拒否する


「お兄ちゃん。行かないで!

あたし良い子にしてるから、あたしを捨てないで」



少女は青年にしがみつく。少女には解っていた。

少女を守れるように拳銃を造り

それは失敗だったが、



今からそれに変わる何かをしようとしている

それが済めば青年は何かを捜しに行く

少女が忘れてしまった何かを……



青年は少女の頭を撫でる

「これは兄ちゃんの力だ。全部やるから……

この力がジェシカを守ってくれる」


「要らない、要らない。要らない!

あたしはお兄ちゃんが居てくれたら良いの!」



青年は腰を落とし少女と目線を合わせる

「先に言ったのはジェシカだったよな?

優先順位って奴だ」


…………


「なに……これ?」

少女の見た目は何も変わっていない

しかし溢れる万能感が小さな躰を支配する


「……失敗だ。2割ぐらいしか継承出来なかった」



少女が拒んだ。という理由が大きいのだろう

しかし2割といえど、

青年の力の2割は絶大だった




「継承?……お兄ちゃん……あたし大丈夫!

お兄ちゃんが帰ってくるまで、ちゃんと待てるわ」


少女は圧倒的な力を得たのだ

その多幸感に抗えない



「そうか。あとは……

この世界で一番信用できる人。

その人にジェシカの面倒を見てもらうから」



…………


…………




「そーゆー訳だから頼むよ。婆さん」


「……あんたが帰って来るまでだね?」


老婆は嫌々そうな顔をしつつ

青年の頼みを引き受ける




「婆さん!恩にきるよ。すぐ戻って来るから

……兄ちゃん戻って来たら

絶対にジェシカの事守るから。約束だ。」



「うん!あたし……待ってるから」



少女を老婆に預け、青年は向かう

もう一人の妹に会いに



……


………


『……来たね。適当でも良いから、神に祈ってよ。

目が覚めたらアン.ドーソンに会える』


「あんたは神なのか?」


『そうだよ。僕は末弟だけど神には違いない』


「あんたみたいな神…………まぁいいか」


青年は瞳を閉じ神へ祈る



      アンに会いたい と




…………


………………





ゆっくりと目を開ける

変わらぬ景色のはずが、

見たことも無い景色に変わっている


「なんだか……此処……」


後ろに何か気配があった。

燃え盛る熱い気配


灼熱を纏った人型

炎熱を従えた……いや炎熱そのもの



瞬時で青年は理解した。微かに残っている

「お前がアンを喰ったんだな!?」


妹の残滓を……   



青年は掌を突き出し。拳を握るように

空間ごと握り潰す



グチャリ

『…………!?』



攻撃されると気付いた時には

その存在は潰されていた


「アン…………ごめん」


青年はその存在に頭を下げる



『………………』


「は?」


青年は驚きの声をあげる

その存在は何事もないように

変わらぬ人型を創り出す



掌の無い人型を……


「……何度でも潰してやろうか!?」


『…………!!』


その存在は両腕を広げ威嚇する。


そして青年をこれ以上ない程驚かせた



    『……オ……ニイ……チャン……』



「アン!?生きてるのか!?」


『…………』

その人型は喋らない。

しかし聞き間違いでは断じて無い


「……本体がある。この人型の本体」


青年は森を見渡す。いない

瞬時に森を抜け出し


『…………』

その存在は青年の目の前にいた



一瞬で……

腕を広げ青年を待ち構えていた




再び森へと青年は逃げる

一瞬で10キロの距離を移動する



「何処だ!」


攻撃できる訳が無い。アンが生きてる。

ならばあの存在から引き離せるかも知れない



また3人で暮らせる。



……何処にも本体らしき存在がいない。


しかし本体は確実に見ている。気配がある

青年が空を見上げる


代わり映えのない空

当たり前の光景……その当たり前を直視する。

いや……直視は出来ない。視界におさめる



「……ひょっとして……あれか?嘘だろ!?」



それは、青年の元居た世界でも

当たり前に存在していた。誰でも知っている


目の前に存在する人型は、その化身…………



青年は考える。そもそも、あれに攻撃が届くのか?

届くまで、どれだけ時間がかかる?

届いたとして……破壊出来るのか?

破壊出来たとして……この世界は……終わる





逃げるか……逃げられるのか?


アンを置いて……



「ジェシカ……アン」


青年は選択しなければならない。

……天秤が揺れ動く




青年は両手を広げ

「……俺を好きにしろ!でもタダじゃ死なない!

……アンに会わせてもらう!」



『…………』

人型は腕を下ろし、ゆっくりと近づく




そして閃光の速さでクビを掻っ切り


ブシュー


青年はパタリと倒れ込む

辺りが血に染まり、人型は青年の前に立ち

薄っすらと消えていった



「ジェシカ……約束……果たせない

……ダメな兄貴で……ゴメン」



…………



…………



         ……ちゃん



      ……ぃちゃん

 


   おにぃちゃん





あぁ……そこにいたのか?

今までゴメン。もう……1人にしないから



    アンは寂しくなかったよ!



ジェシカ……俺は……俺達はここで見守ってるから



      ずっと……



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